今年夏に法案が通った民法の相続関連大改正。中でも注目が集まっているのが「配偶者居住権」。配偶者の権利強化につながるものですが、よく理解しておかないと相続のときにトラブルの原因となるかも知れません。

 

「配偶者居住権」って一体どんなもの?

 民法の一部を改正する法律が2018年7月6日に成立、7月13日に公布されました。
 相続法の分野については、1980年以来約40年ぶりの大きな改正であり、残された配偶者(例えば夫が亡くなった場合の妻)の権利を保護することが大きな目的の一つとなっています。

 改正の目玉の一つが、「配偶者居住権」の新設です。簡単に言えば、相続により残された配偶者が、自ら住んでいた家に引き続き住むことができる権利のことです。
 この配偶者居住権は、登記をすれば第三者に対抗もできる、かなり強い権利となっています。2020年7月12日までに適用が開始されます(開始時期はまだ未定です)。

 配偶者居住権には、正確には短期居住権と長期居住権の二種類がありますが、一般に「配偶者居住権」といえば、長期居住権のことを指します。本コラムでも、長期居住権を前提に話を進めていきます。

 

なぜ「配偶者居住権」を認める必要があるのか?

 なぜ残された配偶者にこの「配偶者居住権」を認める必要があるのでしょうか? それは、相続が起きたことをきっかけとして、配偶者が住んでいた家を売却する必要が生じたり、家に住み続けることはできるが現預金の相続ができず、老後の生活費を確保できない、というケースが生じることが多いからです。

 例えば相続財産の多くが自宅の土地、建物であり、現預金や株などの金融資産が少ない場合は、次のような二つのケースに当てはまることが多くなります。

ケース1
 相続人:妻と子A、子B
 相続財産:自宅土地・建物5,000万円、金融資産1,000万円
 妻は今まで通り自宅に住み続けたい、一方子A、子Bは自分の家を既に持っているので自宅ではなくお金が欲しい。

 法定相続分どおり妻2分の1、子A・子Bがそれぞれ4分の1ずつ相続すると、子Aや子Bが法定相続分に見合った金融資産(子A、Bの2人で3,000万円)を相続するためには自宅を売却して換金する必要があります。
 そのため、妻は今まで住んでいた家から出なければなりません。

ケース2
 相続人:妻と子A、子B
 相続財産:自宅土地・建物3,000万円、金融資産3,000万円

 この場合、妻が自宅3,000万円、子Aおよび子Bがそれぞれ金融資産1,500万円ずつを相続すれば、妻が自宅にそのまま住み続けられます。
 しかし、妻は金融資産を全く相続できないので、今後の生活費が不足してしまうという心配があります。

 配偶者が高齢の場合、それまで住んでいた家を引っ越さざるを得ないというのは非常に負担となります。また、例えば夫が亡くなった場合、残された妻にとってはその後の生活費を確保できないのはとても不安なことです。