執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 10-12月期決算発表と同時に、通期(2017年3月期)の業績見通しを上方修正する企業が増えている。円安が進んだ効果に加え、米国や中国の景気が持ち直している恩恵もある。
  • 業績好調で印象に残った銘柄に、資源関連株(三菱商事など)・素材株(三井化学など)・設備投資関連株(安川電機など)・半導体関連株(東京エレクトロンなど)・通信株(KDDIなど)がある。

(1)業績予想の上方修正増える

10-12月期(2017年3月期の第3四半期)決算の発表がピークを迎えています。決算発表と同時に通期(2017年3月期)の業績予想を引き上げる企業が多く、業績モメンタムの改善がはっきりしてきました。

2月6日時点で、今期業績の会社予想を集計したものが、以下の表です。

東証一部上場 3月決算 主要841社の業績(前年比増減率)推移

決算期 実績/予想 経常利益 最終損益
2016年3月期 実績 ▲ 1.3% ▲ 4.7%
2017年3月期 会社予想(5月時点) + 0.6% + 9.8%
会社予想(12月時点) ▲ 4.0% + 4.2%
会社予想(2月6日時点) ▲ 1.5% + 8.0%
楽天証券予想 + 0.9% + 9.6%
2018年3月期 楽天証券予想 + 7% + 9%

(出所:予想は楽天証券経済研究所、予想の前提となる為替レートは、2017年3月期下期は1ドル113円、2018年3月期は1ドル115円、IFRS・米国基準採用企業は連結税前利益を経常利益と見なして集計)

2017年3月期の純利益(会社予想)は期初(5月時点)では9.8%増益と見込まれていました。ただし、円高の進行によって、下方修正が増え、中間決算の発表が終わった12月時点では、4.2%増益と予想増益率が縮小しました。

ところが、第3四半期(10-12月期)の決算発表では、一転して業績予想を引き上げる企業が増えました。2月6日時点では、8.0%増益が見込まれています。楽天証券経済研究所では、最終的に9.6%増益になると予想しています。

日本企業は、利益予想を慎重(低め)に、利益予想の上方修正は遅めに出す傾向が強いのですが、今回、第3四半期の決算発表時点で、早めに通期見通しの上方修正を出してきています。それだけ、足元の利益モメンタム(勢い)が強いと言えます。

円安が進行したことが、利益予想の主要な修正要因となっていますが、それだけではありません。米国や中国の景気が回復してきていること、資源価格が回復していること、半導体やスマホ、IOT関連など、新たな成長分野への投資が増加しつつあることも、日本企業の業績に追い風となっています。

(2)決算発表で印象に残った業績好調企業

  • 三菱商事(8058)

2月2日に10-12月決算を発表しました。2016年4-12月の連結純利益は、前年比55%増の3,715億円と好調でした。これに伴い、通期(2017年3月期)の連結純利益の予想を、3,300億円から4,400億円に上方修正しました。

原料炭(鉄鋼生産に使われる石炭)を中心に、資源価格が上昇したことが、上方修正の要因です。特に、豪州の石炭価格の急騰が大きく貢献しました。

豪州原料炭の輸出価格推移:2016年2月1日―2017年2月1日

(出所:ブルームバーグ)

石炭価格は急騰後、足元は急落しています。石炭価格上昇を受けて、中国が再び石炭生産を増加させたことが影響しています。ただし、急落したと言っても、依然、2016年初と比べて大幅に高い水準にあることには変わりありません。

三菱商事の今期の利益急回復を牽引しているのは、資源エネルギー事業、金属事業(石炭、銅など)です。資源事業の利益が復活しました。ただし、かつてのように、資源事業の利益構成比が8割に達するということはありません。

生活産業などの非資源事業を強化してきた成果が出て、資源事業と非資源事業がともに伸び、利益のバランスが良くなってきています。

三菱商事は、今回、3月期末配当を、1株当たり10円増やして70円にしました。増配により、年率配当利回りは、2月6日時点で2.8%となりました。好配当利回り株として、長期投資するのに相応しい銘柄と考えます。

石油化学産業の業績回復が目立ちます。石油製品の市況が上昇する中、原料安メリットを得られるようになり、利幅が拡大しています。また、自動車関連・食品包装材など、付加価値の高い製品の売上げが伸びていることも、貢献しています。

三井化学は、通期(2017年3月期)の連結純利益の見通しを500億円から550億円に引き上げました。前年比+140%の最終増益で、最高益を更新する見通しです。会社予想利益から計算されるPER(株価収益率)は、2月6日時点で9.1倍と低く、株価は割安と判断されます。

東ソー(4042)は、通期(2017年3月期)の連結純利益の見通しを540億円から700億円に引き上げました。前年比+76%の最終増益で、こちらも最高益を更新する見通しです。会社予想利益から計算されるPER(株価収益率)は、2月6日時点で8.2倍と低く、株価は割安と判断されます。

  • KDDI(9433)とNTTドコモ(9437)

ケータイ電話事業者の業績が好調です。スマホの普及でARPU(契約者1人当たり月間平均収入)が増加していることが寄与しています。

KDDIの主力ブランド「AU」では、10-12月のARPUが前年同期比2.6%増の5,880円となりました。NTTドコモでは、10-12月のARPU(音声+パケット+ドコモ光)が前年同期比5.2%増の4,450円でした。

昨年、総務省主導で、ケータイ料金の引き下げが検討されましたが、大幅な料金引き下げにはつながらず、骨抜きとなりました。総務省が、0円ケータイ(端末の安売り)廃止の指導に力を入れたため、販売競争が緩和され、販売促進費が減少するなど、逆にメリットがありました。

KDDIは、今期(2017年3月期)の連結営業利益が前年比9.2%増の9,100億円と最高益を更新する予想としています。NTTドコモは、今期(2017年3月期)の連結営業利益が前年比20%増の9,400億円と、大幅な増益を見込んでいます。

会社が予想する1株当たり配当金から計算される配当利回りは2月6日時点で、KDDIが2.9%、NTTドコモが3.0%です。両銘柄とも、好配当利回り株としての投資魅力が高いと判断しています。

  • オークマ(6103)・牧野フライス(6135)・三菱電機(6503)・安川電機(6506)・オムロン(6645)・東京エレクトロン(8035)

設備投資関連株の業績回復が徐々に鮮明になってきました。工作機械・産業用ロボット・FA(工場自動化)機器・制御機器・半導体製造装置などの受注が増えてくる見込みです。

米国で設備投資が盛り上がる見込みであること、中国でも人件費上昇に対応した省力化投資が伸びつつあることが貢献します。