株価の先見性

 アップルを例に取ると、ユーザーが皆、iPhoneに満足し、(この会社は良い会社だから、この株はずっと持っていたい)と願えば、誰も売ろうとしないので、売り物は少なくなります。その一方で、新しいアップル・ファンはどんどん増えるわけですから、アップル株の買い手は多くなります。株価が上がるのは、こういうときです。

 新しいiPhoneが発表されるたびにアップル・ストアの前に行列ができて、過去の売り上げ記録が更新される……。このようなパターンが何度も繰り返されると、ユーザーや投資家は、(次も当然前回よりもっと高くなるぞ)と考えます。このような心の動きを金融用語では期待と言います。

 そういう期待を誰もが抱く以上、マゴマゴしていたらアップルの株を買いそびれてしまいます。このため見切り発車で、実際に次の新製品がいまだ出ていないうちから、先回りした買い注文がアップル株に入るわけです。このような過程を「好材料を織り込みつつある」というふうに形容します。

 つまりある企業の株価が上がる根底には、その会社の製品やサービスが熱烈に、ないしは切実に必要とされることがあるわけですが、実際の株価は、そういう製品やサービスが出てくることを期待し、先回りしてそれを織り込もうとする投資家によって価格形成されていくというわけです。

 ところが、せっかく前評判通りのエキサイティングな新製品が発表され、あるいは素晴らしい決算が出たにもかかわらず、その瞬間には株価が反落してしまうケースが多いのです。すでに株式投資の経験を積んだ先輩投資家は「これは材料出尽くしだ」という、何だか底意地の悪い説明をします。

 視点を変えれば、それは実際の良い材料より株価が先に反応することに他ならないわけで、このことを市場参加者は「株価の先見性」と呼んでいます。

 株価に先見性があるということは、マーケットで起こることは実際のビジネス社会で起こることより一歩先行していることを意味します。これがズレの生じる主因です。