2022年のGDP成長率「5.5%前後」は妥当か?達成に向けた取り組みは

 ここからは、全人代で2022年の中国経済目標がどう語られたかを検証していきます。

 大会初日の3月5日午前、李克強(リー・カーチャン)首相が約1時間にわたって「政府活動報告」を発表しました。日本の内閣総理大臣による施政方針演説に相当します。

 李首相の口から出てきた主な数値を、約1年前、2021年度の目標として語られた数値と比較しながら見ていきましょう。

  2022年 2021年
GDP伸び率 5.5%前後 6.0%以上
都市部における新規雇用者数 1,100万人 1,100万人
都市部における調査失業率 5.5%以内 5.5%前後
消費者物価指数 3.0% 3.0%
GDP比の財政赤字率 2.8% 3.2%

 ちょうど1カ月前の2月10日に配信したレポート「2022年の中国経済は?地方版「全人代」はかなり強気!?」にて、「李首相が2022年度の成長目標を6.0%以上あるいは6.0%前後あたりに設定するとしたら、かなり強気で、私自身は、5.0%以上あたりに設定するのが現実的だと考えている」、と指摘しました。

 結果、出てきた数字は「5.5%前後」。私の感想としては、想定内だが、市場に前向きな期待を与えるために、「少し無理しているな」というもの。自分の判断が誤っていないか検証すべく、李首相を含め、国務院(政府)の経済政策を提言する立場にあるブレーンの一人に感想を聞いてみました。

「我々は5.0~5.5%が現実的な数値だとみていた。その意味で、5.5%前後というのは、市場関係者たちをエンカレッジ(激励)する意味を込めた数値というのが私の判断だ」

 このブレーンによれば、中央政府内部において、中国経済の潜在的成長率は5.5~6.0%だと認識・議論されています。過去2年の平均成長率は5.2%増(2020年:2.3%増、2021年:8.1%増)で、低い数値で推移しています。

 彼が言いたいのは、5.5%前後という目標は決して達成できない数値ではないけれども、財政出動、金融緩和を通じて、マクロ政策をフル動員しつつ、新型コロナウイルス感染防止策が経済に及ぼす影響を最小限に食い止める必要がある、ということです。

 この説明は、私からみても違和感ありません。2021年下半期の成長率(第三四半期4.9%増、第四四半期4.0%増)が低迷した理由は、世界的な原材料高、中国当局による市場への引き締め策もありますが、経済活動に不確実性を与える「ゼロコロナ」と無関係ではありませんでした。

 全人代開幕前日に開かれた記者会見にて、張業遂(ジャン・イエスイ)大会報道官は「動態的ゼロコロナ」という概念を引き合いに出し、「最小限のコストで最大限の成果を得ることが目的であり、ゼロ感染を追求するものではない」と述べています。当局は、昨年以上に経済への影響を慎重に考慮しつつ、感染拡大防止策を展開していくでしょう。

 その他の指標ですが、都市部における新規雇用者数は2021年度と同レベル。2021年は実際に1,269万人で目標は達成しましたが、コロナ前(2019年:1,352万人)の水準に戻っておらず、今年も厳しいという当局の心境が垣間見れます。

 一方、都市部における調査失業率を「5.5%前後」からさりげなく「5.5%以内」としている点には(2021年の平均は5.1%)、雇用という国民生活に直結する最重要分野で政府として尽力しているとアピールしたいのでしょう。

 GDP(国内総生産)比の財政赤字率は2021年度より0.4ポイント下方修正。李首相は、長期的に財政を健全化していく狙いがあると指摘します。劉昆(リュウ・クン)財政部長の説明によれば、0.4%というのは2,000億元分に相当するようですが、年度末調整や中央財政が投入する一般予算などで、1兆3,000億元(約1%相当)の財源を確保できる模様。

 財政収入も増え、2兆元以上の資金を財政出動に使っていく見込みです。地方特別債の発行額は前年並みの3兆6,500億元で、30兆元の投資案を発表している地方政府によるインフラ投資を支持していくでしょう。

 最後にCPI(消費者物価指数)の上昇率ですが、2021年度は3.0%前後という目標設定をしておいて実際は0.9%。2022年1月も0.9%で、米国の7.5%、ユーロ圏5.1%と比べてもかなり低い水準です。当局は「比較的低いインフレ率」を目標に掲げていますから、3.0%を上回るようなインフレは何が何でも避けるべく動いていくでしょうが、適度に上昇することは需要を含めた景気が回復している証左と認識しています。今年度の金融政策も、引き締め傾向の米国とは異なり、全体的に緩和の傾向で景気を下支えしていくものと想定されます。