執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 人手不足でヤマト運輸が宅急便のサービス縮小を検討し始めている。これを契機に今後、トラック業界で料金引き上げが広がる可能性がある。
  • 少子化で慢性的な人手不足が続いていることから、サービス産業では料金引き上げが通りやすくなってきている。モノの値段は上がりにくいが、サービス業ではインフレ圧力が生じつつある。

(1)人手不足で限界、ヤマト運輸が宅急便のサービスを縮小へ

ヤマトHLDG(9064)の主要子会社であるヤマト運輸は、増え続ける宅配便の需要に人員確保が追いつかず、時間帯指定の配達を見直す方針を固めました。

宅配便取扱個数の推移:2012年度 - 2015年度

(出所:国土交通省)

宅配便(自動車輸送)の取扱個数シェア:2015年度

宅配便名 取扱事業者 シェア 上場/非上場
宅急便 ヤマト運輸 46.7% 親会社ヤマトHLDG(9064)が上場
飛脚宅配便 佐川急便 32.3% 非上場
ゆうパック 日本郵便 13.8% 親会社日本郵政(6178)が上場
カンガルー便 西濃運輸 他 3.6% 親会社セイノーHLDG(9076)が上場
フクツー宅配便 福山通運 他 3.3% 福山通運(9075)が上場

(出所:宅配便シェアは国土交通省)

ヤマト運輸の宅急便取扱個数は年々伸びており、今期(2017年3月期)も約8%の増加が見込まれています。ところが、人件費や、サービス内容を維持するための追加コストが膨らみ、ヤマトHLDGの今期(2017年3月期)経常利益(会社予想)は、前年比15.4%減の580億円となる見込みです。

長時間労働が慢性化し、宅配便の現場は、疲弊しています。残業時間を制限し、料金の引き上げを図らなければならない段階に入っています。料金引き上げを受け入れない荷主からは、運送を引き受けない覚悟が必要になっています。

宅配便最大手のヤマト運輸が本格的な料金引き上げに動けば、業界全体に料金正常化の動きが広がるでしょう。その時期が近づいていると考えられます。

(2)人手不足が常態化

少子化で、人手不足が深刻化しています。今後、好不況にかかわらず、慢性的な人手不足が続く可能性があります。

日本の完全失業率(季節調整済)と、有効求人倍率の推移:
2012年1月 - 2017年1月

(出所:完全失業率は総務省、有効求人倍率は厚生労働省、有効求人倍率は新規学卒者を除きパートタイムを含むベース)

厚生労働省が3日に発表した1月の有効求人倍率(季節調整値)【注】は1.43倍と、高水準を維持しています。国内景況が回復している効果もありますが、それ以上に、少子化の影響で、求職者数が減ったことが有効求人倍率の上昇につながっています。

【注】有効求人倍率:求人数を求職者数で割ったもの。労働需給がひっぱくし、求人数が求職者を上回ると、倍率は1倍を超える。有効求人倍率1.43倍は、求職者1人に対して求人が1.43人分ある状態を示す。

なお、同日、総務省が発表した1月の完全失業率は3.0%でした。事実上「完全雇用」といえる状態が続いています。

(3)雇用のミスマッチが目立つ

有効求人倍率1.43倍は、あくまでも全体の平均を示しているにすぎません。内訳を見ると、企業が求める労働者と、労働者が望む職種には、へだたりが大きいことがわかります。以下は、職業分類別の有効求人倍率です。

職業別の有効求人倍率(季節調整なしの実数):2017年1月時点

  有効求人 有効求職 有効求人倍率
保安の職業 66,728 9,365 7.13
建設・採掘の職業 95,163 26,008 3.66
サービスの職業 578,945 180,436 3.21
輸送・機械運転の職業 117,818 53,653 2.20
専門的・技術的職業 466,684 212,733 2.19
販売の職業 275,339 142,278 1.94
生産工程の職業 219,542 147,317 1.49
管理的職業 9,436 6,504 1.45
農林漁業の職業 14,981 11,173 1.34
運搬・清掃・包装等の職業 204,862 276,641 0.74
事務的職業 215,736 479,092 0.45
分類不能   118,419 0.00

(出所:厚生労働省、平成23年改定の「厚生労働省編職業分類」に基づく区分)

上記を見ると、保安、建設・採掘、サービスでは、有効求人倍率が3倍を超えており、人手不足がきわめて深刻です。こうした分野では、人件費の上昇、料金の引き上げが進みやすくなっています。

ただし、すべての職業分野で人手が不足しているわけではありません。事務的職業では、求職者479,092人に対し、求人は215,736人しかなく、有効求人倍率は0.45倍と低くなっています。日本全体では人手不足が深刻化していますが、事務職だけを見ると、今でも供給過剰です。

雇用のミスマッチが大きいことがわかります。

(4)投資銘柄の選別で考慮すべきこと

製造業では、一時的に供給が不足しても、すぐに大量生産されて、供給過剰に陥ることが常態化しています。したがって、モノの値段は上がりにくくなっています。

一方、サービス業にはインフレ圧力がかかってくると考えます。医療・介護・保育・警備などの分野では、増大する需要をまかなうのに必要な人手が確保できないからです。

今後、サービス業を中心に、料金の引き上げ、つまりサービス・インフレが広がる可能性があります。

製造業は、高水準の利益をあげていても、利益が不安定なので、PER(株価収益率)などの指標で高くは買われにくくなっています。一方、良質なサービスの大量供給に成功した、オリエンタルランド(4661)・セコム(9735)・NTTデータ(9613)などサービス業・情報通信業では、安定成長が評価され、PERで高い倍率まで買われるようになっています。

銘柄選別においては、PERは高めでも時代の流れに乗って成長するサービス・情報通信などの銘柄と、PERなどで見て割安な製造業・金融業などに、分散投資することが肝要と考えています。