9月に注目したい新興株の動き

 ようやく一息ついた新興株ですが、一息ついただけに過ぎないとも言えるところ。先月のコラムでも書きましたが、「マザーズ指数が1,000ポイント割れた」とか水準的なこと自体には意味がないからです。指数を構成する銘柄に買う価値があるのか?といったファンダメンタルズ的な裏付けがあるかどうか…でいえば、8月の決算発表シーズンを通過し、ますます怪しくなっています。

 マザーズ指数のウエイト上位銘柄では、メルカリ(4385)が業績予想を開示しなかったことで安値更新を続けています。サイバーダイン(7779)も赤字継続は想定内とはいえ、第1四半期に売上が減少しました。株価は上場した2014年以来となる1,000円割れとなり、目下では800円台前半で上場来安値を更新中。指数をけん引すべき銘柄が業績で売られていますよね。

 そのムードを吹き飛ばす力を持つのは、本来であればニューカマー、新規上場株であって欲しいところ。ただ、こちらにも不信感が強まりました。3月上場の和心(9271)が通期予想の大幅下方修正で暴落。同じく3月上場のリビング保証(7320)が、上場後では初のガイダンスで今期営業減益見通しを出して急落。4月上場のコンヴァノ(6574)が、第1四半期いきなり大幅減益での着地(通期予想は大幅増益見通し)で失望売り殺到。7月上場のロジザード(4391)もガイダンスがいきなり減収予想など…。3年前の2015年に「上場ゴール」という言葉が飛び交った時期がありました。この2015年も年間安値を8月下旬の決算発表通過後に付けましたが、今は当時と似ているようにも見えます。

 8月後半の巻き返しで、東証マザーズ指数は1,000ポイントを奪回して9月に入っています。とはいえ、業績面のポジティブニュースが少ないだけに、本当に「その1,000ポイント割れはオイシイのか?」という疑問は残りますよね。実際、マザーズの予想PERなど見る限り、到底オイシイとは言えないのが現状といえます。

 例えば、「もし、またマザーズ指数が942ポイントの終値ベース安値を付けたとき、そこは買い場なのか?」を考えてみましょう。この942ポイントのマザーズの予想PERは何倍か?というと、「64.7倍」(日経予想ベース)です。8月末の1,049ポイントでは73.7倍になります。これは高いのでしょうか? はっきり言えば、ものすごく高いです。

 今年のマザーズ指数の終値ベース高値は1月24日の1,355ポイントです。このときの予想PERは72.2倍…この当時より指数は2割以上も下げているのに、予想PERは今と変わらないわけです。つまり、予想EPSが下がったということ。これは、業績を下方修正した企業の影響もありますが、それ以上に①マザーズの好業績企業がマザーズから抜けたこと(じげん、レノバ、オロなどが東証1部へ昇格)、②利益が小さい割に時価総額が大きい(IPOプレミアムで高く評価され過ぎている)新規上場株が増えていること―が理由といえます。

 これが日経平均やTOPIXとの違いです。株価が下げるとき、“ファンダメンタルズは強い”という下値の支えになる概念があるかないか…。例えば、日経平均の今年の終値ベース安値は3月23日の2万617円です。この日の予想PERは12.5倍。一方、8月末の終値は2万2,865円と当時より1割高いのに、予想PERは12.9倍とほぼ一緒です。では、マザーズはどうか?というと、1年前に1,000ポイント割れした9月安値時の予想PERは40.6倍。それに対して、今の予想PERは70倍台なわけですから、同じ1,000ポイントでも意味が違います。

 また、9月は日本企業の中間配当シーズンです。今回の9月配当分は日経平均で約156円と過去最高になると試算されています。これも下支え要因になるでしょう。ただ、配当がほとんどないに等しいマザーズは、ここでも東証1部とは違います。新興株全体が持ち上がる要素が少ないなか、今月も多くの市場参加者は個別株で勝負といった空気にしかなり得ないでしょう。

 前述の通り、業績のポジティブサプライズが少ない今のマザーズ市場。上場銘柄数は259ありますが、現時点で売上げ、利益ともに上方修正した銘柄数は7しかありません。その7銘柄は、8月の値上がり率ランキングにも入っていたJMC(5704)のほか、ダブルスタンダード(3925)ラクスル(4384)ビリングシステム(3623)CRI・ミドルウェア(3698)エヌピーシー(6255)バンク・オブ・イノベーション(4393)。この中の複数が8月に逆行高していたことを思うと、数少ない業績で買える銘柄には、消去法的に買いが来ていることが想像できます。この7銘柄に追随するような、業績ポジティブサプライズ銘柄が出てくることを願うばかり。選択肢がまだ少ないだけに、業績で見所があることを示した銘柄には平常時以上のポジティブインパクトが発生するでしょう。