しかし、変化の兆しも見えています。

 イオンは2018年2月期決算で6年ぶりに営業利益最高益を更新。増益にはイオンモールや、ドラッグ・ファーマシー事業傘下のウエルシアHD(3141)などのほか、事業の効率化を図ったGMSも寄与しました。

 イオンは2017年12月、2020年に向けた中長期的改革を発表後、SM、GMSの構造変革を進めています。これはSM、GMSのビジネスモデル変革を柱にすえ、イオンが小売業としての強さを取り戻すための基盤になると考えられます。

 当面は、不採算店舗整理に伴う人員削減などにより、特別損失が発生しやすい局面になるとみられますが、長期的に成長性が見られれば、株価はこれらをポジティブに織り込んでいくでしょう。

 では次に、イオンの構造改革の中身について、注目点3つを取り上げます。

 

イオン改革、3つの注目ポイント

(1)SMとGMSの食品部門を統合

 イオンは昨年12月、2020年までに全国のSMとGMSの食品部門の統合を図る計画を発表。北海道エリアでは、SMの「マックスバリュ北海道」(店舗数89店舗:2018年2月末時点)と、GMSである「イオン北海道」(店舗数74店舗:2018年2月末時点)の食品部門を再編・統合し、分社化させる予定です。

 SM業界では店舗数が多いほど仕入量が増えるため、価格交渉力は高まるとされ、食品部門の再編・統合が予定通り全国で実施されれば、仕入れ集約化で粗利益率向上に寄与することになるでしょう。

 ここで店舗数と粗利益率の関係について参考にしたいのが、イオン傘下で「マルエツ」「カスミ」「マックスバリュ関東」を展開するユナイテッド・スーパーマーケット(3222)です。同社は規模の優位性を活かした商品改革やコスト構造改革を進め、2018年2月期の売上高に対する粗利益率(売上高に対する粗利益の比率)は28.4%と、傘下で高収益を誇るベルク(9974)の25.9%を大きく上回ります。

 他にSMの傘下には、マックスバリュ西日本(8287)など各地域のマックスバリュやダイエー、さらに、持分法適用会社としていなげや(8182)とも資本関係があります。GMSの傘下にはイオン北海道(7512)イオン九州(2653)、イオンリテールなどがあります。

 イオンの2018年2月期における営業収益でSMは約3兆340億円(SMセグメントに含まれているミニストップの営業収益は除外)、同GMSは約3兆843億円。ただ先に指摘したように、イオンのSM、GMSの収益性は現段階では低い状況です。

(2)GMSのカテゴリ別に専業会社化

 またイオンはGMSの販売シェア拡大につなげるものとして、GMSの衣料品、住居・余暇関連などの各販売カテゴリ別に専業会社化を計画。これが実現すれば、収益構造を専業会社別に明確化し、それぞれが主体的、かつ迅速に販売戦略を決断できるものと考えられます。

(3)ECマーケットプレイス運営で需要創出

 イオンは独自のEC(電子商取引)マーケットプレイス(インターネット上に存在する物の売り手と買い手が自由に参加できる取引市場)の運営に参入する方針も示しています。

 その詳細はまだ不明ですが、イオンが全国に持つ店舗網(SM=8,624店、GMS=1,905店)がインターネットに結びつけば、面白い需要が創出できそうです。

 例えば、ECマーケットプレイスで注文した商品をイオングループの店舗で受け取れることになれば、既存の宅配サービスにはない付加価値が提供できることになるでしょう。

 既存の宅配サービスは利便性が高いものの、配達されるまでのタイムラグや段ボールなど梱包材の処分を負担に思う消費者もいます。

 その点、週に1回以上、食料品購入のためにSMやGMSに出向く層が、買い物中にEC注文した商品を受け取れるようになることは消費者にとってメリットと言えます。EC注文品を取りにきたついでに店舗で追加買いをしてもらえれば、シナジー効果も生まれるでしょう。

 一方、ECマーケットプレイスの競合には、スーパーストア部門の販売で業界2位のセブン&アイHLDGS(3382)の「Omni(オムニ)モール」があります。

 しかし後発ながら、イオンは生鮮食品販売という点で優位に立てる可能性があります。生鮮食品は新鮮さが求められるほか、その日食べるものはその日に決めるという性質上、通常の宅配ビジネスにはあまり適合しない分野です。そのため、消費者がEC注文した生鮮食品をイオングループの店舗で受け取る、またはイオングループの店舗から即日デリバリーされれば、生鮮食品をEC注文する消費者が増えると考えられます。

 海外に目を転じれば、米国のアマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)の先行事例があります。

 アマゾンは高級スーパーマーケットのホールフーズ・マーケット(以下、ホールフーズ)を買収。一部都市のプライムメンバーを対象に、ホールフーズの商品を2時間以内に無料で届けるサービス(35ドル以上の注文、約3,500円)をスタート。加えて、ホールフーズに設置したロッカーで、アマゾンの商品を受け取れる仕組みも作っています。

 

セブン&アイHLDGの構造改革

 傘下にイトーヨーカドーのほか、ヨークベニマルなどを持つセブン&アイHLDGは、2018年2月期のスーパーストアの営業収益が約1兆9,012億円で、営業利益は増加しましたが、営業利益率は1.1%にとどまっています。 

 そのような中、セブン&アイHLDGもイオン同様、改革を行っています。

 イトーヨーカドーなどの構造改革では、不採算の衣料売り場の縮小や食品売り場の強化に取り組んでいます。ただ、短期的に効果の出やすい効率化に重きが置かれている点で、より長期的な成長戦略に取り組むイオンの構造改革に注目したいと思います。