2018年、OPECは、自ら言い出せない“駆け込み増産”を、イラン制裁を口実に実施した

 2016年の駆け込み増産の時は、2018年や今年と違い、減産を行っていませんでしたので、増産したいと、市場に前もって宣言する必要はありませんでした。

 当時は、たとえOPECが増産をしても、OPECの生産上限の目標はすでに形骸化している、という認識が市場に刷り込まれていたため、数カ月後に始める減産のために増産をしている、と気に留める報道は皆無だったと記憶しています。

 2018年の駆け込み増産は、2018年5月8日にトランプ米大統領がイラン核合意を離脱することを宣言したことがきっかけだったと筆者は考えています。そもそも、サウジやロシアなどのOPECプラスは減産期間中にあるため、自ら増産したいと切り出すことは、原油市場を混乱に陥れる(生産量の増加観測によって需給バランスが緩む懸念が生じる、OPECプラスという産油国の一大組織に一貫性がないという不安定さを露呈する)可能性があり、できなかったのだと思います。

 当時(現在もそうですが)、サウジやロシアが増産をしたいと考えるのは、輸出量を増やして目先の外貨獲得を増やす、原油生産量が増加してシェアを拡大させている米国の猛追を退ける、などのためだとみられます。

 一方で、減産を継続したいとも考えているはずです。減産実施によって原油価格が上昇すれば、単価の上昇という意味で収益を拡大できる他、原油価格の上昇を望まない消費国に対して優位に立つことができ、OPECプラスという枠組みが存在することを世界に発信し発言力を維持でき、サウジにとっては原油そのものが資産であるアラムコの企業価値を高めIPOの希望を見出すことができます。

 全体的には、払う犠牲を最小限にし(少なくともOPEC11カ国で日量2,550万バレルを維持する)、印象操作をし(OPEC減産=原油価格上昇、というイメージを刷り込み続ける)、原油価格を引き上げる、ことができればOPEC、あるいはOPECプラスにとって非常に都合がよく、そのために必要不可欠なのが、駆け込み増産なのだと言えます。

 2018年5月、減産期間中にあり、立場上、自ら増産すると言い出せない中、“助け船”とも言える出来事が起きます。それが、トランプ大統領のイラン核合意離脱です。米国単独でイラン制裁に踏み切り、2018年11月にかけてイランの原油生産量が減少しはじめるという話です。

 この核合意離脱宣言の数週間後、サウジとロシアが増産実施について言及します。そして、6月の総会で“減産順守率100%を維持する”ことを条件に、増産を可能にしたのです。増産の大義名分は、イランの減少分を補う、です。これにより、サウジやロシアは減産期間中にありながら、”駆け込み増産”ができることになったのです。

図:サウジとロシアの原油生産量 

単位:千バレル/日量
出所:※JODIのデータをもとに筆者作成
※Joint Oil Data Initiative=各国政府が整備している石油・ガスの需給データ(生産、輸出入、需要、在庫)を月次ベースで収集