今回は前回の続きとして、株価が急落しても大きな損失を被ることがないような投資行動のポイントをお話していきたいと思います。

強い銘柄への資金集中はリスクもそれなりに大きい

日経平均株価やTOPIXといった株価指数が下降トレンドに転換したとしても、個別銘柄も同じように下降トレンドとなるわけではありません。株価指数が下降トレンドにあったとしても、株価が逆に上昇を続けるような強い銘柄も存在します。

戦略の1つとして、強い銘柄にある程度資金を集中させるという方法があります。例えば、現在A,B,C,D,E,F,G,H,I,Jという10銘柄に、投資可能資金の5%ずつ(合計50%)を投じている状況にあるとします。

株価が調整局面に入り、C,D,E,F,G,H,I,Jの8銘柄は下降トレンドに転換してしまいました。しかし、A、Bの2銘柄は上昇トレンドを維持しています。

このとき、C~Jの銘柄を売却した資金をそのままキャッシュで温存するのではなく、AとBの追加買いをします。その結果、A25%、B25%という配分に代わります。A銘柄とB銘柄は、株式市場全体が調整局面にあるのに上昇トレンドを維持しているわけですから、株式市場の調整局面が終われば、他の銘柄より大きく株価が上昇する可能性が高いと判断しての行動です。これは、利をできるだけ大きく伸ばすために有効な戦略とされています。

しかし、この方法も、中長期的な上昇相場の途中の一時的な下落であれば有効ですが、リーマンショックのような急落や、中長期的に下落相場に移行してしまった場合は損失が不用意に膨らむ結果になりかねませんので注意が必要です。

上の例でいえば、C~Jの売却資金をキャッシュで温存しておけば、その後AやBが下降トレンドに転じて売却した時の損失もそれほど大きくなりません。でも、C~Jの売却資金をAやBに振り分けた場合、AやBが下降トレンドに転じて売却した時の損失が5倍に膨らんでしまう計算となります。

もし、C~Jの売却資金をキャッシュで温存する場合のA~Jの売却による損失が各銘柄1、合計10とすると、C~Jの売却資金をAとBの追加投資に充てた場合のA~Jの売却による損失は18に膨らんでしまうのです(C~Jが各1、A・Bが各5)。

筆者個人的には、株価指数が下降トレンドに転じて、保有株も次々と下降トレンドに転じている状況であれば、下降トレンドに転じた銘柄の売却代金を保有中の上昇トレンド銘柄の買い増しに使うのではなく、キャッシュのまま温存します。そして、株価指数が上昇トレンドに転じる、もしくは上昇トレンドに転じる銘柄が日々増加するのを待って、そのキャッシュを再度買いの資金として使うようにしています。

株価の下落が本格的になると、それまで強かった銘柄も次々と弱っていき、下降トレンドに転じてしまいます。そのときに、強い銘柄に多くの資金を投じていると、上で説明したように、損切りをする際に結構な額の損失が生じてしまいます。

株式市場全体が弱い動きになっているときは、無理に強い銘柄にポジションを傾けるのではなく、キャッシュの割合を高めておいて次のチャンスが来るまで温存しておくのが、不用意に損失を拡大させないためには有効なのではないかと思います。

身銭を切って運用していない専門家のコメントではなく株価に耳を傾けよう

株価が大きく下落した際、しっかりと対策を取っていない多くの個人投資家は右往左往してしまいます。「ネット難民」となり、これからどうすればよいか。その答えを探し出そうとネットに転がっている専門家のコメントを読み漁ります。しかし、時にはそれが傷口をさらに広げてしまうことにもなりかねない点には十分に注意が必要です。

例えば、8月22日時点では、「週明け24日は絶好の押し目買いチャンス」とするコメントや、「チャイナ・ショックで株価はさらに暴落する」というコメントなど、様々な専門家が様々な見解を述べています。

もちろん、専門家の方も根拠なく無責任にコメントを出しているわけではなく、その方なりの根拠があるはずです。例えば8月24日は押し目買いのチャンスとコメントしている専門家は、過去の株価の動きを分析した経験則から、「このパターンであれば、9割方買いのタイミングになる」と判断した結果のコメントなのだと思います。

しかし、前回のコラムでも述べましたが、9勝1敗でも1敗が大きければ資産を大きく減らしてしまいます。最も注意しなければならないのは、残りの1割なのです。

筆者も、8月24日ないし25日がおそらく押し目買いのタイミングになるだろうな、ということは重々承知しています。株式投資を長年やっていれば、「そろそろ明日あたり底打ちするだろうな」というのは分かります。でも、それは絶対ではないのです。

たった10%程度の確率であっても、それにより資産を大きく減らしてしまう恐れのあるタイミングでの買いはやはり慎むべきだと思うのです。これはリーマンショックを経験しているからこそ言えることです。

おそらく、専門家の多くは身銭を切って株式投資をしていないはずです。もし、身銭を切って投資していてリーマンショックのような暴落を経験しているなら、株価が大きく下落している最中に「押し目買いのチャンス」など、口が裂けても言えないと思うからです。

せっかく株価チャートが「今はバリバリの下降トレンドですよ」と教えてくれているのですから、無理に買い向かうことはせずに、素直にそれに従って新規買いを控えていればよいと思うのです。そうすれば大きな損失を被ることは避けられるのですから。

「ヒヤリ・ハット」がいつかは大事故につながる

「ヒヤリ・ハットの法則」というのをご存知でしょうか。正式には「ハインリッヒの法則」というのですが、これは1件の重大な事故の背景には29件の軽微な事故があり、さらには事故には至らなかったが大惨事につながりかねない「ヒヤリ・ハット」した事例が300件潜んでいるというものです。

筆者は、これがまさに株式投資の世界でも当てはまると思っています。

直近の例でいえば、以前のコラムでも書いた7月上旬の株価下落です。この時も短期間に株価が急落したものの、特に保有株売却等の対策を取らなかった結果、ヒヤリとした方も多かったはずです。この時は、そこから株価は急反発したため事なきを得ました。

そして、今回の株価急落で、再びヒヤリとした思いをしている個人投資家も大勢いることでしょう。

確かに、今回も株価下落は程なく止まり、何も対策せず保有株をそのまま持ち続けたことについて「結果オーライ」となる可能性も高いと思います。

でも、同じことを繰り返していると、いつかは取り返しのつかない「大事故」に遭遇してしまいます。

そうならないためにはどうすればよいか、まずはヒヤリとした原因を追究して、同じことを繰り返さないようにする必要があります。ヒヤリとした原因は、まず間違いなく保有株を売らずに持ち続けた結果大きく値下がりしてしまったことにあります。ですから、今後は適切なタイミング、つまり株価が下降トレンドに転じた時点で売却ないしツナギ売りをするように気を付ければよいのです。

保有株が大きく下落してヒヤリとしても事なきを得るのは、株価が中長期的な上昇トレンドにある中での押し目にとどまっているからです。しかし、いつかは中長期的なトレンドが下降トレンドに転じる局面がやってきます。そして、それはいつやってくるか予測することはできません。もし株価下落が短期的な押し目にとどまらずに本格的な株価下落に発展したならば、その時は「ヒヤリ・ハット」では済まなくなるのです。

いつ株価が押し目にとどまらず、大きく下落してしまうことになってもよいように、保有株が下降トレンドに転じたら一旦売っておくというクセを、手遅れになる前に身に付けておくことをお勧めします。

いつまでも株式投資を楽しむことができる個人投資家でいよう

世の中に個人投資家は大勢います。そして、1990年のバブル崩壊より前から株式投資をされている方も数多くいます。しかし、バブル崩壊を生き残り、1998年頃の金融危機による株価暴落を生き残り、ITバブル崩壊を生き残り、ライブドア・ショック後の下落を生き残り、リーマンショックを生き残り・・・今まで大きな失敗なく株式投資を続けている方はほとんどいないのが現実です。バブル崩壊後の塩漬け株がアベノミクス相場で復活し、胸をなでおろしている個人投資家の方も少なくないでしょうが、それはたまたまアベノミクスという神風が吹いたから助かったという結果論です。

過去の日本株を振り返ってみると、バブルとその崩壊、そして「〇〇ショック」による株価暴落の繰り返しです。その度に、数多くの個人投資家が強制退場させられます。

でも、株式市場から退場させられないようにするための方策はあります。多くの個人投資家はそれを知らないし、教えてもらう場がないだけなのです。筆者は、このコラムでその方策をしっかりとお伝えしているつもりです。

筆者は、本コラムをお読みいただき、筆者のことを信じてくださる個人投資家の方を強制退場から守りたいと思っています。ピンチを軽い傷で乗り切れば、その後のチャンスをつかむことができます。チャンスにしっかりと乗れていれば、利益もあがり、資産が増えていきます。そうなれば、株式投資はとても楽しいものになります。

いつかバブルが崩壊したり金融危機が起きたりして株価が大きく値下がりしたとき、「このコラムを読んでおいて助かった」と思っていただけるよう、これからも有益な知識・情報の提供に努めてまいります。今後とも変わらずのご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。