まだまだ、慎重な議論が必要
今年7月、世界の石油需要の見通しが割れました。2023年の世界の石油需要について、IEAは前月の見通しから下方修正しましたが、OPEC(石油輸出国機構)は上方修正しました。
2023年の同需要は従来の見通しよりも減るのか、増えるのか、どちらを参照すればよいか、議論が巻き起こりました。
IEAは日本では比較的信用できる機関と位置付けられている節があります。IEAと同じように毎月おおむね第二週に統計を公表しているOPECやEIA(米エネルギー情報局)に比べて中立性があると、考えられているためです。
確かに、非西側諸国の産油国の集団であるOPECや、米国という単一国の一機関であるEIAに比べれば、IEAは中立に見えます。
しかし、先述の図「ネット(正味)ゼロ シナリオ(2023年更新版)の概要」で示したとおり、IEAの主要メンバーはほとんどが西側諸国です(中国やインドはIEAのAssociation countries(協力国)にすぎない)。
一方、IEAと正反対の見通しを示したOPECはどのような組織でしょうか。西側のメジャーと呼ばれる大規模な石油関連企業たちに牛耳られていた自国の石油の利権を奪回することを目的とし、1960年にできた組織です。
IEAとOPEC、それぞれの背景を大まかに言えば、IEAは西側、OPECは非西側となるでしょう。
IEAは需要見通し下方修正について、「欧州」で高インフレによる景気減速・需要減少、同時に「脱炭素が加速していること」を主な理由に挙げました。
一方、OPECは需要見通し上方修正について、「中国」でゼロコロナ政策解除を起点とし経済回復が見込まれることを主な理由に挙げました。
同じ「2023年の石油需要の見通し(前月比)」であるにもかかわらず、見通しを示す機関によって食い違いが発生するのはなぜでしょうか。ここに「脱炭素」をめぐる思惑の相違が浮かび上がってくると、筆者は考えています。
IEAは脱炭素が進んでいることが一因で石油需要が減少していると考えている節があり、逆にOPECは脱炭素が徹底されていないことが一因で石油需要が増えていると考えている節があります。
それぞれがそれぞれの思惑を見通しに反映させている可能性は否定できないと、筆者は考えています。それぞれのプロパガンダ(政治的意図を持った宣伝)の意味を含んでいると考えれば、見通しが食い違ったことを説明しやすくなるためです。
9月26日に公表されたIEAのNZEシナリオはどうでしょうか。いくつも「大胆な」箇所があることについて、本レポートで述べました。そこにプロパガンダの意味はないと言い切れるでしょうか。
西側が提唱した脱炭素はうまくいっている、今後も脱炭素はうまくいく、しかもエネルギー価格が大暴落する、お金を払うことで新興国・途上国への影響力を強めることができる…。筆者は現時点で、NZEシナリオからこうした西側の思惑を感じています。
原油を含むエネルギーの価格が、NZEシナリオどおりに本当に大暴落するのか、道中でシナリオが修正されることはないのか、長期視点で同シナリオを見守っていきたいと思います。
二酸化炭素の価格よりも原油価格が安くなった場合(同じ熱量で)、再び、石油の世界が到来する可能性もあるかもしれません。
[参考]エネルギー関連の投資商品例
国内株式
国内ETF・ETN
NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場
WTI原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア
外国株式
エクソン・モービル
シェブロン
オクシデンタル・ペトロリアム
海外ETF
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
グローバルX MLP
グローバルX URANIUM
ヴァンエック・ウラン原子力エネルギーETF
投資信託
UBS原油先物ファンド
米国エネルギー・ハイインカム・ファンド
シェール関連株オープン