米大統領選挙まではバブルの崩壊は起きにくい

 米大統領選挙まではバブルの崩壊は起きにくい。印刷された膨大なマネーが市場に溢れかえっているからだ。日本も米国もMMT(現代貨幣理論)で無制限の金融政策をずっと続けている。資産と負債を両方膨らませるというポンジスキームをずっと続けてきた結果、レバレッジが巨大となり、もうFRB(米連邦準備制度理事会)も日本銀行も身動きがとれなくなってしまっている。

*MMT(現代貨幣理論):独自通貨を持つ国は債務返済のための自国通貨発行額に制約を受けないため、借金をいくらしても財政破綻は起きないと説く経済理論。いったん財政規律や中央銀行への信認が失われてしまうと、通貨の下落や輸入物価の上昇を通じ、深刻なインフレと経済の大混乱が発生する恐れがあり、実現困難な理論ともいわれている。

 2008年から米国は12年間で3.5兆ドルを印刷した。2020年から米国は4年間で5兆ドルを印刷した。米民主党は選挙に勝つために2024年末までに1.5年間で10兆ドルを印刷する必要がある。

米国の連邦債務 2018~2024年

出所:WOLFSTREET

 これだけカネをばらまいていてもインフレがいったん終息しているのは、米民主党が大統領選挙に勝つために戦略石油備蓄を放出し、大手メディアや先物市場も使って人為的に原油市場をコントロールしているからである。全ての物価は原油市場が決める。

戦略石油備蓄を使い果たした米国

出所:Geiger Capital

NY原油CFD(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 以前、ジョージ・カラヘリオスという運用者が『2020年の書「MMTの世界で信仰を探して」』という論文を寄稿した。ジョージ・カラヘリオスによれば、ステファニー・ケルトン博士が著した『財政赤字の神話』(早川書房)は画期的な方法を教えてくれる。それは革命的であり、刺激的であり、誰が大統領に選ばれようとも、新しい常識になる運命にあるという。

【国は支出よりも前におカネを稼いだり借りたりせざるを得ない典型的な「家計」経済学の対象ではありません。そう認識することで、 従来の経済学が一変するのです。経済学の教授はさもありなんとし、大の大人が魔法のカネのなる木(マジカル・ミステリー・ツリー MMTの適切な定義)を信じているとは…。私は言葉を失い、一瞬 思考停止に陥った。普通、サンタクロースは思春期にいなくなる。もしケルトンが「MMTは米国の債務を他国のバランスシートに移すため、調整に必要な時間をかせぐのに考案された貿易戦争戦略である」と主張したならば、私はケルトン派にいくらか敬意を払うだろう。だが、そのような謀略ではない。物価と資源の制約を除き、MMT擁護者たちは通貨を「発行している」政府が通貨をいくら使おうと厳密な制限はないと吹聴している。では、富の格差など、こうした政策で引き起こされる不均衡についてはどうするのか。確実に続くことになる低成長についてはどうするのか。均衡政策についてはどうするのか。消費者物価指数によるインフレ示唆が遅すぎて債務累積の速度を落とせない場合はどうするのか。その間に起こり得る弊害を想像してほしい。明らかにMMTでは必然的に、より良い世界――ただし私たち庶民よりもはるかに賢い学者様が計画した世界――を生もうとして、短絡的な愚策が次々と考案される。そして、取り返しのつかない大失敗がもたらされるだろう】

『2020年の書「MMTの世界で信仰を探して」』(ジョージ・カラヘリオス)

 これは非常に興味深い指摘だ。誰が首相になっても同じである。石破茂新首相もMMTだ。MMTでは大衆人気に気を使い、短絡的な愚策が次々と考案される。