株価は景気に先んじて動く~現状のPERが意味をなさなくなるときとは?

ここで2008年秋のリーマンショックによる急落時を振り返ってみることにしましょう。株価が急落する前は、景気もそれほど悪くなく、多くの上場企業が好業績を維持していました。

ところが、リーマンショックにより株価が大きく下落すると、その後世界中の景気が急速に悪化してしまいました。

当然、株価急落により個別銘柄はもとより日経平均株価のPERも急低下し、一時10倍割れになりました。でも、PERがいくら低下しようとも株価下落は止まりませんでした。リーマンショック前の業績予想に基づいて計算されたPERはすでに意味をなさなくなっていたのです。

現に、好業績を予想していた銘柄の業績が軒並み悪化し、赤字転落となってしまった銘柄も続出してしまいました。そして、2009年4月には、一時日経平均株価のPERは測定不能となってしまったのです(採用銘柄の利益合計がマイナスとなったため)。

このように、足元の景気が良く、企業業績が好調であっても、株価が大きく下落し、その後を追うように景気や企業業績が悪化することは珍しくありません。こんなときにPERに固執していたら、おそらく財産の多くを失って株式市場から退場させられるでしょう。

実践的な日本株の先行きの見極め方とは?

上記のように、前提条件や市場参加者が抱く将来の見通しなど様々な要因により大きく変動してしまうPERの数値のみをもって、日経平均株価が割高か・割安かを判断するのは非常に危険です。では、実践ではどのように日本株の先行きを見極めていけばよいでしょうか。次のような点があげられます。

  • 国内外の景気動向
    やはり株価は景気に左右される面が大きいですから、景気動向は無視できません。
    ただし、ここで追わなければならないのは中小企業ではなく、上場企業についてだという点は注意してください。中小企業の業績が回復しなくとも、上場企業の業績が好調であれば、日本株は上昇します。
  • 株価に大きなインパクトを与えるリスク要因についての現状把握
    例えば、中国経済の崩壊やアメリカの利上げなど、その動向いかんでは株価に大きなインパクトを与えるであるだろう要因をリストアップします。そしてそれらの要因につき、現状ではどうなっているかを把握し、リスクが高まっていると感じたら日本株の先行きに警戒します。
  • 世界中のマネーの動向
    ご承知の通り、今は世界中の金融緩和マネーで満たされています。これが株価上昇の原動力の1つです。しかし、これが金融引き締めの方向に舵を切られた場合、株価は大きく下落することが予想されます。金融引き締めの兆候があるかどうかを注視し、その兆候が表れた場合はその後の日本株の下落に十分注意するようにします。
  • 株価のトレンド
    やはり、最終的には株価チャートで判断するのが無難です。「中国バブルは崩壊した」とか「アメリカ利上げで世界同時株安」など色々な雑音が聞こえてきてもそれらは無視して、一心に株価の動きに耳を傾けるのです。仮に株価急落するかもしれないと投資家が不安になるような材料がいくつもあるにも関わらず株価が上昇を続ける相場であれば、株価上昇にベットしなければならないのです。逆に「PERでみた日経平均株価は割安」と専門家が声高に叫んでも、株価の下落が続いているならば、守りを重視するべきです。

PERを用いた株価評価は、簡単そうに見えて実は非常に奥深いものです。そして、単にPERの高低を基準に銘柄選択や売買の判断を行えば、まず失敗します。

将来の「予想」という不確実性の高い要因をもとに計算されているPERを決して鵜呑みにせず、株価のトレンドも注視しながら適切なタイミングで売買することを強くお勧めします。

別の機会で、個別銘柄に投資する際のPERの注意点についてお話する予定です。