本レポートに掲載した銘柄
トヨタ自動車(7203)、ミネベアミツミ(6479)、ディスコ(6146)、SCREENホールディングス(7735)
トヨタ自動車
2018年3月期1Qは10.6%営業減益
トヨタ自動車の2018年3月期第1四半期(1Q:2017年4-6月期)は、売上高7兆476億円(前年比7.0%増)、営業利益5,743億円(10.6%減)となりました。
地域別営業利益を見ると(表2)、北米が前年1Q1,714億円から今1Q892億円と大幅に悪化しましたが、これはSUV(スポーツ用多目的車)、ピックアップトラックが順調に伸びたものの乗用車が不振だったこと、販売奨励金が増加したためです。
アジアも、インドネシアの悪化などが響き前1Q1,274億円、今1Q1,043億円へ減益となりました。
一方で、日本は前年1Q2,903億円から今1Q3,192億円へ増益となりました。国内向けの新車「ルーミー」「タンク」が好調だったこと、北米向けSUVの輸出が増えたことによります。
欧州も「C-HR」などが好調で、前年1Q90億円→今1Q203億円へ増益となりました。HV(ハイブリッド車)がよく売れており、欧州におけるトヨタのHV比率は2016年(暦年)の32%から、2017年1-6月期は40%と上昇しました。
中南米、オセアニア、アフリカ、中近東では、中南米、オセアニアが好調で、前1Q273億円→今1Q386億円となりました。
今1Qの全体の利益増減分析は表3のごとくです。為替は前年1Qに対して円安だったため、輸出による円安メリットが発生しましたが、外貨建て品質関連費用(タカタのエアバッグ問題などによる)にかかる為替差損が生じたため、為替の影響は全体ではマイナスになりました。また、原価改善努力を北米の販売奨励金の増加、減価償却費、研究開発費の増加等(「販売面の影響」と「諸経費の増加ほか」)で打ち消す形になりました。
表1 トヨタ自動車の業績
表2 トヨタ自動車の地域別営業利益
表3 トヨタ自動車の営業利益増減要因
2018年3月期通期会社予想は円安で上方修正
2018年3月期通期の会社予想は、上方修正されました。営業利益の会社予想は前回の1兆6,000億円(前年比19.8%減)から、今回は1兆8,500億円(7.2%減)になりました。
第2四半期(2Q)以降の業績回復のポイントはまず円安であり、前回の今期為替前提1ドル=105円、1ユーロ=115円から、1ドル=110円、1ユーロ=124円に円安に見直したことです。上方修正は円安でほぼ説明できます。また、原価改善努力を販売奨励金や諸経費の増加で打ち消す傾向が続く見通しですが、会社側は8月後半から北米で本格販売する新型「カムリ」によって販売奨励金を減らすことができると考えています。そして、会社側は一層の原価低減で減益率をより縮小したい意向です。
マツダと資本業務提携
8月4日付で、トヨタ自動車とマツダは、業務資本提携に関する合意書を締結したと発表しました。内容は以下の通りです。
(1)米国で完成車の生産合弁会社を設立する
トヨタとマツダは米国で合弁会社を設立します。そして、総額16億ドル(約1,760億円)を投資し、年産30万台規模の新工場を建設します。トヨタは「カローラ」を、マツダはSUVを生産する計画です。
(2)EV(電気自動車)の共同技術開発
(3)コネクティッド・先進安全技術を含む次世代の領域での協業
(4)商品補完の拡充
現在マツダのメキシコ工場から米国のトヨタ向けに「デミオ」ベースのコンパクトセダンを供給しています。これに加え、日本でトヨタからマツダに小型商用2ボックスバンを供給します。
(5)株式持ち合い
トヨタはマツダの第三者割当増資を引き受け、マツダ株式の5.05%、500億円を取得します。また、マツダはトヨタの自己株式処分によりトヨタ株式を500億円分(持株比率0.25%)取得します。
足元では新型「カムリ」の売れ行き、中長期ではEV開発の進捗がポイント
足元の為替レートが変動しているため、会社の前提為替レートが実現するのか不透明です(為替感応度は1ドル当たり1円の円安で営業利益に対して400億円のメリット、1ユーロ当たり1円の円安で50億円のメリット)。原価低減も、材料費が上昇しているため、より多くの成果を挙げるには限界があります。
そこで、車の売れ行き、特に業績が悪化している米国での売れ行きが重要になります。セダンに逆風が吹いている中で、新型「カムリ」がどこまで売れるか。会社側は月間3万台を目標にしていますが、これは7月の3万3,827台(前年比0.9%減)よりも低い台数であり、控えめな目標です。これを達成できるかがポイントになります。
中長期的な課題はEVへの対応です。トヨタは、CO2ゼロに向かう技術の流れをHV→PHV(プラグインハイブリット車)→EV→FCV(燃料電池車)としており、最終的な到達点をFCVとしてEVを重視してきませんでした。しかし現実には、欧米、中国、インドでの規制の動きはEV推進となっているため、トヨタの目論見は外れた形になっています。
一方、トヨタは社長直轄プロジェクトで、デンソー、アイシン精機などグループ各社を巻き込んでEV開発を行っています。2020~2021年にEV量産車を発売する計画になっている模様ですが、前倒しになる可能性もあります。
また、次世代電池である全固体リチウムイオン電池を搭載したEVを2020年代前半に発売する計画です。全固体リチウムイオン電池は、従来の液体電解液を使ったリチウムイオン電池よりも、小型軽量で航続距離が伸びる新型電池です。全固体電池の実車搭載は従来2020年代後半以降と言われてきたため、トヨタが2020年前半に新型電池を実車搭載する計画であることはサプライズです。
ただし、テスラ、BMWなど海外メーカーはEVの量産車種をすでに販売しており、日系メーカーでも、日産自動車が9月に新型「リーフ」を発表、発売すると言われています。それに比べると、トヨタは今後少なくとも2~3年間は電気自動車がない状態が続くことになります。また、トヨタがEVに本腰を入れることによって、世界のEV開発、販売競争が激化すると思われます。これらのことを考えると、トヨタがEV時代に勝者となれるかどうか、判断には時間がかかりそうです。
SUBARUとの提携、スズキとの提携交渉に続き、マツダとも提携することで、緩やかながら「トヨタ連合」とも言うべき企業間連携が形成されることになります。今後の進展が注目されます。投資判断については、私はこれまで自動車セクターから他セクターへの乗り換えを提案してきましたが、自動車セクターの株価はいったん下げ止まったと思われ、銘柄によっては上昇も期待できると思われます(たとえばスズキです)。今のところトヨタ株が大きく上昇することは考えにくいですが、今後の材料(特にポジティブな材料)に注意するスタンスをとりたいと思います。
表4 トヨタ自動車の地域別販売台数(連結ベース)
ミネベアミツミ
2018年3月期1Qは営業利益2.4倍
2017年1月27日付で、ミネベアとミツミが株式交換によって経営統合してミネベアミツミとなりました。ミネベアのミニチュアボールベアリング、液晶向けLEDバックライトと、ミツミのスマートフォン(スマホ)カメラ用アクチュエーター、ゲーム機受託生産、一般電子部品が統合されたユニークな電子部品会社です。
2018年3月期1Qは60.6%増収、営業利益2.4倍となり、大幅増収増益となりました。前年第4四半期(4Q)から連結対象となったミツミ事業が大きく寄与しました。ミツミ事業では、ゲーム機(同社のような電子部品会社は納入先の顧客名、機種名をコメントしませんが、ニンテンドースイッチと思われます)の受託生産、受託先への電子部品の販売が寄与したことに加え、スマホカメラ用アクチュエーターが北米向けに伸びました。
また、ミネベア事業ではLEDバックライトが北米向けに当初予想よりも好調でした。ミニチュアボールベアリングは航空宇宙向けが不調なものの、家電、自動車向けが好調でした。
LEDバックライト、スマホカメラ用アクチュエーターについては、ほかの電子部品メーカー同様、iPhone7シリーズが予想よりもよく売れた恩恵を受けたと思われます。
ちなみにセグメント別営業利益(表6)を見ると、ミニチュアベアリングが入る「機械加工品」の営業利益は今1Qは高水準ながら横ばいだったのに対して、LEDバックライトが含まれる「電子機器」は大幅増益となり(前年1QはiPhoneの生産調整がありました)、それにミツミ事業の営業利益38億円が加わりました。
表5 ミネベアミツミの業績
表6 ミネベアミツミ:セグメント別売上高と営業利益
2Qは業績続伸へ
今2Qは1Qの水準から、さらに業績が伸びると予想されます。LEDバックライト、スマホカメラ用アクチュエーターは、スマホカメラ用アクチュエーターで中国スマホの在庫調整の影響があるものの、今秋発売の高級スマホ向けの出荷増加が予想されます。
ゲーム機受託生産については、今のところ2Qが生産のピークになる見込みです。ただし、現在の増産にもかかわらずニンテンドースイッチの品不足が解消しない場合(任天堂の見方よりも需要が強い場合)は、高い生産水準が3Qに入っても続く可能性があります(おそらくこうなる可能性が高いと思われます)。
2018年3月期会社予想業績は、1Qの結果を見て、表5、表6のように上方修正されました。営業利益は従来予想の560億円(前年比14.3%増)から670億円(36.7%増)へ上方修正されました。ただし、ゲーム機の生産水準や米国系、中国系の高級スマホの売れ行きによっては、さらなる上方修正の可能性があります。
株価は割安
ゲーム機受託生産は今期から2020年3月期まで高い伸びが期待できます。スマホカメラ用アクチュエーターも北米向けではアルプス電気に次ぐシェアが確保できている模様です。これらの成長分野と安定収益源のミニチュアベアリングが業績を牽引すると予想されます。
一方でLEDバックライトは、高級スマホ市場において液晶ディスプレイのシェアが低下し、LEDバックライトを使わない有機ELディスプレイがすう勢的に増えると思われることから、来期以降緩やかに減少する可能性があります。この点は当社株価のディスカウント要因と思われます。
ただし、今期については好業績で上乗せ期待があります。株価は一段高が期待できると思われます。
ディスコ
2018年3月期1Qは営業利益2.2倍
2018年3月期1Qは、前年比で42.0%増収、営業利益2.2倍となりました。前4Qの売上高388億円、営業利益103億円に対して今1Qは売上高444億円、営業利益151億円となり、前四半期比でも大幅増収増益となりました。
会社側の今1Qの見方はもともと強気ではありませんでしたが、実際には顧客の半導体メーカーでメモリ投資が継続的に行われており、セラミックコンデンサなどの高級電子部品の分野でも積極的な設備投資が行われています。そのため、例年よりも同社にとって採算のよい受注が増えた模様です。また、半導体工場の稼働率上昇に伴って、消耗品(ブレード=刃)の売り上げも増加しました。
表7 ディスコの業績
グラフ1 ディスコの受注高、売上高、受注残高
会社予想では2Q、3Qは前四半期比減益だが、上方修正の可能性がある
会社側は6カ月先までの予想を開示しています(1Q決算時は2Q、3Q業績予想を開示)。その内容を表7に示しましたが、今1Qに対して2Q、3Qは前四半期比で減収減益になる見込みです。ただしこの会社予想は、確度の高い受注から導いたものであり、今後の受注動向によって上乗せされる可能性があります。
表7には楽天証券の今期(2018年3月期)の業績試算も掲載しました。NAND型フラッシュメモリ、DRAM、各種ロジック、トランジスタなどのディスクリート半導体、セラミックコンデンサなどの電子部品など、半導体、電子部品の広い範囲で工場がフル稼働になっており、活発な設備投資が続いています。
前期からのディスコの好業績はこの動きを反映したものです(会社側も今回のブームではユーザーの用途<アプリケーション>が幅広いとしています)。このため、2Qにいったん受注と売上高が減少したとしても3Qに再び持ち直す可能性があります。
上値の余地は大きいと思われる
今期の楽天証券業績試算によると、ディスコの今期予想PER(株価収益率)は20~21倍で東京エレクトロンやSCREENホールディングスに比べて低くはありませんが、割高でもありません。中期的に上昇余地は大きいと思われます。当面は2万円台乗せが意識されるところです。
SCREENホールディングス
2018年3月期1Qは24.8%営業増益
2018年3月期1Qは、表8のように17.2%増収、44.2%営業増益となりました。
SE(半導体機器)事業が順調に伸び、SE事業、全社とも前1Qを上回る業績となりました。今1QのSE事業は売上高465億円、営業利益64億円(前1Qは同じく412億円、43億円)と好調でした。SEの受注も前1Q491億円から今1Q529億円に堅調に伸びました。
SE事業の今1Q受注高529億円は、直近ピークの前3Q648億円、2番目のピークの前4Q581億円よりも低い数字になっています。前3Q、4Qはファウンドリ(半導体受託製造業者)向けが好調で、今1Qはファウンドリ最大手のTSMCの設備投資が一服したため受注は前3Q、4Qよりも減少しましたが、メモリ向け(NAND型フラッシュメモリ、DRAM向け)が伸びました。また、1Qは2番手以下のファウンドリの投資は活発でした。会社側は足元の受注は高水準で、急に落ちる気配はないと考えています。
FT(ディスプレー製造装置および成膜装置事業)も好調でした。FTの今1Q受注高は110億円で前1Q111億円と同水準でしたが、有機ELディスプレイ向けが30%以上を占めるようになりました(前期は約30%が有機EL向け)。
表8 SCREENホールディングスの業績
グラフ2 SCREENホールディングスの受注高
表9 SCREENホールディングス:セグメント別損益動向:四半期ベース
表10 SCREENホールディングス:セグメント別損益動向:通期ベース
2018年3月期会社予想は上方修正された
今1Qの業績を見て会社側は2018年3月期上期、通期業績予想を上方修正しました。営業利益は従来予想の上期140億円、下期200億円から、今回予想は上期152億円(前上期121億円)、下期218億円(同215億円)に、通期予想は前回予想340億円から今回予想370億円(前期337億円)に上方修正されました。
前4Qの業績水準が高かったため、今期会社予想はなお控えめと思われます。高水準なメモリ設備投資が続きそうなこと、2Q以降にTSMCの設備投資が回復する可能性があること、中国で計画されている複数の大型半導体設備投資計画からの発注を1Qから受注していることを考えると、さらに業績上乗せの可能性がありそうです。特に、今期は7ナノ向け設備投資が本格化するため、当社の洗浄装置の需要が拡大すると思われます。
また、FT(フィグラテクノロジー)事業でも韓国、中国のディスプレイ大型設備投資計画が動いています。
このため、2018年3月期営業利益は会社予想の370億円に対して390億~400億円になる可能性もあると思われます。
予想PERは割安、投資妙味を感じる
7ナノ投資の本格化、業績の上乗せ期待を考えると、足元の15倍以下のPERは割安と思われます。当面は9,000円台への上昇が期待されます。
本レポートに掲載した銘柄
トヨタ自動車(7203)、ミネベアミツミ(6479)、ディスコ(6146)、SCREENホールディングス(7735)