年度末には、投資需要により長期金利の上昇は抑えられると予想

 現在の円安の背景は、米長期金利の上昇によって日米金利差が拡大し、円安になっているとの見方ですが、この日米金利差については、こういう試算があります。ドル/円が110円台に定着するためには、日米10年債の金利差が2.4%以上に拡大することが必要との見方です。日本の国債10年物の上限が0.2%程度ならば、米10年債利回りは2.6%程度まで上昇する必要があることになります。ここまではさすがにFRBは容認しないだろうと思える水準です。また、大量の余剰資金を抱えている日米の機関投資家にとっても魅力的な水準です。2%手前でも、年度末の安全資産として魅力的な水準です。これらの投資需要によって長期金利の上昇は抑えられることが予想されます。

 さらに、1980年代からの米10年債利回りとFF金利の平均乖離(かいり)は1.4%程度とのことであり、ゼロ金利政策が2023年末まで続くのであれば、米10年債利回りは1.4%台以上では伸びが鈍るか、長続きしないことになります。逆に、もし、これから年内の間、1.4%以上で推移するのであれば、FRBは年内にも利上げに迫られる局面に追い込まれるかもしれません。この時は、利上げという短期金利の上昇によってもう一段のドル高の可能性が出てきますが、まだまだ長期失業者の割合が高く、変異ウイルスによる感染拡大など不透明な要因が多い中では、雇用の最大化を目指すFRBにとっては利上げは現実的な政策ではありません。何らかの対策を打ってくることが予想されます。

 先週の雇用統計は予想を上振れ、失業率も低下しましたが、FRBは実際の失業率は10%近いと認識しているようです。イエレン財務長官がFRB議長の時に、「イエレン・ダッシュボード」として9つの雇用関連指標を注視していたとの話は有名ですが、パウエル議長も、「パウエル・ダッシュボード」として、黒人失業率、 低賃金労働者の賃金の伸び、非大卒者の労働参加率を注視していると報道されています。しかし、先週の雇用統計では全て悪化しているとのことです。

 来週のFOMCの前に、今週は、米国のCPI(消費者物価指数:10日)、PPI(購買担当者景気指数:12日)の物価指標が発表されます。もし、予想よりも高くなれば、今の局面では長期金利が上昇し、ドル高に反応することが予想されます。パウエル議長は、物価上昇は一時的であり、長くは続かないとの見方を維持していますが、マーケットの反応には注意が必要です。

 FOMCの前に、長期金利が上昇を続けると、急激な長期金利上昇は株安や、回復途上の経済の足かせになるとの判断から、FOMCでは長期金利上昇の抑制策に言及する可能性があります。マーケットの方が先取りして、警戒心が高まる可能性もあり、ドル/円も急スピードの円安に調整が入るかもしれないため、今週、来週の波乱相場には注意が必要です。