執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 2月の米ISM製造業・非製造業景況指数ともに改善。米景気回復の勢いが増している。イエレン米FRB議長が3月14・15日のFOMCでの利上げを事実上、予告。
  • 日本の景気・企業業績にも回復色が強まっており、日経平均は、いずれ20,000円台に乗せると予想。ただし、2017年後半は世界的に政治不安が高まり、世界的に株が下落するリスクを要警戒。

(1) 米景気回復の勢いが増す、イエレンFRB議長が月内利上げを事実上予告

先週、米国株にとって重要な2つのイベントがありました。1つは、2月28日のトランプ大統領の議会演説です。市場に好感される内容で、世界的な株高につながりました。

もう1つは、3月3日のイエレン米FRB議長の講演です。「米経済は著しく回復した」と述べ、月内の利上げが適切との見解を示しました。3月10日(金)に発表予定の2月の雇用統計が極端に悪くない限り、3月14・15日のFOMC(金融政策決定会合)で利上げすることを、事実上、予告した形となりました。

  • 2月28日のトランプ演説、何が好感されたか?

内容に新味なく、保護貿易・排外主義の内容を含んでいる点は、ネガティブでした。ただし、言葉の使い方や演出が巧みで、米国民の団結・米国精神の復活を訴え、夢や希望、弱者への思いやりを感じさせる内容に仕上がっていました。米国民の多くが「大統領らしい」と感じる出来でした。

金融市場が好感したのは、共和党議員が何度も何度もスタンディング・オベーション(立ち上がっての拍手喝采)を繰り返したことです。伝統的な共和党の考えとまったく異なる大統領が、共和党内で孤立する不安がありましたが、演説中の共和党議員の拍手喝采を見ると、その不安が薄れました。

議会の雰囲気は、「大統領が共和党の協力を得て、思い通りの景気刺激策を実施できる」との印象を与えるものでした。ただし、政策実行にあたり、本当に共和党が全面的に大統領に協力するかは、未知数です。

  • 3月3日イエレン議長が事実上の利上げ予告

イエレン議長は金融政策について、市場との対話を重視し、金融政策の変更を事前に市場に織り込ませる方針を貫いています。2015年12月と2016年12月に利上げをした際も、直前に利上げ実施を示唆しており、利上げ発表当日に、市場にショックが起こらないようにしてきました。

3月3日のイエレン講演は、月内利上げを約束したものではありませんが、事実上、予告したと解釈できます。

(2)米景気回復の勢いが増している

先週、米景気の現状をよく表すものとして注目が高い、2月のISM景況指数が発表になりました。製造業・非製造業ともに、一段と改善が進んでいました。

ISM製造業景況指数:2014年1月-2017年2月

(出所:米ISM供給公社)

製造業景況指数は、2015年末から2016年初めにかけて、景況の分かれ目と言われる50を割り込みました。①原油急落を受けて石油関連産業が悪化したこと、②ドル高の影響で輸出産業が悪化したことが、影響しました。

2016年の後半からは、米製造業の景況は改善し、2017年に入ってから、回復が加速しています。

トランプ大統領は、大統領選挙キャンペーン中に、「米製造業を苦しめるドル高」と、「ドル高を招く利上げを実施する米FRB」を、しきりに批判していました。ところが、大統領に当選してからは、FRBの利上げに対して、特にコメントしていません。製造業の景況が非常に良くなってきているので、利上げを批判する理由がなくなっていると考えられます。

利上げを実施したい米FRB幹部には、「製造業の景況が良く、トランプ大統領があまり利上げに対して文句を言わない」今こそ、利上げをする絶好のチャンスと映っているかもしれません。

トランプ大統領は、選挙期間中に、円安もしきりに批判していました。今、円安を直接批判するコメントをしないのも、米製造業の景況が良くなっていることが影響していると思います。

米製造業の景況が悪化すれば、トランプ大統領は、再び、米利上げ・円安を批判し始めると思われますが、当面は、利上げを容認すると考えられます。

以下の通り、2月は非製造業の景況も改善しています。

ISM非製造業景況指数:2014年1月-2017年2月

(出所:米ISM供給公社)

(3)日本株はどうなる?

日経平均は、20,000円台回復を目指して、上昇トレンドが続くと予想しています。以下の4点が強材料です。

  • トランプ大統領が、共和党主流派と融和して政策を推し進められる期待が出ている。
  • 米景気および世界景気の回復色が強まってきている。
  • 米利上げが月内実施される見込みが強まっており、円高圧力が低下する見込み。
  • 日本の景気・企業業績も回復しつつある。

ただし、世界の政治リスクが高まっている現状は、変わりません。トランプ大統領は、中国包囲網を作りつつ、国防支出の大幅拡大方針を打ち出しました。中国も対抗上、軍事費を大幅に拡大します。中国の海洋進出をめぐって、米中が緊迫化する局面が生じると、円高が進み、日本株が売られるリスクもあります。

日経平均は、2017年前半は世界景気の回復を織り込みつつ上昇が続き、年後半に政治不安の拡大を嫌気して調整に入るという見方を維持します。