2017年原油相場レビュー

NYMEX WTI月足 期近引継足(ドル/バレル)

 

 2017年の原油(WTI)価格は、年後半に上昇し始めて年末には60ドルを上抜いた。

 2014年後半、イラクからの原油輸出やリビアの原油生産が回復、一方で欧州や中国の景況感悪化により需要鈍化が懸念され、原油価格は大台の100ドルから急速に下落した。2015年に入っても、米国のシェールオイル開発が進んだ影響もあり、世界的に原油供給に余剰感があった。ダブつき解消に向けて石油輸出国機構(OPEC)の生産抑制が期待されたが、OPECは生産水準を維持する方針を示した。つまり米国の増産による価格低迷を容認した格好である。そのため原油価格は2015年に入っても下落し続け、翌年2016年2月には26.05ドルまで下落した。原油価格が下げ続けたことでシェール開発を取りやめる動きが見られ、先の安値以降はやや持ち直したが、常に米国の増産が懸念材料となり、2017年前半まで40-50ドルのレンジで目立った方向性が出ない状況が続いていた。

 しかし、2017年後半は徐々にではあるが上昇し始めた。その背景にはいくつかの要因があり、主たる要因としてはOPEC加盟・非加盟国の協調減産が挙げられる。2016年12月にOPEC加盟国とロシアなど非加盟国は、15年ぶりに協調減産を実施することで合意した。当初、減産期間は2017年1月から6月までの半年間の実施であったが、5月の総会にて2018年3月末までの期限延長を決めた。本腰を入れて需給不均衡の是正に取り組むという姿勢は、これまでサウジアラビアなどの中東産油国は市場シェアの維持を考えていたが、油価低迷が長期化したことにより、価格安定化を最優先とする戦略に転換したことの表れだろう。加盟・非加盟国合わせて日量約180万バレルもの減産であり、順守されれば自ずと需給は均衡していくことが期待された。11月30日のOPEC総会では、協調減産のさらなる期限延長が決まり、2018年には供給過剰感が薄れて需給はバランスに向かうとの期待感が広がった。この他にも2017年はハリケーンの当たり年であったこと、中東の地政学的リスクが高まったこと、外為市場でユーロ/ドルが上昇したこと、株式市場では高値更新が相次いだこと、このような複数の買い材料があったことで、年初の高値水準である55ドルをブレイクするに至り、そして年末には節目の60ドルに達した。

 

OPEC加盟・非加盟国の協調減産

これまでの流れ

 2016年11月30日。OPECはウィーンで総会を開き、原油市場の需給不均衡を改善して原油価格を回復するため、OPECとして生産量の約4.5%に相当する日量120万バレルを生産削減することで合意した。2017年1月から6月まで減産を実施することに。OPECが減産合意したのは2008年以来のこと。OPEC盟主であるサウジアラビアが日量約50万バレルを減産、加盟国全体で産油量を同3250万バレルに抑制することが決定した。政情不安等のあるリビアとナイジェリアについては減産の適用を免れ、経済制裁解除により産油量の回復途中にあるイランについては、合意時点の生産量近辺で凍結する特例措置が取られた。実質的には、経済制裁前の水準を主張するイランの要求をサウジアラビアは受け入れており、イランの一部増産を容認した格好。また、同調する姿勢を示していたロシアなど非加盟国の参加を減産実施の条件とした。

 12月10日、OPEC加盟国と非加盟国(ロシア、メキシコ、オマーン、アゼルバイジャン、カザフスタンなど11カ国)はウィーンで閣僚会合を開き、非加盟国全体で日量55.8万バレルの減産を履行することで合意した。OPEC加盟国と非加盟国による協調減産の合意は、米同時多発テロによる需要が落ち込んだ2001年以来。先の総会で合意した加盟国による日量120万バレルの減産と合わせて、全体で日量約180万バレルの減産を実施することとなった。さらに減産の順守状況を監視する共同閣僚監視委員会(JMMC)を設置、市場均衡化に向けた積極的な姿勢が示された。

 2017年に入り、協調減産が開始されたが、OPEC全体としては減産を履行するも、非加盟国の減産の動きが鈍く、加盟国と非加盟国全体の減産順守率は4月になるまで100%を超えることはなかった。そのため、減産を決めたことは評価に値するが、履行されないようであれば需給改善は遅々として進まないとの見方が広がり、なかなか原油買いにつながる状況には転じなかった。しかし、4月以降は順守率が100%を上回り、さらに5月25日の総会で、減産措置を2018年3月末までとする9ヶ月の延長で合意、これにより需給改善に向けての本気度が伝わり、原油価格は6月の42.05ドルを底値に切り返す動きに転じた。

 その後も7月の閣僚会合では、ナイジェリアが自主的に生産量の上限を設定することが決まり、11月30日の総会においては、減産期限を2018年3月からさらに9ヶ月間延長して2018年12月末まで続けることで合意した。減産規模はこれまでの日量180万バレルのままだが、減産合意の適用除外となっていたナイジェリアとリビアに関しても、生産上限を2017年の水準にすることで決まった。協調減産に加わっていない米国のシェールオイル増産への対抗措置を本格化させる姿勢を示した格好である。

 

減産は奏功するのか、均衡する時期は?

 複数の強気な材料があったとはいえ、2017年下期に原油価格が上昇した理由の一つとして、OPECらによる協調減産が影響したことは明白だろう。ただし、OPECは原油市場が均衡する目標として先進国(OECD)の石油在庫が過去5年平均レベルにまで減少する必要があるとしており、この水準を未だ大幅に上回っている。減産の効果が数字として表れ、さらにある程度の期間で5年平均への到達が視野に入った場合は、需給改善のリアリティが増し、原油相場は急速に買われる可能性がある。しかし、足元の在庫水準と減産ペースを勘案すると、即座に市場均衡の兆候が出てくることは想定し難い。

 国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、経済協力開発機構(OECD)の商業用石油在庫は10月時点で29億4000万バレル。10月時点の過去5年平均は28億1500万バレルほどであり、あと1億2500万バレルの取り崩しが必要となる。月毎に在庫増減があり、定点ではなく2012-2016年(過去5年)の平均水準まで取り崩すとなると、あと1億5000万バレルほどの在庫縮小が必要である。日量180万バレルの減産を順守すれば80-90日ほどで達成可能となるが、これは机上の空論に過ぎない。実際にはその他の数多の要因があるため、この通りにはならないのは言わずもがなである。

OECD民間石油在庫(100万バレル)

IEAのデータを基にクリークス作成

 2017年1月から減産を実施しているが、年初の水準からの減少幅は1億2500万バレルほど。その他の需給バランスがこれまでと変わらないと仮定した場合、少なくとも同期間の10ヶ月ほどの期間を要することになる。2017年後半に入り、平均水準との差の縮小ペースが速まっているが、年末年始の在庫調整、夏場のドライブシーズンに備えて在庫を積み増す傾向があるため、そのペースはやや鈍化する可能性がある。仮に足元のペースを継続したとしても、市場均衡が視野に入るのは春季の定修が一巡する4月ないしは5月あたりになるとみている。

ロシアの原油生産量(1万バレル/日)

IEAのデータを基にクリークス作成

 なお、この条件が達成されるには、加盟国および非加盟国が最低限現状のレベルでの減産を遂行し続ける必要がある。2017年に入ってからOPEC加盟国は減産を履行する産油国が増え、その結果順守率も高めで推移している。しかし、非加盟国には非順守国が多く、足並みは揃っていないといえよう。つまり減産参加国間で温度差があると判断せざるを得ない状況にある。なかでも日量約60万バレルの減産のうち半分の同30万バレルの減産を目標とするロシアにおいては、夏場に目標数値まで減産したが、足元では再び目標未達の状態に戻っている。米同時多発テロの影響で需要減退を懸念し実施した2001年の協調減産時も、減産は履行されたが生産目標に対しては届かず、原油価格の上昇に連れて順守しない産油国が相次いだ。中東産油国の大半が歳入の大部分を原油に依存しているため、原油価格が上昇することで輸出収入確保に動き、そのため減産を守らなくなった経緯がある。資源国ロシアにとっても同様である。当時は、中国を筆頭とするBRICsといった新興国の石油消費量の急拡大があったため、減産が全うされずとも需給バランスは改善に向かったが、そこまでの需要の伸長が見込めない現在においては、バランスさせるには供給を絞ること、つまり合意した内容を順守することが最優先となる。しかし、足元の原油価格の戻りを受け、一部の産油国からは減産に消極的な意見も聞かれる。原油価格次第では減産ペースが鈍化するシナリオも想定しておく必要がある。これはロシアに限らず、原油価格が60ドルを超えてきた現在、その他非加盟国はもとよりOPEC加盟国においても減産を順守しなくなる可能性もある。

 また、OPECは概ね原油の減産を履行しているが、NGLなどの生産は微量ながらも増加傾向にある点にも注意したい。コンデンセート(軽質の原油)など二次供給は減産対象外となっているため、減産の抜け道としてこれら二次供給品の生産を意図的に増やしている可能性もある。特にイランのコンデンセート供給に対するポテンシャルは高く、見掛けは減産が履行されていたとしても、同国を中心に減産対象外の二次供給品が市場に出回り、需給バランスがなかなか改善されないといったシナリオも描いておく必要があろう。過去5年の在庫水準との乖離と縮小ペース、戻している原油価格、二次供給の生産増加傾向、これらの関係からすると、2018年前半は供給過剰の状態が続く可能性が高く、需給がバランスするのは早くとも2018年下期に入ってからになるだろう。サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相も12月時点で、在庫はまだ大きく減少しておらず約1億5000万バレルの供給過多にあり、2018年下期まで解消しないとの見解を示している。

OPECの原油およびNGLs生産量(1万バレル/日)

IEAのデータを基にクリークス作成

 

米国のシェールオイル生産増

リグ稼働数は増加傾向

 OPEC加盟国および非加盟国が減産を実施するも、未だに世界的な原油需給バランスが供給過剰を維持している主たる要因は、米国の生産増加が続いているためである。その増加のほとんどがシェールオイル生産によるもの。2014年以降の原油価格下落により採算性が悪化、掘削活動が停滞していたが、ここにきて原油価格の戻りに歩調を合わせて、再び掘削活動が活発になってきている。米エネルギー情報局(EIA)の週次のデータによると、米国の原油生産量は2017年11月第1週の時点で、1983年の週次統計開始以来、過去最高を更新した。その後も原油価格が回復基調を継続、シェール企業は積極的に増産に動き、シェールオイルを含む米国の原油生産量は右肩上がりの状態にある。シェールオイルの生産動向を確認するにあたっては、石油掘削装置(リグ)の稼働数が一つの目安となる。リグの稼働数が上がることで、いずれその油井からシェールオイルが生産されるため、リグ稼働数の増加は先行きの原油生産量増加の指標となる。

 リーマンショック後の油価暴落後、原油価格は再び100ドル水準へと上昇した。価格上昇によりコスト見合いが十分となり、シェール企業の活動が急回復し、2014年10月にリグ稼働数は1609基にまで増加した。しかし、原油価格がその後急落したため、シェール企業の生産活動は急縮小し、その動きに遅れる格好で原油生産量も減少に転じた。2016年に原油価格は20ドル台まで下落したため、リグ稼働数は同年5月に316基にまで減少した。長期停滞の可能性もあったが、原油価格が安値から戻し始めたため、シェール企業は再び生産活動を回復、その動きに遅れて追随する格好で原油生産量も増えている。2017年末時点で、リグ稼働数800基水準にまで回復した。稼働状況はピーク時の50%程度に過ぎないが、1油井に対する生産性向上の影響もあり、原油生産量は過去最高を更新するに至った。また、掘削はしたものの油価下落により生産していない油井があり、リグ稼働数には反映されていないが生産量増加に寄与している油井が増えている。

米国の原油生産量およびリグ稼働数(1万バレル/日、基)

EIAおよびベーカー・ヒューズのデータを基にクリークス作成