中央銀行の関心事は一つではない

 WGCは、2018年から「中央銀行調査」を実施しています。YouGov(ユーガブ 英国に拠点を置く、オンラインを中心とした世界規模の調査機関。米大統領選や国を挙げた選挙などの際に世論調査を手掛けることもある)と協力したこの調査は、英語のほか、アラビア語、フランス語、ロシア語、スペイン語に翻訳され、行われているようです。

 2023年の調査は2月7日から4月7日に行われ、合計59の適格な回答が得られ(昨年は57)、全体、先進国、新興国に分けて結果が示されています(質問によっては回答数が59に満たないものもある)。59 の中央銀行のうち、22%が先進国、78%が新興国でした(先進国・新興国の分類はIMF(国際通貨基金)の定義による)。

 以下は、「外貨準備高管理の意思決定に関連するトピックは何ですか?」という質問の回答結果です。

 先進国、新興国ともに、「金利水準」「インフレ懸念」「地政学的リスク」が高くなりました。これらは、ウクライナ危機が勃発したり、急速な金利引き上げが見られたりした昨年の調査でも上位三位を占めました。

 自国と他国の金利差、コモディティ(国際商品)価格が高止まりしてインフレが残っていること、危機が沈静化せずリスクが高い状態が続いていることが、昨年から続く、中央銀行全体の大きなテーマであるようです(遠近あれども、いずれもウクライナ危機がきっかけ)。

 先進国と新興国とで、考えが割れた選択肢もありました。「ESG(環境、社会、企業統治)への課題」は、回答した先進国の中央銀行の69%が選択しましたが、新興国の中央銀行は33%にとどまりました。また、「世界経済のパワーシフト」「パンデミックへの懸念」は、先進国の割合が低く、新興国の割合が高くなりました。

図:外貨準備高管理の意思決定に関連するトピックは何ですか?(2023年)(複数回答可)

出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料をもとに筆者作成

 当該質問の結果は、先進国と新興国それぞれの、置かれている状況や重視している事柄、思想が異なることを示しているとも、言えそうです。