[Q2] そうは言っても日本はデフレですよね?
A. 良いデフレと悪いデフレがあります。
キカ:日本は長い間、デフレが続いているでしょ。
イェスパー:デフレは悪いことですか?
キカ:デフレとはモノの値段が下がり、お金の価値が上がることですよね。そうするとみんなモノを買わなくなり、企業が利益を得られなくなり、私たちの賃金や雇用に悪影響を与えるのではないですか。そういう悪い状況をデフレスパイラルと呼ぶのでしょう?
イェスパー:チョットマッテクダサイ! メディアではCPI(消費者物価指数)のマイナスがクローズアップされていますが、私は原油高や為替変動のような海外から受ける影響を除いた国内のサービス業の料金に注目しています。サービス業に限定したCPIを見ると、ほぼ横ばいです。インフレではないし、デフレスパイラルに陥っているわけでもない。
キカ:心地よいデフレなんですね。
イェスパー:だからすべてのデフレが悪いとは思いません。ただ賃金(所得)の下落は悪いデフレです。去年の所得を100とすると今年は90、来年は80と下がっていくようでは不安だし暗い気持ちになります。実際に1995年から2013年まで、賃金を金額で表す名目所得が全体的に下がっていたから暗い気持ちになったのですよね。でも今は賃金が伸び始めています。物価も少しずつ上昇しています。日本経済はデフレと別れを告げて好循環に入ったと言えるでしょう。
[Q3] 外国人労働者に雇用を奪われていませんか?
A. 人手不足が深刻化しており雇用の需要に供給が追いついていません。
キカ:国内では外国人労働者の姿をよく見るようになりました。
イェスパー:コンビニではよく見ますね。
キカ:外国人労働者の進出で、日本人が働く場が減っている気がします。
イェスパー:チョットマッテクダサイ! 正規雇用と非正規雇用という視点で見てください。外国人労働者が日本人の雇用を奪っているわけではありませんよ。国内の人手不足が深刻化しています。労働参加率(※1)のグラフを見ると、2013年あたりから急に上昇していることがわかります。それは雇用が増えていることを示しています。ところが企業のデマンド(需要)が増えているのに、人口減少により働き手というサプライ(供給)が減っている。だから企業は非正規雇用の人を正規雇用に転換しようとしています。おかげでコンビニのようなところでは人手が足りなくなり、外国人労働者に働いてもらっているのです。
キカ:たしかに。労働参加率のグラフを見ると、日本とは逆に米国は下がり続けています。
キカ:今は景気が回復していても、これからの成長に欠かせないAI(人工知能)のような最先端技術で後れをとっている気がします。
イェスパー:AIは日本の文化には合いませんね。AIを発展させるためには知見を企業内に囲い込まずに「オープン」である必要があります。良い悪いは別にして、日本企業はオープン化が苦手です。例えば三菱系列と三井住友系列がオープンになって接続されればネットワーク効果が期待できますが、それは無理ですよね。そこでグローバル競争で勝つためには、個々の企業に任せず、国家プロジェクトにする必要があるでしょう。
キカ:どのような国家プロジェクトですか?
イェスパー:金融の世界でいえば、ブロックチェーン(※2)の技術を発展させて、グローバルスタンダードを作ることです。日本のメガバンクは個別にブロックチェーンに投資をしていますが、それでは絶対にうまく行かない。メガバンクが連携して、日本銀行がバックアップして、国家戦略として「アジアコイン」をつくるべきです。
※2:ブロックチェーンはインターネットなどのオープンなネットワーク上で金融取引や重要データのやりとりを可能にする高い信頼性を持った技術。
[Q5] 日本型経営とアメリカ型経営、なにが違いますか?
A. アメリカの経営が株主の利益をワンターゲットで追求するのに対して、日本はマルチターゲットです。
キカ:日本型経営は、ターゲットが複数あるということですか?
イェスパー:YES。日本型は、株主の利益も追求しますが、それだけではなく従業員や取引先、消費者といったステークホルダーの利益をバランスよく確保していきます。
昔、近江商人は「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしを実践していたと聞きました。その伝統は、今の日本のビジネスにも息づいています。だから資本主義が暴走せずに、経済や社会が安定を保っているのです。
キカ:近江商人って、イェスパーさんとても日本ツウですね!
イェスパー:世界のアナリストたちは、アメリカ型の経営が限界にきていることをよく知っています。かといって、いまさら資本主義を捨てるなんてできません。悩んだ彼らがいま注目しているのが、日本型経営なのです。
◎今回答えてくれたのは?
イェスパー・コール
1961年ドイツ生まれ。80年、レスター・B・ピアソン・カレッジ・オブ・ザ・パシフィック卒。86年ジョン・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で国際経済学修士を取得。
京都大学、東京大学の研究員を経て89年、S.G.ウォルバーグ証券会社日本経済担当チーフ・エコノミストに就任。メリルリンチのチーフジャパンアナリスト、J.P.モルガン株式調査部長などを歴任し2015年、世界で運用資産残高630億ドルを超えるウィズダムツリー・ジャパン最高経営責任者(CEO)となる。政府の委員会メンバーとしても活躍。
著書は「本当は世界がうらやむ最強の日本経済」(プレジデント社)など多数。
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