(3)マイナス金利が銀行に及ぼす影響

まず、結論から申し上げます。3メガ銀行へのマイナス影響は限定的と考えています。2月1日の3メガ銀行の急落は過剰反応であり、投資資金に余裕のある方にとっては良い買い場になっていると判断しています。

ただし、中小金融機関や地方銀行には、重大なマイナス影響が及ぶところもあります。今、買い増しするならば、3メガ銀行にしぼった方が良いと考えます。ゆうちょ銀行(7182)にもマイナス影響が大きいので、注意を要します。

さて、それでは、その理由を説明します。銀行の収益が何から成り立っているか、基礎からじっくり説明します。

(4)銀行は何から収益を得ているか

伝統的な商業銀行の利益は、預金と貸金の金利差(利ざや)から得られます。長期金利が0.06%まで低下すると、利ざやにさらなる縮小圧力が働き、そのマイナス影響を、すべての銀行が受けます。

ただし、長期金利が0.06%になっても、預貸金利ざやが限りなくゼロに近づくわけではありません。2月1日の銀行株急落は、国内の利ざやがゼロになるという恐怖から出た売りだったと思います。そうはなりません。そこをきちんと理解していただく必要があります。まず、銀行の利ざやが何から生じているか解説します。

預貸金利ざやは、以下の2つの要素から構成されています。

<利ざや>=<長短金利差>+<信用力の差>

長期金利の低下によって、長短金利差に起因する利ざやは消滅しつつありますが、信用力の差に起因する利ザヤはなくなりません。

<長短金利差>
期間の短い預金で集めたお金で、期間の長い固定金利の住宅ローンを貸せば、長短金利差分、利ザヤが得られます。ただし、長期金利が0.06%まで下がった現在、長短金利差では利ざやが得られなくなってきています。

<信用力の差>
銀行は信用力が高いので低い金利(預金金利)で資金を調達できます。そのお金で中小企業や個人に貸し出しを行うと利ザヤが得られます。信用力の差が利ザヤの源泉となっています。

(5)アコムが急騰する中で、三菱UFJが急落した理由

昨日の株価変動を見ると、アコム(8572)が急騰する中で、三菱UFJ FG(8306)が急落しています。アコムは利ざやが拡大する期待が出たので、株価が急騰しました。三菱UFJが利ざや縮小の懸念で売られたのと対照的です。アコムの利ざやは主に信用力差で構成されていますので、長期金利が低下しても利ざや低下の懸念が生じません。一方、三菱UFJの利ざやは、長短金利差と信用力差から構成されていますので、長短金利差が消滅する分、マイナス影響が及ぶことが懸念されました。

アコムは、信用力が低い個人向けに高金利の無担保ローンを貸し出しています。貸し出し金利は、年率4.7~18.0%と高水準に設定されていますが、貸し出し金利は主に貸し出し先の信用力によって決まります。したがって、長期金利が低下しても、貸し出し金利に下げ圧力が及ぶとは考えられません。アコムは貸し出しに使う資金を主に銀行から借り入れています。アコムの借り入れ金利は、マイナス金利の導入で低下が見込まれます。マイナス金利の導入で、貸し出し金利は下がらず、借り入れ金利が下がり、利ざやが拡大する期待があることから、アコムなど消費者金融株は急騰しました。

一方、アコムの親会社である三菱UFJの株価は急落しました。三菱UFJは大企業向けの貸し出しが多いというイメージがあるので、利ザヤ縮小が懸念されました。ただし、実態は、三菱UFJでも中小企業貸金や個人向けの貸金は増やしてきています。信用力格差による利ざやは三菱UFJでも残ると考えられので、昨日の株価急落は過剰反応だと思います。現に、三菱UFJは、子会社アコムを通じて、消費者金融も手がけているわけです。マイナス金利が導入されても、信用力の低い個人向けローンの利ざやが縮小することはありません。

最近、住宅ローンの金利が急激に低下していることが話題になっています。個人向けの住宅ローン金利がここまで低くなったことは、銀行の収益にとって大きなマイナスです。ただし、ここで誤解してはならないことが1つあります。日本の住宅ローンは、大企業向け貸付と同様に、焦げ付きが少ないという事実です。日本の住宅ローンは、事実上、大企業並みの高信用ローンであるといえます。だから、貸付金利がどんどん低くなるわけです。同じ個人向けのローンでも、焦げ付きの大きい無担保ローンでは、依然として高い金利が残っています。