CASE08:圧巻の最終回! 次世代は鷲津が残した教訓を生かせるか?
スーパーヒーロー不在の現在
我々は次世代が羽ばたける土壌を作れたか?
日本を象徴する「日本株式会社」だった『帝都重工』。株価が下がらないように、経営陣の指示のもと、目先の決算の“お化粧”を繰り返してきました。「企業のために忠誠を尽くす」企業戦士たちが、それを黙々と実行してきたのです。そして、求められる品質基準を満たしていない製品を、満たしているように品質管理データを改ざんして出荷していることまで、鷲津により暴露されてしまいます。
この話は、神戸製鋼所のデータ改ざん事件を思い起こさせます。世界中の、航空機・自動車・鉄道車両・建設機械に使われている神戸製鋼の部材。安全基準の問題で、航空機などを作り直さなければならないことになると、巨額の賠償が発生します。
幸いにして、神戸製鋼所のほぼすべての納入先が「安全面の問題はない」と判断したため、最悪の事態は避けられました。ここからは、神戸製鋼の経営資源である「すぐれた技術力」と「忠誠なる企業戦士」を生かして、再生の道を歩むことを期待しています。
ドラマ『ハゲタカ』は、1~8話までを通して、1997年から2018年までの日本経済の「歴史」を学ぶすぐれた教科書となっていました。過去はもちろん、今まさに起こっている経済・金融トピックスに基づき、細かい「作りこみ」ができていました。ファンドマネージャーとして、この時代の企業再生やM&A(Merger and Acquisition=合併・買収)をたくさん見てきた筆者から見て、フィクションと思えない臨場感がありました。
バルクセール、バイアウト、ゴールデンパラシュート、MBO(Management Buyout=マネジメント・バイアウト)、TOB(Take-Over Bid=株式公開買い付け)、ホワイトナイト、クラウドファンディングなどなど、企業再生やM&Aの専門用語がきちんと学べます。これらを理解した後にもう一度見ると、企業再生とは何か、過去や現在の日本に必要な企業理論とは何か、がより深く理解できることでしょう。
唯一、現実離れしていると感じたのは、鷲津(綾野剛)という企業再生のスーパーヒーローの存在です。現実の再生ファンド運営者は、短期に利益を稼ぎたい出資者の圧力で、理想とする企業再生ができなくなっています。昨今、目立った動きを見せたファンドとして、「村上ファンド」が挙げられますが、2006年、ニッポン放送株でインサイダー取引をしていたとして、代表が逮捕されるに至りました。最初は理想に燃えていたはずが、最後は短期利益を追い求める貪欲なファンドとなった裏には、短期的な利益を求める出資者があったからだ、と私は思います。 “ものづくり大国だったはずの日本を株価至上主義が腐らせた”という鷲津の批判が重く響きます。
企業再生の理想を追求する鷲津が、外資ファンドを解雇されるエピソードはきわめてリアルでした。最終的に鷲津は、自らの力でファンドを立ち上げ、思い通りの再生を実現します。現在・未来の日本で、こんなスーパーヒーローの出現を見てみたい、と願います。
解説:窪田 真之(くぼた まさゆき)
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト