原油市場の58ドル到達をけん制する今回のトランプバズーカ

 今回のトランプバズーカは、なぜ2月25日だったのでしょうか。この点を考える上で、2018年11月20日のトランプ氏のツイートに注目します。

54ドルまで下がって好ましい!かつては82ドルだった(2018年11月20日)。

ーーOil prices getting lower. Great! Like a big Tax Cut for America and the World. 
Enjoy! $54, was just $82. Thank you to Saudi Arabia, but let’s go lower!

 これはトランプ氏が大統領に就任後初の原油価格について言及したツイートです。この82ドルとは、どのような値位置なのでしょうか。

 この「82ドル」は、以下の図の通り、過去12カ月平均ベースで見て、リーマン・ショック直前直後につけた高値(107ドル)と安値(58ドル)のちょうど中間に当たります。

図3:WTI原油価格の過去12カ月平均と実価格 

単位:ドル/バレル 
出所:CMEのデータより筆者作成

 この82ドルを「かつての高値」と感じているとすれば、この82ドルを中心とした58~107ドルの価格帯そのものを高いと感じている可能性が出てきます。

 原油価格は年初から上昇し、先日の原油高とOPECをけん制するツイートがなされた2月25日は急落する直前まで57ドル台後半で推移していました。

 原油価格が、トランプ氏が高いと感じると想定されるレンジの下限(58ドル)に差し掛かりつつあったため、ツイートがなされたと可能性があります。

図4:WTI原油価格の過去12カ月平均と実価格

単位:ドル/バレル
出所:CMEのデータより筆者作成

 

原油市場がトランプ氏を意識している以上、今後もトランプバズーカは市場を動かす

 3月4日現在も12カ月平均ベースで58ドルを上回る状態が続いています。このため、引き続き、トランプ氏による原油高・OPECをけん制するツイート(トランプバズーカ)が放たれる可能性があるとみています。

 仮に、実価格が上昇し、58ドルを超えた状態が継続すれば、12カ月平均価格が58ドルを割り込む時期が遠のくことになります。さらなるトランプバズーカが回避されるためには、実価格ができるだけ58ドルを超えない状態で推移することが望まれます。

 2月25日のツイートについて、いままでのツイートと異なる点を挙げるとすると、OPECに対し、筆者が確認した中で初めて「Please」を使いました。

 例えば、以下のとおり、2018年は命令口調のツイートが目立ちました。

今すぐ価格を下げろ!(2018年7月4日)

ーーThe OPEC Monopoly must remember that gas prices are up & they are doing little to help. If anything, they are driving prices higher as the United States defends many of their members for very little $’s. This must be a two way street. REDUCE PRICING NOW!

世界は、高い原油価格を見たくないし必要としていない!(2018年12月5日)
ーーHopefully OPEC will be keeping oil flows as is, not restricted. The World does not want to see, or need, higher oil prices!

しかし、2019年2月25日のツイートは次のとおりでした。

どうかリラックスしてください(2019年2月25日)

ーーOil prices getting too high. OPEC, please relax and take it easy. World cannot take a price hike - fragile!

 この文言があったことで、今回のツイートによるけん制力は、さほど強くない、むしろやや弱い印象を与えるものとなったと言えます。

 ただ、トランプ氏が「Please」を使った裏には、今後さらに原油価格が上昇した場合、さらに強いけん制が行われる余地があると言えます。

 今後、原油価格が、明確な上昇傾向を示したり、産油国の会合で原油高を発生させる施策が決まりそうになったりした場合、けん制のツイートが増える可能性があります。

 状況によっては、2018年のような強い口調でのけん制も想定されます。

 特に4月17~18日にOPEC総会、OPEC・非OPEC閣僚会議があり、このような会合前に強い口調のツイートが増える可能性がある点に注意が必要です。

 いずれにせよ、およそ80日ぶりになされたツイートによって、原油価格が大きく動いたことは、原油市場が2018年同様、トランプ氏を原油市場の直接的な変動要因とみなしていることが明らかになったといえます。

 たった数十文字のつぶやきに一喜一憂する原油市場は、まるでトランプ氏へ畏怖(いふ)の念を抱いているかのようです。

 82ドルというトランプ氏の過去のつぶやきを参照し、過去12カ月平均価格に着目すること、そしてトランプ氏が高いと感じると推計されるレンジの下限58ドル、ここに原油価格が差し掛かるとツイートがなされる、という推測は、あくまで筆者の考えの域を超えません。

 しかし、原油市場がトランプ氏のけん制(トランプバズーカ)を強く意識している以上、やはり、次のけん制時も今回同様、一時的に動揺する可能性があり、この点についてあらかじめ警戒をする意味で、58ドルという水準を意識する必要があると考えています。