執筆:窪田真之

  • 今日の昼ごろ、日銀金融政策決定会合の結果が発表される。過去1年、政策発表後に株・為替が大荒れになっていたが、今回は注目点がなく、無風と予想される。
  • 円高・株安が続いていた間、日銀は追加緩和によって円安・株高へ転換する方策を考えてきた。ドル金利上昇によって円安・株高が実現した今、追加緩和の必要はなくなった。これから日銀は、量的緩和の「出口」に向けた布石を打つ段階に入ると考える。

(1)毎回大荒れだった日銀金融政策決定会合が荒れなくなってきた

過去1年の日銀金融政策決定会合振り返り
(単位:円)

  日付 日経平均終値 前日比 日中高値・安値の差 乱高下の要因
1 2015年12月18日 18,986 ▲ 366 886 緩和補完策を発表。追加緩和と解釈され急騰後、内容失望し急落。
2 2016年1月29日 17,518 476 871 マイナス金利導入。量的緩和なしを嫌気し急落後、再評価され急騰。
3 3月15日 17,117 ▲ 116 236 追加緩和なしを失望して下落。
4 4月28日 16,666 ▲ 624 919 追加緩和なしがサプライズで急落。
5 6月16日 15,434 ▲ 485 517 追加緩和なしがサプライズで急落。
6 7月29日 16,569 92 504 日本株ETF買付を年6兆円に増額と発表したことを受け、急騰。
7 9月21日 16,807 315 423 長期金利を0%にコントロールすると発表。金融株が買われて上昇。
8 11月1日 17,442 17 133 特に注目点がなく、無風。

(注:楽天証券経済研究所が作成)

上記の表をご覧いただくとわかる通り、過去1年、日銀金融政策決定会合の結果が発表される日は、いつも日経平均が急騰急落を繰り返していました。市場に追加緩和の期待がない時に緩和を実行し、市場に緩和期待がある時に緩和をしなかったことが、大荒れの原因でした。

マイナス金利や、ETFの買い付け大幅増額など、従来にない政策を導入する時にも、サプライズが起こりました。新しい緩和方法を考えていることを、市場に秘匿してきたからです。

日銀は伝統的に秘密主義で、黒田総裁は「市場との対話を重視する」と宣言し、積極的に情報を出してきたように見えましたが、一番重要なポイントは、いつも秘匿してきたことがわかります。日銀の金融政策発表と同時に、マーケットが大きく動くことで、日銀の力を見せ付けているようなところがありました。

ただ、その日銀への注目が今、薄れてきています。日銀の金融政策の目標が既に達成され、必要性が薄れているためと考えられます。

(2)日銀の本当の政策目標は何か?

日銀は、2%のインフレ目標を達成するために、大規模緩和をやっているとしています。金利をマイナスまで下げ、マネーを大量供給することによって、設備投資を活性化し、景気・インフレを上向かせることを目指していることになっていました。

ただ、今の日本で、金利を下げたら設備投資が増えると考える人はほとんど居ません。日本で設備投資が盛り上がらないのは、投資機会がないからです。1960年代の高度成長時のように、「投資チャンスはあるのに資金が調達できないために投資ができない」企業がたくさんあるわけではありません。

そんなことは、誰でもわかっているのに、それでも日銀が金利を下げ続け、大量の資金を供給し続けました。なぜでしょう。私は、日銀はホンネでは、「円安・株高を誘導することによって、景気を好転させてインフレ目標を達成する」ことを目指していると思います。

確かに、マイナス金利の導入や量的緩和は、円高の防止・円安の誘導に効果があります。円安になると、株が上昇し、日本の景気にもさまざまなプラス効果が波及します。今年の前半は、ドル金利が低下し、円高・株安が日本経済を直撃しました。日銀は、断固として、円高・株安と戦う決意だったのだと考えられます。

11月以降、米景気が改善、ドル金利が上昇し、大幅なドル高(円安)が進みました。円安を好感して、日経平均も大きく上昇しました。日銀が目指していたことが、外部要因によって達成されたわけです。

金融政策の目標が薄れたため、9月21日に日銀が発表した金融政策には、引き締め色が出ていました。マイナスだった長期(10年)金利を0%まで引き上げると発表しました。また、日銀は債券の保有高が毎年80兆円増えるように債券を買い付けることを目標としてきましたが、玉不足で債券が買えなくなるときに備え、80兆円を目標から「メド」に格下げしました。明らかに、異次元緩和からの出口に備えた布石と取れる内容でした。

(3)今日の日銀金融政策決定会合の注目点

追加緩和が行われることはないはずです。むしろ、緩和からの出口を探る段階に入っていると思われます。以下①―③のような検討がされていると考えられます。

  • 米金利上昇で円安が進んだので、弊害の多いマイナス金利深彫りは必要なくなった。
  • 日銀の大量買付で国債の流動性が落ちており、徐々に買付額を減らすべきである。
  • 将来、円高圧力が再び高まった時に追加緩和策を取れるように、今はむしろ緩和をゆるめた方がいい。

日銀が悩むのは、量的緩和の縮小(テーパリング)を宣言すると、金融市場にショックを与えかねないことです。日銀は、気づかれないように、ひそかに緩和の出口を探ることになるでしょう。

今日の日銀発表の注目点は、以下となります。

「緩和からの出口を模索しつつ、市場にその意図を感じ取られないように説明すること」。それをどのように、うまくやるかが、今日の発表の注目点となります。