売却益(譲渡所得)についてはシミュレーションが必要

 もう1つ考えられる代表例が、源泉徴収ありの特定口座を複数もっていて、その中に利益が生じているものと損失が生じているものがある場合です。利益と損失を相殺するために所得税の確定申告を行うケースです。

 そして、過去から繰り越した譲渡損失と、源泉徴収ありの特定口座で生じた利益を損益通算するために所得税の確定申告を行うケースもあります。

 会社勤めの方など、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の支払いが必要ない場合は、住民税においても確定申告した方が有利です。

 しかし、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の支払いが必要となる方の場合は、利益が生じている口座の利益の金額と損失が生じている口座の損失の金額がどれくらいかにより、住民税において確定申告するか申告不要とするか、どちらが有利か異なります。同様に、繰り越した譲渡損失と当年の利益の損益通算をする場合も、両者の金額がどのくらいかにより有利・不利が異なってきます。さらには、利益が出ている源泉徴収ありの特定口座が複数ある場合、どの特定口座の利益と繰り越し譲渡損失を相殺するのが有利かも、所得税と住民税とで異なる場合もあります。

 このように、譲渡所得の場合はケースごとに結果が異なり、かなり複雑で難解です。しっかりとシミュレーションして、有利な方を選択するようにしてください。

 

住民税で申告不要を選択するには手続きが必要

 所得税で配当金や譲渡所得を確定申告し、住民税では申告不要を選択するには別途手続きが必要となります。これ以外でも、所得税で選択した方法と住民税で選択する方法が異なる場合も同様です。

 もし何も手続きをしなければ、所得税と同じ方法を住民税でも選択したとみなされてしまうからです。

 この手続き方法は、実は自治体によってバラバラです。配当金について、例えば練馬区のホームページには詳しく説明がありますが、住民税の申告書を提出してください、としか書いていない自治体も多いです。

 そして譲渡所得で所得税と住民税とで異なる取り扱いを受けるケースについて、詳しく説明されている自治体は、ほぼ皆無です。藤沢市のホームページにはある程度の記載はありますが、手続きの詳細はお問い合わせください、と記載されています。

 このように、自治体によって提出が求められている書類もバラバラですので、まずはお住まいの自治体に問い合わせることをお勧めします。

 そして住民税の申告書などの提出期限は、実は3月15日(金)までに出さなくても大丈夫です。住民税の納税通知書が送達される時までとなっています。納税通知書の送達は、住民税が普通徴収の人であれば6月上旬、特別徴収(給料から天引き)の人であれば会社に対して5月下旬ごろに行われます。

 はっきり「◯月○日までなら大丈夫」とは言えませんので、ご自身の自治体に確認のうえ、余裕をもってできるだけはやく提出することをお勧めします。

 配当金の場合は比較的分かりやすいですが、繰り越した譲渡損失の「損益通算」や複数の特定口座の相殺の場合は、諸条件によりどうすれば最も有利になるのかが全く異なってきます。

 所得税は申告する一方で、住民税では申告不要を選択するためには逆に住民税の申告が必要になるわけですから、なんとも理解しづらい仕組みです。でも、無駄な税金を払わないようにするよう、しっかりとご自身で知識を身に付けておくようにしましょう。

 

(注)一人ひとりの諸状況、諸条件の違いにより、上記とは異なる税務上の取り扱いになる場合があります。本記事を参考に行動した結果について、筆者は一切の責任を負いません。あらかじめ税務署、自治体、税理士などへご相談のうえ実行されることをお勧めいたします。