植田日銀総裁の言う「待つことのコスト」は顕在化しているのか

 図表2で、日本のGDPを前年比で見れば引き続き景気拡大の領域をしっかり歩んでいると述べましたが、中身である需要項目の動きを見ると、植田総裁の言う「待つことのコスト」、すなわち高インフレの経済に与える悪影響が顕在化しつつあるようにうかがわれます。

 図表4は、名目・実質GDPの前年比を需要項目ごとに寄与度分解したグラフです。これを見ると、足元にかけて、ウエートの大きい民間最終消費や設備投資などを含むその他内需が、名目ベースではプラス寄与が続いているのにもかかわらず、実質ベースでは小幅のマイナス寄与に転じていることが分かります。

<図表4 日本のGDPの需要項目別寄与度分解>

(出所)内閣府、楽天証券経済研究所作成

 中でも民間最終消費については、インフレによる賃金の目減りが響いていると考えられます。図表5を見ると、名目雇用者報酬が賃金上昇を背景に増加しているのに対し、インフレ率で割り引いた実質雇用者報酬は減少傾向が続いています。

<図表5 日本の雇用者報酬>

(注)シャドーは景気後退期。
(出所)内閣府、楽天証券経済研究所作成