CASE07:後をたたない不祥事会見、企業倫理は「再生」できるか?

やっぱり企業再生の教科書!
ドラマを見るとしっかり再生の基礎が学べる

 このドラマのいいところは、ドラマでありながら、M&A(企業の買収や合併)や企業再生の基本が自然と学べてしまう「教科書」になっていることです。

 1~6話中、鷲津は、買収を決断する前に必ず現場に足を運び「再生可能か」見極めることから始めています。投資ファンドにできることは、買収して財務をたて直すことまでです。財務をたて直した後「稼ぐ会社」に変われるか否か、そこをしっかり見極めてからでないと買収に乗り出すことはできません。ドラマ中、鷲津の御眼鏡に適ったのは『日光みやびホテル』『あけぼの』など、乱脈経営で財務が悪化しているが、何か「キラリと光るもの」を持っている企業のみ。すべて「再生の教科書」に適った企業だけです。

 7話で鷲頭は『帝都重工』を「大株主になって財務をたて直すだけでは稼ぐ会社に変わらない」と見抜きます。『帝都重工』自体は、日本を代表する名門企業であり、航空機・鉄道などでキラリと光る「すぐれた技術」を持っていることは容易に想像できます。ただし、現場の役員にまで不正を隠す体質が染み付いていることを知り、大株主になるだけでは会社を変えられないと判断し、秘策を打ち出します。それがうまくいくのか、最終回で明らかになるでしょう。

 ところで、第7話に登場する『帝都重工』にモデルはあるのでしょうか? ピッタリ一致する企業はありませんが、あえて言えば『帝都重工』は「2018年までに不正会計や不祥事をおこした日本企業を凝縮したような会社」として描かれているようです。

「経営者が何代にもわたり、不正会計を隠してきた」話は、2011年に10年以上にわたり「損失飛ばし」を隠してきたことが発覚したオリンパスを思い起こさせます。一時、上場廃止の危機におちいりましたが、なんとか立ち直り、今は立派な成長企業となっています。世界シェア8割を握る「内視鏡」の高い技術力が、成長のドライバーとなっています。

 食品業界では、使用期限切れ原料の使用や、原産地偽装の問題が次々と発覚しました。建設業界では、マンションくい打ち工事の不正で、マンションが傾く問題が起こりました。2017年には、神戸製鋼所の品質管理データ改ざん問題が発覚しましたが、これも氷山の一角で、今もデータ改ざんが明らかになって陳謝する企業が、毎日のように発表されています。

 この問題は、民間企業だけに留まりません。最近、中央省庁による、「議事録の書き換え」や「障がい者雇用の水増し」も発覚しています。こんな問題はいったい、いつまで続くのでしょうか…。

 

解説:窪田 真之(くぼた まさゆき)
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト

 

「ハゲタカ」7話おさらい

 時は2018年、平成最後の夏。日本を代表する名門重工業メーカー『帝都重工』で「データ改ざん事件」が発覚し、一大スキャンダルとなった。日本ルネッサンス機構の飯島(小林薫)は芝野(渡部篤郎)にこの一件に関する処理を依頼。サムライファンドの鷲津(綾野剛)に救済を求めるよう、芝野に指示する。

  その頃、鷲津は、『帝都重工』の子会社である『スペース・フロンティア・ジャパン』の代表として宇宙開発に関する事業に携わってきた若きベンチャー企業の代表・天宮光一(森崎ウィン)と出会う。鷲津はスペース・フロンティアを視察した上で、「夢にお金は投資しない」と天宮の依頼を断る。「夢とは実現する意思のない人間が使う言葉」という鷲津の言葉に、天宮は反発を覚える。

『帝都重工』社長・真壁達臣(伊武雅刀)から、正式に『帝都重工』を買収してほしい、と打診された鷲津はいったん返事を保留。そんな中『帝都重工』が大規模な不正会計を行っていたことが内部告発により発覚。『帝都重工』が救うに値する企業か否かを判断するため、内部告発した人物と面会した鷲津が下した判断は?

~トウシル編集部員の視聴後レビュー~ ハゲタカ「ココに注目」!

 ベンチャー社長、天宮光一(森崎ウィン) が、あぶなっかしくて見てられません。ITベンチャー乱立期に多くの若きベンチャー社長を取材した経験があるのですが、今も会社が存続しているのは本当にごくわずか。SEやプランナーとしては不世出の才能があったのに経営スキルが弱かったため、会社をのっとられて追い出されたり、反社会的集団に買収されたり、ひっそり人知れず廃業してたりと、数々の夢あるベンチャー社長が退場してしまいました。

 天宮氏も、のんきに夢を語ってないで、早く経営コンサルタントを右腕に引き抜いたほうがいい。たとえば、同じテレ朝ドラマつながりで、『サラリーマン金太郎』に登場した鷹司(保阪尚希)をヘッドハンティングしてきたらどうでしょうか? 金太郎本人は連れてきたらダメですよ、鷲津に追い返されそうだし。夢のない企業も問題アリですが、夢しかない企業も生き残れません。次回いよいよ最終回!『帝都重工』も『スペース・フロンティア・ジャパン』も、行く末が気になります!

▼バックナンバー

8/10Released! CASE01:日本初のバルクセール、その背景は!

8/17Released!  CASE02:再生できる企業を見抜くには!

8/20Released!  CASE03:暴かれた「隠し口座」は本当にあった?

8/21Released!  CASE04:敵対的買収に対抗する『ホワイトナイト』とは!

8/22Released!  CASE05:名門電機メーカーの凋落、悲しい日本の現実!

8/24Released!  CASE06:敵対的TOBは減少「表面は友好的に」が定番へ

8/31Released!  CASE07:後をたたない不祥事会見、企業倫理は「再生」できるか?

9/7Released!  CASE08:圧巻の最終回!次世代は鷲津が残した教訓を生かせるか?