相続後のトラブル回避に有効なのは「公正証書遺言」

 ところで、遺言書の形式には3種類あります。このうち、一般的に使われるものは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。実は、遺言書があっても、必ずしも遺言者の遺志に従って財産が分配されるとは限りません。

 特に、自筆証書遺言の際に問題が生じることがあります。自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。検認を受け、相続人の誰からも異議がない場合、遺言書を提示すれば、不動産等の相続登記は可能ですが、銀行に預金の払戻しを請求しても、「他の相続人全員の承諾書」または遺産分割協議書を要求されることが一般的です。これは、たとえ検認済みであっても遺言の真偽をめぐって争いが生じるおそれがあるからです。

 さらに、家庭裁判所が発行する検認済証明書に「相続人○○は、この遺言書の筆跡に疑義があると陳述した」などの記載があれば、不動産等の相続登記もできません。これは、法務局は権利を確定する機関ではなく確定した権利を公示する機関であるため、遺言自体に疑義があるものに権利確定させるわけにはいかないからです。

 それゆえ、相続後のトラブルを避けるためにも、公正証書遺言を作成しておくべきです。公正証書遺言は公文書なので、家庭裁判所による検認手続きは不要であり、遺産分割協議書がなくても登記することが可能です。これによれば、私文書である自筆証書遺言のような問題が生じるおそれはありません。

 ちなみに、遺言者にとって望ましい遺産の分割であると思っても、分割のバランスが悪くなってしまうと相続税が支払えないなどの事後的トラブルが発生します。本来であれば、土地については、納税に充てる土地、賃貸マンション建築などに有効活用する土地、自宅として残す土地の3つに分けて遺産分割を行う必要がありますが、遺言書にそれが考慮されていない場合、結果的に小規模宅地の特例などが適用されず、相続人は納税に苦慮することになります。

岸田康雄
島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

※この記事は2018年12月31日に幻冬舎ゴールドオンラインサイトで公開されたものです。

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