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 いま日本でいちばん話題になっている投資信託のひとつである「ひふみ投信」。これを運用、販売するレオス・キャピタルワークスの代表取締役社長であり、最高投資責任者でもある藤野英人さんへのインタビュー後編は、ファンドマネジャーのお仕事について伺いました。

 

エキサイティングな個性あふれる経営者たち

◆ファンドマネジャーとして企業取材をしている中で、印象に残っている方は?

 中堅企業や成長中のベンチャー企業の社長さんたちと毎日のように会っていたころは、彼らからダイレクトに自らの仕事への情熱を語ってもらったり、地方の目立たない会社が実は世界の産業を支える部品を造っていると知ってワクワクしたり、工場見学では誇りを持って働く従業員たちに感動したりと、すべてが印象に残っています。

 企業取材している中で気づいたのは、私たちが手がけている企業への投資とは、株価への投資ではなく、「人への投資」ではないかということでした。投資先を決めるときには、長期的に利益を上げていける会社かということをじっくり見極めていくわけですが、そこで要になるのは、やはり「人」なのです。

 そして、その会社で働く人を率いる社長さんの考えは何より重要ですし、機械を動かすのも技術を磨くのも、すべては人。実際に、経営者や社員がイキイキ働いている企業に投資したほうが、そうでない企業に投資するよりも成果が上がります。これは、過去6,500人以上の経営者にインタビューを行ってきた長年の経験上、確かに言えることなのです。

 印象が残っている経営者の一人に、ユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井正さんがいます。私が野村投資顧問にいたころに、お会いしました。今ではあまり知られていないのですが、当時、広島には証券取引所がありました。そこにユニクロが上場しました。それも広島証券取引所に単独上場したのです。東証2部でもないし、非常にマイナーな上場でした。

 おもしろい、ユニークな会社だとは感じていたものの、世界を代表するアパレル企業になるとは、まさか誰も思っていなかった。お会いしたのは私が社会人になって4~5年経ってから、1995年前後のころですね。当時はユニクロの本社は山口県宇部にありました。

 柳井正さんに会った印象は、とにかく静かな人だということです。丁寧に話に耳を傾けられるし、ある種の気迫も感じられ、ずばり「禅のお坊さん」という印象を持ちました。話をしていると、こちらもだんだんと無の境地になっていく、そして向き合っているうち、気配も感じないほどになっていました。肉体から離れて精神だけの存在になっていく……そんな感じがありました。

 また、堀江貴文さんとお会いしたときは2000年くらいで、彼がまだ六本木の雑居ビルに会社を構えていたころでした。

 そのとき印象的だったのは、「藤野さん、心臓ってなんでひとつなんでしょうね。小さい心臓がいくつもあればいいじゃないですか」と言われたことです。

 複数の心臓を可能にするには、それぞれの脈動を合わせなければならないのですが、脈動のパルスをどうやって合わせればいいかを計算できれば、それぞれの心臓の負担も減り、いいことだらけだと話していました。

 当時から人工心臓の可能性について、話をしていたわけです。私は「この人、トンでるなー」と思いました。頭もいいけれど、いろんな意味で普通じゃないと。

 そういう意味でも企業取材をしているときは、数字やビジネスモデルだけではなく、経営者の人柄なども幅広い視点で多面的に見ることが必要なのです。

▲この絵には、ある漢字1文字が2種類、隠れているそうです。2種類見える人もいれば、1文字も見えない人も。ヒントは、どちらも金融市場になじみのある漢字です。藤野さんのように、常識にとらわれない自由な視点が必要です(→答えは記事の最後に)。