WPIC共催の上海プラチナウィーク(SPW)は先週成功裡に終わったが、本稿では会議の詳細と実地見学、プレゼンテーションの要点などを報告したい。

 SPW全般:今回は2日間に及ぶ会議の他に関連企業見学にも2日間が当てられた。会議に参加した団体代表者は500人以上、オンラインの参加者は二日間で77万人以上となり、プレゼンテーションやパネルディスカッションの数は42に及んだ。議題はPGM供給(鉱山とリサイクル)が直面する問題から、現在及び将来のPGM需要(自動車触媒、グリーン水素、新たな技術)など幅広い範囲を網羅した。SPWにて、供給の問題が認識されつつも、多種多様な需要が支えるプラチナ投資の将来性が再確認されたと言えよう。ここでは会議で話し合われた中国のPGM市場の今後の行方を中心に取り上げたが、その他の議題について何かあれば、我々のリサーチチームはさらに詳細な情報を提供する用意がある。

 広州期貨交易所が中国初となるプラチナとパラジウムの先物取引の詳細を発表したが、この元建の先物商品を使えば国内投資家は価格に対するリスクヘッジを行うことができる。これまでは価格ヘッジをする手立てがなかったため、中国のプラチナ輸入量は価格に反比例して大きく変動している(図1)。今後中国のプラチナ宝飾品と投資に関して、メーカーが価格ヘッジできるようになれば、販売価格のプレミアムを釣り上げることや、買い戻しに対する割り引きが生じにくくなるなどで、消費者にとってはゴールド商品に替わるものとしてのプラチナ商品の信用が高まり、安定した需要を確保できるようになるだろう(図3)。

図1:中国のプラチナ輸入量は価格に敏感に反応

出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図2:中国の水素経済は急速に発展する可能性

出典:The Orange Group

 中国が世界の水素経済を先導しようとしている姿勢は2024年3月の政府発表にから明らかで、水素技術の発展を積極的に推し進めている。SPWの参加者は水素に関わる数社を実際に訪れその高い将来性を確信。しかしこの新しい分野ではまだ十分にキャパシティーを活用できていない部分があるとも感じられた。Orange Groupは、中国の水素産業はコスト軽減によって将来拡大するとしている。2030年までに中国の燃料電池自動車は120万台に、PEM水電解装置は3.8GW規模に拡大し、その水素関連のPGM需要は、約71.5トン(図2)に達すると予測している(WPICの予測は約37.3トン)。

 鉱山とリサイクル供給の問題もSPWで取り上げられた。PGM鉱山会社にとっては低いバスケット価格が最大の問題で、コスト削減を強いられているために中長期の生産高を伸ばすことができないでいる(図7)。中国のリサイクル供給については税制の専門家によれば、従来はスクラップ収集業者と処理業者間の現金ベースのやり取りが、新たに処理業者がインボイスを発行することで税金処理を明確にする方針が導入されることになり、1%に満たないマージンでやっているリサイクル業界には今後3%の税率が課されることになる。この新たな税制がリサイクルによるPGMの供給に影響を与える可能性がある。

数字で見るSPW 2024:

・37展示ブース

・42プレゼンテーション

・500人以上の代表者参加

・77万人以上のオンライン参加者

成長著しい中国のPGM市場はグリーン水素を先導。価格ヘッジのためのプラチナとパラジウムの先物取引が始まるが、リサイクルは新たな税制に足を引っ張られる可能性

投資資産としてのプラチナ

-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は南アの鉱山供給とリサイクル率の低下で逆風強まる
-自動車のプラチナ需要はエンジン車生産で予想よりも長い期間で増加予測
-現在、水素関連のプラチナ需要は少ないが、将来はプラチナ需要の大部分を占める
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅な割安

図3:プラチナ宝飾品メーカーはプラチナ価格の下落局面では価格リスクが発生し、消費者需要にマイナスとなる値上げをせざるを得ない

出典:ジョンソン・マッセイ、SFA(オックスフォード)、メタルズフォーカス、ブルームバーグ、WPICリサーチ

図4:先物をヘッジとして利用できれば、プレミアムが下がり、売り戻しの損失も縮小できて、中国のインゴットとコイン投資需要には追い風になる可能性

出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図5:中国の燃料電池自動車需要は2030年までに年間販売高50万台にまで急増する予測

出典:The Orange Group

図6:中国のPEM水電解能力は2024年〜2030年の間、年平均で62%伸びる予測。イリジウムの節約が進めばさらに伸びる可能性も

出典:The Orange Group

図7:PGM価格の下落で生産者はコスト削減を強いられ、鉱山開発に支障、鉱山供給に影響も

出典:過去のデータはジョンソン・マッセイ、鉱山供給予測はNortham Platinum

図8:2024年のPGMリサイクルは回復予測だったが、処理能力のダブつき、新たな規制、廃材の不足と溜め込みで減少リスクも

出典:メタルズフォーカス(プラチナは2024年予測まで、パラジウムは2023年まで)、それ以降はWPICリサーチ

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