執筆:窪田真之

今日のポイント

  • FOMC結果発表後、一時1ドル112.83円へ円高進む。利上げなしは事前予想通りだが、FOMC声明文で利上げ時期の示唆がなかったことから、一旦ドルを売る動きが出た。ただし、昨晩発表の米景気指標(1月のISM製造業景況指数・ADP雇用統計)は、予想以上に強く、米景気が好調との見方は継続。
  • ドル円は当面、好調な経済情勢(円安要因)と、トランプ不安(円高要因)の綱引きに。

(1)FOMC(米金融政策決定会合)の結果が発表され、発表後にやや円高進む

2月1日(日本時間では2日午前4時)に、FOMC(米金融政策決定会合)の結果が発表されました。事前の市場予想通り、利上げはありませんでした(FF金利の誘導水準は、0.5-0.75%に据置)。発表直前に、1ドル113.40円辺りで推移していた為替は、発表直後に112.83円まで円高が進みました。FOMC声明文で、今後の利上げ時期について踏み込んだ説明がなかったことが、ドルが売られる要因となりました。

FOMC声明文では、米景気・雇用が回復しているとの認識が示されましたが、設備投資の回復は遅れているとされました。今後の利上げへの示唆はありませんでした。市場の一部には、次回FOMC(3月14-15日)で利上げが実施されるとの期待もあったので、それを示唆する内容がなかったことから、一旦ドルを売る動きが出ました。

ただし、その後、さらにドルを売り込む動きは出ず、為替は1ドル113円台に戻しました。日本時間の2日午前6時30分現在、1ドル113.20円でした。1日のNYダウは、前日比26ドル高の19,890ドルと小幅に反発しました。

(2)昨晩発表された米景気指標は、米景気が予想以上に好調であることを示した

新たに発表された米景気指標は、米景気好調を示すものでした。1月のISM製造業景況指数は56.0と、前月の54.5から1.5ポイント改善し、2年ぶりの高水準となりました。米国の製造業の景況が、力強く回復しつつあることが示されました。

昨晩発表された1月のADP雇用統計【注】では、民間部門の雇用者数が前月比で24.6万人増加しました。事前予想(16.8万人増)を大きく上回り、米雇用情勢が好調であることが示されました。これで、2月3日(金)に米労働省が発表する1月の雇用統計も強めになるとの期待が出ました。

【注】ADP雇用統計:民間企業のADP社が発表する雇用統計で、米労働省が発表する雇用統計の直前(2営業日前)に発表される。労働省が発表する雇用統計で、金融政策に影響が大きい「非農業部門雇用者増加数(前月比)」と類似の集計を行っていることから、米雇用統計の先行指標と見られている。実際、過去に出た数値を比較すると、類似の傾向を示している。ただし、あくまでも異なる統計なので、大きく異なる数値が出ることもある。

(3)今後のドル円の見通し 政治情勢と経済情勢の綱引き

米景気が好調で、利上げが見込まれることが、円安(ドル高)材料となっています。一方、トランプ大統領がドル高を批判する発言を始めていること、また、保護主義・排外的な大統領令を乱発していることは、円高(ドル安)要因となっています。

為替は、当面、ドル高につながる経済情勢と、ドル安につながる政治情勢の綱引きで、神経質な動きが続きそうです。

今後、トランプ大統領が、米FRBによる利上げ批判を始めるか否かは、注目されます。大統領選挙期間中に、トランプ大統領は、米製造業に痛手となるドル高と、米利上げを批判していました。大統領当選後の12月に米FRBは0.25%の利上げを実施しましたが、今のところ、トランプ大統領は、利上げに対してコメントをしていません。

ただし、最近、ドル高により米製造業が不利な立場に置かれているとの持論を復活させており、それが利上げ批判に発展する可能性はないと言えません。

米利上げは、純粋な経済問題ではなく、政治問題でもあります。市場では、現在、年3回(0.25%の利上げを6月・9月・12月)が実施されるとの予想がありますが、私は、3回も利上げすることはできないと考えています。

トランプ政権の運営が順調で、米景気が順調に回復する場合でも、利上げ回数は最大で2回と予想しています。ちなみに、2015年・2016年は、年初に年4回の米利上げが予想されていましたが、結果は、ともに年末(12月)に1回だけの利上げとなりました。

【関連レポート】

2017年1月11日「米国はどこまで円安を許容するか?」