投信をリターンだけ見て選ばない

篠田: アクティブファンドを選ぶ場合、何を手がかりにすればいいのでしょうか。

 

武田: まずリターンが良い悪いという視点は、判断基準にならざるを得ないと思います。でもそれだけではありません。もう一つ忘れてはいけない視点は、「どれくらいのリスクを取っているファンドなのか」と言うことです。

株式投資はリスクを取らないとリターンは得られませんが、リスクに見合う以上のリターンが得られているか、リスク相応のリターンなのか、リスク以下のリターンなのか。これは「リスクマネジメント」という難しい概念ですが、とても重要です。私は投資家の皆さんにリスクとは「標準偏差」ではなくて、個別の投資から来る「損失を被る可能性」と説明しています。損失が実現したら、それはリスクではなく損失だからです。

篠田: リスクマネジメントの善し悪しを測るのは簡単ではありませんよね。

武田: 簡単な例で説明すると、AとBの2つのポートフォリオがあり、それぞれ10銘柄に投資して30%のリターンを得た。しかしながらAは10銘柄とも株価は割高、企業の財務内容は悪い、手がけるビジネスも魅力的でない。Bは投資対象が十分に分散されていて、財務内容も安定していて、バリュエーションも安い。これほどポートフォリオの中身の質が違うのに、何も起こらなかったら、運用成績という表面上の数字は同じです。

このようにリスクマネジメントは簡単には計測できないから難しい。個人投資家の方に言えることは、「投信をリターンだけで選ぶのは危険」ということ。リターンばかりに目が行くのは人間の本能だから仕方ないのですが、リスクとリターンのバランスを取らなければ、投資で長期的に成功はできません。最後に私は、「アクティブファンドマネージャーはもっと意見を発するべきだ」と考えていて、月次報告書などで、「なぜ、この会社がいいと思っているのか」や「株式投資はこうあるべきだ」ということを、お伝えしようとしています。

 

〔特別対談〕レオス藤野×スパークス武田×アセマネone酒井:強い個人投資家になるために必要なこと
前編:強い個人投資家になるために必要なこと
中編:投資信託は日本人の将来生活の味方か敵か?
後編:みんなが投資の専門家になるべき?
まとめ:ひふみ投信×スパークス×アセマネoneの最強ファンドマネージャーがガチ対決!?

〔教えてくれたのは〕

藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長 最高投資責任者
1990年、野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどを経て、03年レオス・キャピタルワークスを設立。08年に「ひふみ投信」を立ち上げる。

武田政和(たけだ・まさかず)
スパークス・アセット・マネジメント ファンド・マネージャー
1996年、日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行。1998年、長銀ウォーバーグ証券(現UBS証券)に出向。1999年、スパークス・アセット・マネジメント入社し、「新・国際優良日本株ファンド(愛称:厳選投資)」 の運用チームに所属。

酒井義隆(さかい・よしたか)
アセットマネジメントOne
運用本部 株式運用グループ 国内株式担当 ファンドマネジャー
2004年、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)に入社。2005年よりファンドマネジャーとして国内株式運用などを担当

〔聞き手〕
篠田尚子(しのだ・しょうこ)
楽天証券経済研究所ファンドアナリスト


 

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