<指数パフォーマンス比較~バリュー株orグロース株どっち優勢?~>

8月の中小型株ハイライト「グロース株の静かなる逆襲」

 大波乱の8月相場、とは言っても「歴史的急落」局面は最初の3営業日だけ。その後は月末まで驚異の修復力を示し、日経平均株価でいえば8月の月間騰落率はマイナス1.3%と、前月比だけで見れば「大きな変化の無い」ある意味拍子抜けする決着でもありました。

 7月末に日本銀行が政策金利を0.25%に引き上げ、会合後の記者会見で植田和男日銀総裁がタカ派姿勢を見せたことで円が暴騰。日米金利差を理由に積み上がっていた円キャリー(円を売ってドルを買う)の解消は、多くのリスク資産解消の形で連鎖していきました。

 そこに日本株(といっても大型株や指数先物を指しますが)もあり、5日の日経平均株価は前日比4,451円安という歴代最大の下げ幅を記録しました。

 直接的に関係のないスタンダードやグロース市場も巻き込まれ、5日の東証グロース250指数はマイナス15.8%の大暴落。この日はプライム市場の大型株ですらストップ安張り付きの異常事態となる中、東証グロース市場もストップ安銘柄が乱発しました。

 証券各社の追証件数が過去最大になっていると伝わる中、「追証回避や強制決済といった信用に関連する売りが今後も続く」といった不安感が広がります。焦点は需給だけ…まさに売りが売りを呼ぶ格好で価格破壊が起きました。

 歴代でも最大の下げ幅となった5日の極で、「あれは何だったの?」レベルのV字回復を示したわけですが、この5日に付けた東証グロース250指数の安値は485ポイントでした。

 これは2013年2月以来ということで、実に11年前へとUターンしたような水準です。それが、8月末終値では669ポイントと、安値比で38%も上昇。下落分を全部取り返し、8月プラスで終えるとは…それも驚きでした。

 160円台から145円近辺へと急激に円高修正したことで、個別株では円高メリット株が選好されました。中小型株でも、とくにグロース株は国内完結型のビジネスモデル(内需株)が大半。

 為替と無関係であること、7月までも大きく逆行安していたため出遅れ感が市場全体にあったこと、そして9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げが確実視されていることがグロース株見直しの理由になったと振り返られます。

 中小型主要指数の中でも、8月の月間プラスは東証グロース指数だけ。その東証グロース市場は、逆行高となりながら、市場全体の売買ボリュームは減退していました。

 東証グロース市場の1日当たりの売買代金平均は、1月~7月の1,425億円に対し、8月は1,297億円。日経平均が超ハイボラ化した8月相場にあって、日経平均の2倍変動するよう設計された日経平均レバレッジ・インデックスETF(上場投資信託)や人気の高い大型株に資金が向かった影響が考えられそうです。

 東証グロース市場に対する物色意欲が高まったわけでもないのに、なぜ逆行高できたのか? これは、5日にかけた売りが売りを呼ぶ展開にあって、含み損の大きな東証グロースの信用買い残のロスカットが加速したことが考えられます。

 二市場の信用買い残も、金額ベースでは8月第1週に13年ぶりの減少率を記録しました。ここで将来的な戻り売り圧力が大幅軽減され、その効果が「閑散に売りなし」の形で現れたものと想像できます。

新NISAで中小型株!今月の銘柄アイデアは…「機関」の買い始動

 チャート上に、永久に消せない傷跡を残した8月の暴落。安値となった8月5日に向けた暴落局面で、含み損のまま抱えていた「売らざるを得ないポジション」を持つ「売らざるを得ない投資家」が一気に整理された…それが永久に消せない傷跡でもあり、その後の株価修復につながる大きな一歩にもなりました。

 信用買い残の激減が示す通りで、信用買い残という「近い将来の売り圧力」が整理され、「閑散に売りが少ない」空気が醸成されました。薄商いのままでスムーズに値段を切り上げられる地合いは9月にも持ち越されています。

 改めて、株というのは「買いが増える」ことも大事ですが、「売りが減る」ことも同じように大事だと感じます。ちなみに、東証グロース市場の8月の流動性上位10は以下のような銘柄でした。

【東証グロース】8月の流動性TOP10

コード 銘柄名 売買代金
25日MA
(億円)
予想PER
(倍)
215A タイミー 105 86.2
7776 セルシード 83 -
5253 カバー 66 21.8
9166 GENDA 36 46.6
2160 ジーエヌアイG 36 16.2
4882 ペルセウスプロテオミクス 36 -
4883 モダリス 30 -
190A Chordia Therape 30 -
4597 ソレイジア・ファーマ 29 -
5595 QPS研究所 28 -

 売買代金トップは、直近上場のタイミー(215A)ですが、2位以下で目立つのが赤字のバイオ株や宇宙関連株。予想PER(株価収益率)が「―(横線)」は、今期の最終利益予想が赤字ということです。

 短期的な業績は度外視、人気度だけで活発に売買がされているケースが多く、その資金属性はデイトレタイプの短期資金。出入りが活発なだけで、バイ&ホールドを前提とする機関投資家の資金が入っているとはいえません

 金利低下や円高耐性でグロース株のパフォーマンスが好転しているとされますが、幅広い投資家の参入で活気付いているわけではない…ここに伸びしろを感じるところ。

 出入りの激しい短期資金以外の属性の流入が望まれますが、その代表格は投信マネーです。その投信では、米国株やインド株や世界株に日本国民の資金が流れる構図となっています。日本株型でも、高配当株か日経平均連動タイプの人気があります。

 圧倒的にパフォーマンスが悪かったことで、中小型株や成長株ファンドは資金流出が続いてきました。お金が入らない投信からはお金も流れてこない…それが中小型株や成長株でした。その状況に変化が起きています。9月2日に、野村アセットマネジメントが久々の国内株投信を設定、その名は「野村日本新鋭成長株ファンド」でした。

 この手のファンドは販売面で苦戦を続けてきたわけですが…同ファンド、当初設定額で477億円も集まったと公表されています。上場して10年未満のグロース株を投資対象とするため、流動性などを考えて新規の購入受付を一時停止することも決めたようです。

おそらく、中小型グロース株のパフォーマンスが良くなってきたことも大きいと思われます。個人マネーがこうした投信に流れ始めると、ファンドマネジャーによる銘柄選定で、長期保有前提のファンダメンタルズを考慮した物色が市場で発生します

 ここ数年低パフォーマンスにあえいだ中小型のグロース株市場ですが、これは明るい兆しと断定できます。機関投資家の始動は、彼らの投資対象となり得るサイズ感(時価総額)の銘柄に恩恵がもたらされそう。

 今回は、中小型グロース株ファンドへの資金流入が今後広がりを見せることを想定した場合に、その恩恵を受けられる銘柄を考えてみましょう。機関投資家の買いで上値を切り上げている銘柄は、「株価が高値圏にあるのに信用買い残が少ない銘柄」を探すことでたどり着けます。

 サイズ感があり、信用買い残比率が低く、その中で8月の上昇率が市場全体をアウトパフォームし、そしてアナリストもしっかり調査対象としているグロース株をピックアップしました。

機関投資家の買い資金流入がグロース株
【条件】
(1)グロース上場で時価総額300億円以上
(2)信用買い残比率3%未満
(3)カバーするアナリストが2名以上
(4)8月月間上昇率が3.2%(グロース250指数)以上
※時価総額大きい順

コード 銘柄名 信用買い残
比率
8月
騰落率
141A トライアルHD 0.6% 24%
9166 GENDA 1.9% 31%
215A タイミー 2.6% 41%
4478 フリー 0.8% 14%
7157 ライフネット生命保険 0.7% 4%
7685 BuySell Tech 0.6% 35%
4051 GMO-FG 1.8% 13%
4431 スマレジ 1.5% 6%
4417 グローバルセキュリティエキスパ 0.7% 22%
9164 トライト 1.9% 5%

 条件を満たす銘柄の中での時価総額上位3銘柄(トライアル、GENDA、タイミー)は、東証グロース市場全体での時価総額上位3銘柄であることも興味深いところです。しかも3銘柄そろって8月以降に上場来高値を更新しており、上値をすでに機関投資家が買い上げているのは明らか。

 機関投資家から需要が高まると、アナリストのレーティング付与も増えてくるのが中小型株。長らく米金利上昇に苦しめられた市場が、今月のFOMCで濃厚とされる米利下げを転機に復活することに期待! 東証グロース250指数は、まだ年初来マイナスです(修復余地アリ)。