1日の日経平均は、346円高の17,865円でした。日銀がマイナス金利導入を決断した影響で、金融セクターの株価に、極端な二極化が起こりました。マイナス金利が業績に悪影響を及ぼす銀行・生保株が大きく下がる一方、マイナス金利が業績押し上げに寄与する損保・リース・消費者金融株は大きく上昇しました。

今日は、金融セクターの投資戦略について書きます。

(1)急騰・急落に分かれた2月1日の金融株

 

2月1日の金融株の株価変動・配当利回り・PER・PBR

コード 銘柄名 業 態 株価:円 前日比 配当 PER PBR
8306 三菱UFJ FG メガ銀行 576.1 -5.5% 3.1% 8 0.5
8316 三井住友FG メガ銀行 3,677.0 -7.6% 4.1% 7 0.6
8411 みずほFG メガ銀行 193.7 -5.9% 3.9% 8 0.6
7182 ゆうちょ銀行 大手銀行 1,354.0 -8.0% 3.7% 16 0.5
8750 第一生命保険 生命保険 1,455.0 -10.9% 2.4% 11 0.6
8795 T&D HLDG 生命保険 1,259.0 -7.3% 2.0% 10 0.7
7181 かんぽ生命保険 生命保険 2,504.0 -8.7% 2.2% 18 0.8
8766 東京海上HLDG 損害保険 4,571.0 7.6% 2.3% 16 1.0
8630 損保ジャパン日本興亜HLDG 損害保険 3,631.0 3.2% 2.2% 9 0.9
8725 MS&ADインシュアランスHD 損害保険 3,323.0 3.0% 2.1% 13 0.7
8591 オリックス リース 1,842.0 9.2% 2.4% 10 1.1
8566 リコーリース リース 3,830.0 2.3% 1.4% 11 0.9
8572 アコム 消費者金融 621.0 15.0% 0.0% 19 2.8

(注:配当利回りは会社予想ベース、アコムは通期の配当予想を公表していないので前期の実績利回りを掲載、楽天証券経済研究所が作成)

(2)マイナス金利導入の生命保険への影響

マイナス金利導入によって長期金利が急落したことは、生命保険株の長期業績に大きなマイナス影響を及ぼします。

 

長期金利(新発10年もの国債利回り)推移:2015年1月5日―2016年2月1日

20年30年継続する終身保険契約を引き受けた生命保険会社は、20年30年の長期固定金利で資金を調達したのと同じです。長期金利が低下すると、保険金を債券で運用することによって将来得られる収益が減少するので、保有する保険契約の価値が低下します。長期金利が0.06%まで下がった今、金利が高いときに引き受けた保険契約で、運用の逆ザヤが発生するリスクが高まりました。

このように、長期金利低下は生命保険の経営に大きなマイナス影響を及ぼします。第一生命(8750)は、少子化が進む国内だけでビジネスを続けるリスクは高いと判断し、海外保険会社を買収して収益の多様化をはかってきました。海外での保険収益は日本のマイナス金利導入の影響を直接は受けません。ただし、第一生命のビジネスの中心は日本にあり、日本の長期金利低下のダメージは大きいと考えます。

黒田日銀総裁は、「必要ならばさらに金利を引き下げる」と述べており、先行き金利のマイナス幅が拡大するリスクも残っています。このような状況下で、生命保険株を保有することは、得策とは思えません。

(3)マイナス金利が銀行に及ぼす影響

まず、結論から申し上げます。3メガ銀行へのマイナス影響は限定的と考えています。2月1日の3メガ銀行の急落は過剰反応であり、投資資金に余裕のある方にとっては良い買い場になっていると判断しています。

ただし、中小金融機関や地方銀行には、重大なマイナス影響が及ぶところもあります。今、買い増しするならば、3メガ銀行にしぼった方が良いと考えます。ゆうちょ銀行(7182)にもマイナス影響が大きいので、注意を要します。

さて、それでは、その理由を説明します。銀行の収益が何から成り立っているか、基礎からじっくり説明します。

(4)銀行は何から収益を得ているか

伝統的な商業銀行の利益は、預金と貸金の金利差(利ざや)から得られます。長期金利が0.06%まで低下すると、利ざやにさらなる縮小圧力が働き、そのマイナス影響を、すべての銀行が受けます。

ただし、長期金利が0.06%になっても、預貸金利ざやが限りなくゼロに近づくわけではありません。2月1日の銀行株急落は、国内の利ざやがゼロになるという恐怖から出た売りだったと思います。そうはなりません。そこをきちんと理解していただく必要があります。まず、銀行の利ざやが何から生じているか解説します。

預貸金利ざやは、以下の2つの要素から構成されています。

<利ざや>=<長短金利差>+<信用力の差>

長期金利の低下によって、長短金利差に起因する利ざやは消滅しつつありますが、信用力の差に起因する利ザヤはなくなりません。

<長短金利差>
期間の短い預金で集めたお金で、期間の長い固定金利の住宅ローンを貸せば、長短金利差分、利ザヤが得られます。ただし、長期金利が0.06%まで下がった現在、長短金利差では利ざやが得られなくなってきています。

<信用力の差>
銀行は信用力が高いので低い金利(預金金利)で資金を調達できます。そのお金で中小企業や個人に貸し出しを行うと利ザヤが得られます。信用力の差が利ザヤの源泉となっています。

(5)アコムが急騰する中で、三菱UFJが急落した理由

昨日の株価変動を見ると、アコム(8572)が急騰する中で、三菱UFJ FG(8306)が急落しています。アコムは利ざやが拡大する期待が出たので、株価が急騰しました。三菱UFJが利ざや縮小の懸念で売られたのと対照的です。アコムの利ざやは主に信用力差で構成されていますので、長期金利が低下しても利ざや低下の懸念が生じません。一方、三菱UFJの利ざやは、長短金利差と信用力差から構成されていますので、長短金利差が消滅する分、マイナス影響が及ぶことが懸念されました。

アコムは、信用力が低い個人向けに高金利の無担保ローンを貸し出しています。貸し出し金利は、年率4.7~18.0%と高水準に設定されていますが、貸し出し金利は主に貸し出し先の信用力によって決まります。したがって、長期金利が低下しても、貸し出し金利に下げ圧力が及ぶとは考えられません。アコムは貸し出しに使う資金を主に銀行から借り入れています。アコムの借り入れ金利は、マイナス金利の導入で低下が見込まれます。マイナス金利の導入で、貸し出し金利は下がらず、借り入れ金利が下がり、利ざやが拡大する期待があることから、アコムなど消費者金融株は急騰しました。

一方、アコムの親会社である三菱UFJの株価は急落しました。三菱UFJは大企業向けの貸し出しが多いというイメージがあるので、利ザヤ縮小が懸念されました。ただし、実態は、三菱UFJでも中小企業貸金や個人向けの貸金は増やしてきています。信用力格差による利ざやは三菱UFJでも残ると考えられので、昨日の株価急落は過剰反応だと思います。現に、三菱UFJは、子会社アコムを通じて、消費者金融も手がけているわけです。マイナス金利が導入されても、信用力の低い個人向けローンの利ざやが縮小することはありません。

最近、住宅ローンの金利が急激に低下していることが話題になっています。個人向けの住宅ローン金利がここまで低くなったことは、銀行の収益にとって大きなマイナスです。ただし、ここで誤解してはならないことが1つあります。日本の住宅ローンは、大企業向け貸付と同様に、焦げ付きが少ないという事実です。日本の住宅ローンは、事実上、大企業並みの高信用ローンであるといえます。だから、貸付金利がどんどん低くなるわけです。同じ個人向けのローンでも、焦げ付きの大きい無担保ローンでは、依然として高い金利が残っています。

(6)預貸率(預金のうち貸金に回す比率)の低い金融機関にはダメージ大

地方の中小金融機関には、有望な貸出先がなく、集めた預金のほとんどを国債で運用しているところもあります。そのような金融機関は、長期金利の低下で大きなダメージを受けます。

預金を集めて国債を買って得られる利ザヤは、長短金利差だけで構成されていることになります。期間の短い預金で集めた資金を、期間の長い国債で運用していることだけが、利ざやの源泉ということになります。長期金利が0.06%まで下がったことで、新規に投資する国債では経費をまかなうことができません。過去に購入した金利の高い国債が残っている間は、一定の利ざやが得られますが、低金利が長期化すると、利ザヤ消滅のリスクが高まります。

ゆうちょ銀行(7182)は、これから運用の多様化、業務の多様化をはかっていくことで収益拡大を狙いますが、これまで貸付をほとんど行わず、ほとんど国債中心に運用してきたツケはかなり重いと考えられます。長期金利の低下が急激だっただけに、来期以降、収益の縮小がしばらく続くリスクが高まりました。

(7)業務の多様化が進んでいるメガ銀行へのマイナス影響は限定的

国内の利ざや縮小が経営にどれだけ大きな影響を及ぼすかは、銀行によって異なります。収益の多様化が進んでいる銀行ほど、影響は相対的に小さくなります。収益の多様化が進んでいない銀行には、重大な影響が及びます。

一般的に規模の大きい銀行ほど、収益の多様化が進んでいます。私は、3メガ銀行へのマイナス影響は限定的で、昨日の株価急落は過剰反応だと思っています。

3メガ銀行は、利ざやが相対的に厚い海外での与信を拡大しており、海外事業が成長を牽引しています。国内でも、伝統的商業銀行業務のほかに、証券・信託・リース・消費者金融などに収益源を多角化したユニバーサル銀行となっています。マイナス金利が導入された影響で、来期減益になるリスクは高まりましたが、それでも高収益を維持できると考えています。減配が必要になるような収益の悪化がないならば、配当利回りの高まった今は、投資魅力が高いと考えられます。

(8)損害保険株に改めて注目

損害保険は、原則1年契約です。生命保険のように20年30年と続く契約はほとんどありません。生命保険のような長期固定負債をかかえているわけではありません。したがって、日銀がマイナス金利を導入して、長期金利が低下しても、運用の逆ザヤが発生する懸念はほとんどありません。

日経平均が上昇する時、損保株の値動きが良くなることが過去によくありました。保有する資産(株や不動産)の時価が上昇することが意識されるからです。損保株の短期的な値動きは、保険業の損益よりも、保有する株や不動産の値動きで決まることが多いのです。今後、日経平均が底打ちして上昇が続くと考えるならば、ここから損害保険株への投資が面白くなります。

本業(保険業)の損益も、もちろん重要です。短期的な株価への影響は必ずしも大きくありませんが、長期的な株価変動には影響します。

日本の損保会社は長年にわたり、自動車保険の赤字に苦しんできました。ところが、近年、損益改善のために料率引き上げを実施した効果で、自動車保険は改善しました。つまり、本業損益は改善しつつあります。

私は、海外での事業拡大にも成功している東京海上HLDG(8766)に注目しています。同じ保険でも、生保株への投資は避けるべきですが、損保株への投資妙味は増していると考えています。

(9)その他金融(リースや消費者金融など)も金利低下で恩恵を受ける

その他金融業には、金利低下でメリットを受ける会社が多いです。たとえば、中小企業向けの小口リースを中心に展開しているリース会社は、金利低下で恩恵を受けます。リースの利ざやは、以下の3つから構成されます。

(リース業利ざや)=(長短金利差)+(信用力差)+(サービス料)

リコーリース(8566)は、複写機等を主に中小企業にリ-スしています。リース料には、事実上のサービス料が含まれています。トナーの補充やメンテナンスに、たびたび往訪することが、リース収益の根底にあると言えます。同様に、オリックス(8591)も、中小企業向けのリースが得意なので、金利低下のマイナスは小さいと考えられます。一方、大企業向けのファインナンシャル・リースは、マイナス金利の導入でダメージを受けます。リース業でも、中小企業向けのオペレーティング・リース比率が高いところほど、収益は安定的といえます。

消費者金融は、先ほど、話したとおり、金利低下がプラスに寄与すると考えられます。高水準の過払い利息返還請求が続く間は投資できませんが、利息返還請求が今後大きく減少に向かうという前提にたつならば、投資することも可能です。