執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 先週、米利上げ、オランダ下院選挙など重大イベントが集中。米国株を大きく動かす材料にはならなかったが、材料出尽くしで円高に。20日(月)のNYダウは、8ドル安の20,905ドルと小動き。為替は、21日(火)の日本時間午前6時30分現在、1ドル112.57円。
  • 20日のCME日経平均先物(6月限)は、円高を嫌気して、19,270円に。先物(6月限)が示唆する日経平均(現物)理論値は19,400円。今日の日経平均が理論値通りにスタートすると仮定すると、前週末(19,521円)より121円安い19,400円から始まることになる。
  • 世界景気は順調に回復しているが、政治不安が株の上値を抑えている。トランプ・リスクが引き続き、意識される展開に。

(1)先週の4大イベントの顛末

先週は、波乱要因になる可能性のあるイベントが4つ(①15日:米利上げ、②15日:オランダ下院選挙、③15日:米債務上限引き上げ期限、④16日:米18年度予算方針発表)もありました。結果はどれも、マーケットを大きく動かすものとならず、NYダウ・日経平均とも、ここまでは大きく動いていません。

  • 米FRBが0.25%利上げ(15日)

事前に織り込まれていた通り、0.25%の利上げがありました。利上げで株安ショックが起こらず、世界的に株が落ち着いた動きであったことはポジティブです。ただし、利上げでドル高材料が一旦出尽くし、円高が進んだことはネガティブでした。

  • オランダ下院選挙(15日)

移民排斥・反EU・自国中心主義を掲げ、オランダ版ドナルド・トランプと言われるウィルダース党首率いる極右勢力「自由党」が第一党になることが懸念されていました。結果を見ると、自由党の得票は伸び悩み、与党「自由民主党」が第一党の座を維持しました。マーケットにとって安心材料となりました。

  • 米債務上限引き上げなし(15日)

債務上限の引き上げはありませんでした。これで、目先、新規の米国債発行ができなくなります。ただし、9月までに上限を引き上げれば、特段問題はないため、マーケットで材料視されませんでした。米政府は9月までに上限引き上げをまとめる方針です。トランプ大統領が考える景気刺激策(公共投資と大型減税)を行うと、財政赤字が拡大するので、大幅な上限引き上げが必要になります。それが認められるかが、今後の注目点となります。

  • 米2018会計年度の予算方針を発表

トランプ政権の2018会計年度(2017年10月―2018年9月)予算方針が発表されました。予算教書(予算の全体像)が発表されるとの見方もありましたが、全体像は示されませんでした。今回の予算方針に、市場で注目されている10年で1兆ドルの公共投資や大型減税の話は含まれていませんでした。

今回、発表になったのは、全体の予算の3分の1程度の裁量予算といわれる部分です。そこで、軍事費の大幅拡大と、国際協力費・環境対策費の大幅縮小方針が示されました。米国第一主義のトランプ政権の考えが前面に出ていますが、民主党だけでなく、共和党議員からも反発が出る内容で、ネガティブでした。

(2)米利上げ後、円高が進んだのはなぜか?

FOMCメンバー予測(中央値)では、年内にあと0.25%の利上げが2回見込まれています。その後、2018年に2回、2019年に3回の利上げを見込んでいます。

FOMCメンバー17人によるFF金利の予測(中央値)

  予測(中央値)
2017年末 1.375%
2018年末 1.875%
2019年末 2.625%
長期 3.000%

(出所:米FRB)

本当に年内あと2回、利上げが実施され、さらに来年以降も利上げが続くならば、日米短期金利差がどんどん開くので、ドル高(円安)が進むはずです。ところが、米利上げ後にドル高は進みませんでした。現時点で市場はまだ、米FRBの思い通りに、利上げを進めていけると考えていないことを示します。

利上げにトランプ大統領がどう反応するかが、鍵です。大統領が利上げを許容するか、現時点でわかりません。

トランプ大統領は、ここから大規模な景気刺激策をとる方針です。米景気のアクセルを目一杯踏んでいく方針です。一方、米FRBは利上げを続ける方針を示しています。つまり、FRBは米景気に対して、ブレーキを踏み続けることになります。

今回の利上げについて、トランプ大統領は沈黙を保っています。ただし、大統領が米景気にアクセルを踏もうとしている時に、中央銀行(FRB)がブレーキを踏み続けることを快く思っているはずがありません。米FRBが今回、利上げが加速する見通しを示さなかったのは、大統領の出方がわからないからでしょう。

市場は、大統領が利上げ継続を容認するか、見守っていくことになります。

今後、話題になるのは、イエレンFRB議長の後任人事です。イエレン議長の1期目の任期は来年2月です。トランプ大統領は、大統領選挙期間中に「イエレンは、私が大統領になったら再任しない」と話していました。トランプ大統領は、ドル高が製造業を苦しめているとし、ドル高を招くFRBの利上げを批判していました。

今、米製造業の景況が著しく改善してきたので、大統領は、利上げにコメントをしていませんが、いずれ、何らかの形で、FRBの利上げを批判する可能性は高いと考えられます。トランプ大統領が、前言を撤回してイエレン議長を再任すれば、FRBの利上げ方針を追認したことになります。そうならない場合は、FRBの利上げにブレーキがかかる可能性もあります。

(3)トランプ・イベントの市場評価

世界の株式市場から見て、トランプ大統領の発言は、好感されたり、嫌気されたりを繰り返しています。2月に好感されるイベントが多かったのですが、3月はややネガティブなイベントが増えています。

今後とも、大統領イベントで、市場は乱高下することになると思います。

トランプ・イベントの市場評価

2016年
11月9日 (大統領選)勝利宣言 ポジティブ・サプライズ
2017年
1月 ツイッターで情報発信 ネガティブ
1月12日 記者会見 ネガティブ・サプライズ
1月21日 就任演説 ネガティブ
1月27日 大統領令 ネガティブ
2月9日 歴史的税制改革に言及 ポジティブ
2月10日 日米首脳会談 ポジティブ
2月28日 議会演説 ポジティブ
3月7日 オバマケア代替案を発表 ネガティブ
3月17日 2018年度予算方針を発表 ネガティブ

(出所:楽天証券経済研究所が作成)

(4)景気・企業業績の改善が続くが、政治不安・円高不安が目先、日経平均の上値を抑える

日本の景気・企業業績の改善が続いており、日経平均はいずれ20,000円台に乗せるとの見方を継続します。ただし、政治不安・円高不安が続くので、目先は、上値の重い展開が続きそうです。