日経平均株価の「PER14倍」をどのように評価すればよいのか?

最近専門家の間でよく議論されている点の1つとして、PER水準からみた足元の日経平均株価は割安かどうか、というものがあります。

直近における日経平均株価のPERはおよそ14倍です。

過去を振り返ると、2006年にはPERが23倍にまで達しました。これと現状を比較して、まだまだPER14倍では割安だ、という人もいます。つまり、日本株は好業績に支えられて上昇しているのであって、全くバブルではないという見解です。

一方でPERなどとは関係なく、今の日本株に限らず、大量の緩和マネーが流入した結果の株価上昇に過ぎず、世界中の株式市場がバブルだという意見もあります。

いったい、足元の日経平均株価のPER14倍という水準を、どのように評価すればよいのでしょうか。

日経平均株価のPER14倍が妥当かどうかは投資家が将来をどう予測するかにより変わる

ご存じのように、PERは投資家が将来の業績をどう予想するかによって変動します。増収増益間違いないと多くの投資家が信じて疑わなかった銘柄が減益の決算を発表したとたんに株価が急落、それまでのPER40倍が10倍まで下がってしまうようなことも珍しくありません。

これと同じことが、日経平均株価のPERにもいえます。もし、市場参加者の多くが、将来の日本経済に対して非常に強気で、上場企業も高水準の増収増益が続くと思えば、PERの適正水準は上昇し、株価も上昇していくでしょう。

逆に、市場参加者の多くが日本経済の先行きに懸念をもっていて、上場企業も今後しばらくは厳しい決算が続きそうだと思えば、PERの適正水準は低下し、株価も下落していくのです。

日経平均株価のPERの適正水準は、「今後市場参加者が日本株の先行きについてどのような見通しを持っているか」で決まり、そして市場参加者の将来の見通しが変化すれば、PERの適正水準も変動するということです。

もっとはっきり言ってしまえば、現状の日経平均株価のPERが適正かどうかは、「分からない」のです。とにかく、PERには「変数」が多すぎるのです。

PERだけで日経平均株価の高安を評価することはできない

筆者は、日経平均株価のPER水準をもって、今の日経平均株価が割高か割安かを判定することはできないし、無意味ですらあると思っています。

先ほど、株価やPERは、市場参加者が将来の各銘柄の業績を予想した結果生まれてきているものだと説明しました。まさに足元の日経平均株価のPER14倍というのは、「現段階で」市場参加者が将来の日本株の動向を予想した結果であるのです。繰り返しますが、「現段階で」というのがポイントです。

足元は、中国バブルの崩壊や世界的な景気低迷懸念、アメリカの利上げ問題などによって将来の日本株の動向に多少悲観的な見方が広まっていると思われます。だからこそ日経平均株価は急落し、PERは低下したのです。

もし、中国バブル崩壊懸念、世界的景気悪化懸念、アメリカ利上げ問題がクリアになってくれば、マイナス要因が取り除かれることになりますから、日本株への悲観的な見方は弱まり、株価が上昇する方向、つまりPERが上昇する方向に向かうでしょう。

逆に、今市場参加者が気にしているマイナス要因がさらに増幅することになれば、株価は下落し、PERはさらに低下するでしょう。

このように、足元のPERが割安かどうかという議論はあまり意味がないのです。PERは、市場参加者の日本株に対する先行きの見方次第で変わってきますし、その先行きの見方自体が頻繁に変動するからです。

となれば、PERの水準から割安かどうかを判断するのではなく、今後の株価の動きを注視し、株価のトレンドに従った売買を行うべきだと筆者は感じます。

株価は景気に先んじて動く~現状のPERが意味をなさなくなるときとは?

ここで2008年秋のリーマンショックによる急落時を振り返ってみることにしましょう。株価が急落する前は、景気もそれほど悪くなく、多くの上場企業が好業績を維持していました。

ところが、リーマンショックにより株価が大きく下落すると、その後世界中の景気が急速に悪化してしまいました。

当然、株価急落により個別銘柄はもとより日経平均株価のPERも急低下し、一時10倍割れになりました。でも、PERがいくら低下しようとも株価下落は止まりませんでした。リーマンショック前の業績予想に基づいて計算されたPERはすでに意味をなさなくなっていたのです。

現に、好業績を予想していた銘柄の業績が軒並み悪化し、赤字転落となってしまった銘柄も続出してしまいました。そして、2009年4月には、一時日経平均株価のPERは測定不能となってしまったのです(採用銘柄の利益合計がマイナスとなったため)。

このように、足元の景気が良く、企業業績が好調であっても、株価が大きく下落し、その後を追うように景気や企業業績が悪化することは珍しくありません。こんなときにPERに固執していたら、おそらく財産の多くを失って株式市場から退場させられるでしょう。

実践的な日本株の先行きの見極め方とは?

上記のように、前提条件や市場参加者が抱く将来の見通しなど様々な要因により大きく変動してしまうPERの数値のみをもって、日経平均株価が割高か・割安かを判断するのは非常に危険です。では、実践ではどのように日本株の先行きを見極めていけばよいでしょうか。次のような点があげられます。

  • 国内外の景気動向
    やはり株価は景気に左右される面が大きいですから、景気動向は無視できません。
    ただし、ここで追わなければならないのは中小企業ではなく、上場企業についてだという点は注意してください。中小企業の業績が回復しなくとも、上場企業の業績が好調であれば、日本株は上昇します。
  • 株価に大きなインパクトを与えるリスク要因についての現状把握
    例えば、中国経済の崩壊やアメリカの利上げなど、その動向いかんでは株価に大きなインパクトを与えるであるだろう要因をリストアップします。そしてそれらの要因につき、現状ではどうなっているかを把握し、リスクが高まっていると感じたら日本株の先行きに警戒します。
  • 世界中のマネーの動向
    ご承知の通り、今は世界中の金融緩和マネーで満たされています。これが株価上昇の原動力の1つです。しかし、これが金融引き締めの方向に舵を切られた場合、株価は大きく下落することが予想されます。金融引き締めの兆候があるかどうかを注視し、その兆候が表れた場合はその後の日本株の下落に十分注意するようにします。
  • 株価のトレンド
    やはり、最終的には株価チャートで判断するのが無難です。「中国バブルは崩壊した」とか「アメリカ利上げで世界同時株安」など色々な雑音が聞こえてきてもそれらは無視して、一心に株価の動きに耳を傾けるのです。仮に株価急落するかもしれないと投資家が不安になるような材料がいくつもあるにも関わらず株価が上昇を続ける相場であれば、株価上昇にベットしなければならないのです。逆に「PERでみた日経平均株価は割安」と専門家が声高に叫んでも、株価の下落が続いているならば、守りを重視するべきです。

PERを用いた株価評価は、簡単そうに見えて実は非常に奥深いものです。そして、単にPERの高低を基準に銘柄選択や売買の判断を行えば、まず失敗します。

将来の「予想」という不確実性の高い要因をもとに計算されているPERを決して鵜呑みにせず、株価のトレンドも注視しながら適切なタイミングで売買することを強くお勧めします。

別の機会で、個別銘柄に投資する際のPERの注意点についてお話する予定です。