本コラムは、個人投資家でもあり、公認会計士・税理士でもある筆者が、相続や相続対策に関する数ある情報の中から、これだけは知っておいていただきたいという点を中心にお伝えしていきます。

そして、筆者の得意分野である上場株式や債券、投資信託といった金融商品についての相続にまつわる知識・情報、さらには金融商品を用いた相続対策の方法やその有効性などについても取り上げていきます。

星の数ほど存在する「相続」に関する情報

一時のブームは収まったように見えますが、世の中は「相続ビジネス」で盛り上がっています。

しかし、私たちは、相続ビジネスを「売る側」から発信される情報、さらには新聞、雑誌、インターネットなどあらゆるところで提供されているたくさんの情報の中から、本当に必要なことを取捨選択していかなければなりません。

でも、自分の専門分野でもないのに、必要な情報をピックアップするのは至難の業です。例えば、健康に関する情報1つとっても「朝食はとるべきだ」「朝食は取る必要はない」とか、「牛乳は健康に良いから積極的に飲むべきだ」「牛乳は健康に良くないから控えるべきだ」と、根拠が正反対の情報が存在します。こうした情報を、どれが正しいか判断することは非常に困難です。

同じことが相続に関する情報にもいえます。「アパート経営は相続税対策に有効」「アパート経営は危険だからすべきではない」と双方の主張が異なる情報が数多くあります。

相続税が減っても納税資金が足りなくなってしまう

筆者が常々問題だと感じるのは、確かにその部分だけを切り取ってみると非常に有効な対策に思えるものの、相続対策というトータルで見た場合、必ずしも有効とは言えない、場合によっては逆効果になってしまうため実行しない方がよい、というものが数多くあります。上記のアパート経営についての相対する情報が存在するのも、このあたりに原因がありそうです。

例えば、賃貸アパート・マンションを建築すれば、確かに相続税を減らす効果はあるでしょう。しかしその結果、相続財産に占めるキャッシュの割合が少なくなり、納税資金が足りなくなることがよくあります。また、不動産は細かく分割できない財産のため、誰が相続するかを決める際、相続人の間で争いが起きる原因となります。

数ある情報の中から、自分に合った正しいものを見つけることは、よほどご自身で知識を習得されない限り、かなり難しいと言わざるを得ません。

実際、筆者はこれまで多くのお客様と接してきた中で、良かれと思って行った相続対策が原因で全財産を失ったり、家庭崩壊となってしまったケースをいくつも見てきています。

相続対策に対する意識が高くなかったため、生前に何も対策をしなかったというケースもたくさんあります。

「相続」というと何やら他人事のように思えてしまいますが、誰もが必ず経験するものです。そして、個人投資家の方は、そうでない方より多くの財産を持っていることが多いため、なおのこと正しい知識を得て必要な対策を取ることが重要となります。

「相続」を考えるとき最も重要なこととは?

ところで「相続」を考えるとき、何が一番重要で、何を真っ先に行わなければならないと思いますか?

もちろん、相続に関する基本知識や相続対策についての本を読んだり雑誌の特集記事に目を通したりすることも非常に重要です。世の中には、知らなかったがために損をするということが多々あります。自ら情報を仕入れておくことに損はありません。

しかし、知識を習得するよりもなによりも真っ先に行わないといけないことがあります。それが「現状把握」です。

現状を把握しないと、これからしようとしている相続対策が本当に有効なのか、実はそもそも相続対策など必要ないのではないか、といったことが分からないまま相続対策を実行してしまいます。

すると、結果として「やる必要はなかった」とか、「やらなければ良かった」という結末になってしまうことも多いのです。

何をどのように把握するのか

では、現状把握について、具体的にどんなことを行っておく必要があるのでしょうか。

まず、相続人は誰なのかを把握しておかなければなりません。相続人の人数が分からなければ相続税の基礎控除額も分かりません。時には自分が知らなかった人が相続人であることが判明することもあります。

相続人を正確に把握するためには、自らの出生以降の戸籍謄本を調べる必要があります。自信がなければ少し費用は掛かりますが司法書士の方に頼んでしまえばよいと思います。

次に、自らが保有する財産の把握です。

確定申告の際にご自身の財産について確認することも多いでしょうから、毎年12月31日時点の財産を集計するのが良いのではないかと思います。そして、1年に1回、毎年12月31日時点で内容を見直していきます。

資産の種類に応じて、次のように計算していきます。

  • 現金(タンス預金など):「だいたいこのくらいだろう」というイメージでOK
  • 預金:通帳の残高
  • 上場株式、債券、投資信託:取引報告書などに記載されている時価で計算
  • 土地:路線価図に書かれた路線価に面積を乗じて計算(倍率地域の場合は固定資産税×評価倍率)
  • 建物:毎年春に送られてくる固定資産税納付書に同封されている明細書の評価額(=「固定資産税評価額」)
  • 借入金:返済予定表をみて年末時点の残高を計算
  • 自身が被保険者の生命保険:死亡保険金の額

細かく集計する必要はありません。現状を把握するのが目的ですから、おおむね合っていればよいのです。財産額から負債額を差し引いた正味の相続財産の額を計算します。

もし会社のオーナーであって、ご自身の会社の株(非上場株式)を保有されている場合は、相続税上の評価額を税理士に試算してもらうことをお勧めします。結構大きな額になることが多いからです。

現状を把握することができたら、ようやく「相続対策」の検討に移ります。この順番が大事ですから、くれぐれも現状が分からぬまま相続対策を始めないようにしてください。