120日ぶりの中ロ首脳会談は何を意味するか?

 6月15日、習近平氏が69回目の誕生日を迎えたこの日、中ロの首脳は120日ぶりに電話会談を行いました。あえて誕生日に電話をかける。プーチン氏なりに考えた上での行動でしょう。

 実は2019年、タジキスタンで第五回アジア相互協力信頼醸成措置会議が開かれた際にも、プーチン氏は習氏が宿泊するホテルまで赴き、習氏の66回目の誕生日をシャンパンとケーキで祝っています。

 当時、ロシアはすでに2014年のクリミア併合を受けてG8メンバーから除名されていましたが、国際的孤立を恐れるプーチン氏なりに、中国がロシアの行動を理解、尊重してくれるよう、盟友である習氏を喜ばせようとしたのでしょう。

 できることは全部やる。

 プーチン、習近平両氏に共通する行動スタイルだと私は認識しています。

 中国外交部が同日発表したプレスリリースによれば、習氏は会談で次のように発言しています。

「中国は主権、安全保障など核心的利益や重大問題において引き続きロシアと相互に支持し合い、両国間の戦略的協力を密接にしていく用意がある」

 また、ウクライナ危機に関しては、「中国は終始ウクライナ問題の歴史的経緯と是非曲直から出発し、独立自主の判断をしていくことで、世界平和とグローバル経済秩序の安定を促進していく用意がある。各方面は責任ある方法でウクライナ危機の妥当な解決を促すべきだ。中国も引き続き然るべき役割を果たしていきたい」と語っています。

 ロシア大統領府も会談について発表し、習氏は「外部勢力によってつくり出された安全保障上の問題に対し、根本的な国益を守るためのロシアの行動の正当性」を指摘したと明らかにしています。中国は、ウクライナ危機を引き起こした根本的原因は冷戦後、NATOの5回にわたる東方拡大であり、それを主導する米国の意図や政策がプーチン氏の軍事行動を招いたと主張してきました。その観点から、ロシアの安全保障上の懸念は尊重されるべきだ、という論調を張ってきました。今回の会談でも、従来の立場や主張を踏襲していたといえます。

 一方で、2月4日、北京冬季五輪に出席するために中国を訪問したプーチン氏と習氏との間で中ロ首脳会談が行われたころと現在では、中ロ間に横たわる空気感や現状認識にズレが生じているのも事実だと思います。

 同会談後に発表された共同声明では、「中ロ関係は冷戦時代の軍事同盟にも勝る。中ロ友好に限界はなく、協力に禁じられた分野もない」とまでうたっています。この「限界なし」(No Limits)は、プーチン、習両氏率いる中ロ関係の実態を象徴する概念だと解釈できました。

 その20日後にロシアがウクライナに軍事侵攻をし、翌日にプーチン、習両氏が電話で会談をし、戦争が終わらない中、さらに120日後に再び両氏が電話で話をした。私から見ると、ウクライナ情勢がこれだけ目まぐるしく、激しく、多くの損失と犠牲を伴いながら変遷してきたにもかかわらず、3カ月以上も会談をしなかった事実は、ウクライナ危機が中ロ関係にとっていかに複雑、敏感、微妙な性質を内包しているかを物語っているように思います。

 2013年3月、習氏が国家主席に就任した直後に最初に訪問したのがロシアであり、それから2022年2月4日までの間、二人が38回も対面で会談している経緯を顧みればなおさらです。

 2月4日、2月25日、6月15日の会談を振り返ると、先述した中国側の基本的立場や認識は変わっていませんが、現在に近づくにつれて、ロシアの行動に理解と尊重を示す「ロシア支持」のトーンは下がっているように見受けられます。中国がロシアの軍事行動そのものを公式に支持することもないでしょう。

 一方で、いろいろあるけれども、中ロはやはり同じ戦略的目標と世界秩序観を共有し、互いの政治体制、地政学的欲求、核心的利益を支持し合っていこうと再確認したということでしょう。

 ロシアの行動は、中国が外交的にボトムラインに据える国連憲章に違反する。故に支持はできない。それでも、ロシアを見限ることはしない。矛盾しているようですが、これが中国側の現実的な認識であり、立場です。