大半の投資家は、日本の安定した政治、特に安倍首相の強大な権力を「日本強気論」の根拠としている。「チーム安倍」は基本的に成長重視かつ企業優遇の姿勢を維持し、結局のところ、着実に成果を収めてきた。残念ながら、ここに来て「森友問題」が盤石だった安倍政権を根底から揺るがすような事態に発展している。安倍首相の退陣はないと考えてはいるが、今回のスキャンダルはポスト安倍シナリオを描かざるを得ないほど深刻な影響を及ぼしている。
まずは良いニュースから見ていこう。現在、経済政策面で何ら大きな課題を抱えていないことは事実である。財政政策は内需を緩やかに押し上げる方向に進んでいる。2017年度補正予算案は今年初めに国会で承認され、2018年度当初予算案も2月28日に衆議院で可決した(参議院での審議が長引いても、衆議院の優越により予算は年度内に自然成立する)。従って、政府機関が機能停止に陥るリスクはない。また、金融政策の進捗状況にも問題はなく、日銀の黒田総裁と新副総裁2名の就任はすでに国会で承認されている。
「チーム安倍」にとって2018年の経済面での最重要政策課題だった働き方改革は、自民党内での反対派によってつぶされてしまった。それはさておき、そもそも働き方改革には中味がない。嘆かわしいことではあるが、経済政策の観点から見ると、現時点で「アベノミクス」には具体的な取組み課題がないため、たとえ政権が崩壊あるいは混乱しても経済に対する打撃は最小限にとどまる、というのが真相である。はっきり言ってしまえば、政権に関係なく、日本経済は自律的に動いている。
次に悪いニュースである。(投資家の目から見て)「チーム安倍」がほぼ理想的な政権であることは事実である。安倍首相が辞任に追い込まれれば(現時点で、筆者はその可能性はないとみている)、自民党は投票によって事実上の暫定政権を成立させることになるが、総選挙で選ばれたわけではないため国民の信認を得た政権とは言い難い。
長年にわたって、特定の側近グループとともに有力な財界リーダー、影響力の強いメディア関係者、エリート官僚などに薫陶を受けた安倍首相とは異なり、自民党の次世代リーダーは強力な支持者や信頼できる支援ネットワークを持っていない。
思い起こして欲しい。安倍内閣は民主党に奪われた政権の座を奪還して誕生し、重要な戦略パートナーである米国の信頼を取り戻すことを目的としていた。(中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めた時期にあたる)。選挙で選ばれた「チーム安倍」が早速、政権の認知度を高めるために世界に向けて「アベノミクス」と呼ばれるブランドキャンペーンを大々的に推し進め、すぐに主要閣僚を入れ替えたのは偶然ではない。
このような先を見越した布陣と幅広い支持基盤という点で、安倍首相の後継者候補は見劣りがし、政策がはっきりしないだけでなく、民間部門の有力者グループに食い込むことができる信頼に足るネットワークを有していない。安倍首相とは異なり、後継者候補に助言を与えるのは民間部門のリーダーや起業家ではなく、もっぱら官僚である。
自民党内で安倍首相の対抗馬/後継者として名前が上がっているのは岸田文雄氏(60歳)と石破茂氏(61歳)である。元防衛大臣で憲法改正推進派の石破氏に対し、岸田氏は外務大臣経験者で、現在は自民党政調会長の要職にある。いずれも経済政策に対する独自の主張や構想では知られていないが、それ以上に重要なのは経済政策についてはもっぱらエリート官僚の意見に頼っていると見なされている点である。
一方、新世代の若手議員(たとえば、小泉元首相の息子である進次郎氏は弱冠36歳)が総裁選に出馬するとの観測は時期尚早であろう。安倍長期政権の下、古参の自民党議員の考え方に柔軟性は見られず、若手議員にはそれ相応のポストをあてがっている状況である。
従って、「チーム安倍」が退陣を余儀なくされた場合、日本は成長と企業を重視する方針を失うと筆者は考える。国内の既得権益者グループからの支持獲得を目指す官僚主導の「暫定」政策が打ち出され、結局は選挙ということになるだろう。国内外の投資家の想像力と夢を掻き立てる新たな政策が出てくるとは考えにくい。
アベノミクスはなぜ生き残るか?
この問いに対する答えは単純で、自民党にはマキャベリズムの精神が流れているからである。自民党は、今はまだポスト安倍時代に向けた準備が整っておらず、このタイミングで安倍首相が退けば、国会で現在握っている2/3という圧倒的多数を失うことをよく分かっている。また、安倍首相にとって強力なライバルも足場の弱い状況からスタートすることの不利を十分に承知している。もっとも、財務省官僚が先ごろ認めた森友問題に関する事実隠蔽を命じたことで首相が罪に問われれば、今後の行方は全く分からない。
しかし、官僚が上司を喜ばせようとして自らの判断で不都合な「事実」を削除、つまり日本的慣習の「忖度」(「されてもいない指示に従う」ことにより上司を満足させる)が働いたのであれば、そのダメージは日本の政治と行政が早急に「ガバナンス改革」を行う必要があることの証明である。「忖度」は昔からある慣習かもしれないが、 良いガバナンスの最も基本的な原理、説明責任、透明性の原則に反する。皮肉とも言えそうだが、首相が強く信じている日本の伝統的価値観が今回は彼を救うかもしれない。しかし、安倍政権への信頼を取り戻すためには最終的に「忖度問題」を解決する必要がある。
投資の視点: 「森友問題」は些細なことと片づけるわけにはいかないが、日本に対する構造的な強気シナリオを損なうのはこの問題が「チーム安倍」を時期尚早な退陣に追い込んだ場合である。もっとも、現時点ではその可能性は低いと筆者はみている。
2018年3月13日 記










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