中国と諸外国との関係は市場・消費動向を左右する

 式典の話に戻りましょう。習総書記が重要談話にて、次の言葉を放った直後、会場のボルテージは最高潮に達しました。

「中国共産党と中国人民を切り裂き、対立させようとするたくらみは絶対に成功しない。9,500万以上の中国共産党員は納得しない! 14億以上の中国人民も納得しない!」

「中国人民はいかなる外来勢力が、我々をいじめ、圧迫し、奴隷のように扱うことを許さない、仮にそうするのであれば、14億以上の中国人民の血と肉によってできた鋼のような長城にぶち当たり、頭から血を流すことになるだろう!」

 会場にいた人民は拍手喝采を送り、心の底から中国人であることを誇りに感じているように見受けられました。

 習総書記は、約180年前に勃発したアヘン戦争以降、中国人民は屈辱の歴史に耐えてきた、それらを忘れず、乗り越えることで中華民族の偉大なる復興が実現するのだと訴えました。

 今回の式典に限らず、全ての中国人はこの手の歴史教育、愛国教育を、家庭、学校、社会で受けてきました。その中で、特に欧米や日本との関係には敏感に反応する傾向が非常に強いです。

 昨今、新疆ウイグル人権問題、香港問題などが引き金となり、中国と欧米日との関係も揺らいでいますが、国家間の関係の悪化は、中国人民の行動原理にかなり直接的に反映されると言っていいでしょう。典型的な構図を例として挙げます。

1:新型コロナウイルスの発生源問題が引き金となり、米中関係が悪化する

2:中国共産党は、米国が中国を不当に批判、侮辱し、責任を負わせようとしていると、自国の世論に向かって大々的に、対米ネガティブキャンペーンを展開する

3:愛国心が刺激された人民は、党によるキャンペーンを受けて、米国への不満や不信を抱き、あらわにするようになる

4:人民の米国に関わる行動に変化が生じる。米国の製品を買わなくなる。米国の大学・大学院へ行きたくなくなる。米国のことをよく言う知人と縁を切る、など

 最近、私の周りでも印象的な出来事がありました。

 知り合いの著名ジャーナリストが、必死の勉強と準備を経て、米ハーバード大学の大学院に合格。コロナ禍で進学を1年延長しましたが、その後、トランプ政権末期からバイデン政権にかけて米中関係は持続的、構造的に悪化しました。

 そして、この知人はなんと、米中関係の悪化と米国への不満を理由に、ハーバード大進学を自ら放棄したのです。

 この知人のようなケースは氷山の一角であり、全く例外ではありません。

 2016~2017年、私が遼寧省瀋陽市で生活していた頃、米国が韓国にTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)を配備したことが引き金となり、中韓関係が悪化しました。地理的に近い、ビザも比較的入手しやすいといった理由もあり、それまで多くの中国人が韓国に観光へ出かけていましたが、THAADの配備を受け、周囲にいた中国人が一斉に韓国への観光を取りやめていた光景を思い出しています。

 また、私がある日、瀋陽市内にある韓国系スーパーマーケット「ロッテ」で買い物をし、同社のスーパーの袋をぶら下げながら、遼寧大学横にある、いつも利用している食事処に入ろうとすると、顔なじみのおかみから「ロッテで買い物をしたんなら、うちでは食事をしないでほしい」と追い出されました。

 このように、中国の対外関係においては、国と国との関係が、人民の感受性や行動原理をかなり直接的に左右します。マーケットへの影響も大きいです。

 中国経済、マーケットの動向を正確に把握するためにも、対日本を含め、中国と諸外国との関係を常時把握しておく必要があるのは、このためです。

 私自身、日ごろ交流のある機関投資家から最も受ける質問の一つが日中関係ですが、この問題意識は極めて重要、かつ必要不可欠であることが分かります。