先週の日経平均は、1週間で532円上昇して、20,264円と年初来高値を更新しました。米景気失速の懸念が薄れてNYダウが高値を更新したこと、日本の景気・企業業績の回復が徐々に鮮明になってきたことが、好感されました。

日経平均は、利益確定売りで下がる日があっても、早めに押し目買いが入って徐々に下値を切り上げる展開が続いています。今週も同様な動きが続くと予想されます。

(1) 景気回復が株価押し上げ要因に

日本の景気回復が徐々に鮮明になりつつあることが、日経平均の上昇に追い風です。まだ「景気の回復力は鈍く、先行きは不透明」と景気回復に懐疑的な声も根強くありますが、私の経験では、その方が株価は上がりやすいと言えます。

「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」という相場格言があります。今、日本株は、「懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟する」段階に入っていると考えています。皆が景気回復を実感し幸福感に浸る頃には、景気も株価もピークアウトが近いことを警戒すべきです。今はまだ景気回復に「懐疑」の声が多数あります。

先週発表になった日本の1-3月GDP(前期比年率+2.4%)の見方も2つに分かれています。私は、景気回復が鮮明になってきたことを示すものとして高く評価しています。ただし、この数字はまったく評価できないという意見もあります。1-3月のGDP増加は在庫増加の影響が大きく、「張りぼての虎」という見方です。

以下、1-3月の日米GDPの数字の見方について説明します。

(2)1-3月の日米GDPの数字は、表面的には日本が強く、米国は弱い

1-3月のGDP(速報値)は、日本が前期比年率+2.4%と強く、米国が同+0.2%と弱い数字でした。IMFの2015年世界経済見通しと、かなり異なる数字です。

IMFによる日米欧成長率見通し

  2015年 2016年
米国 3.1% 3.1%
日本 1.0% 1.2%
ユーロ圏 1.5% 1.6%

(出所:IMF4月予想)

今後、日本の成長率見通しは上方修正され、米国の成長率見通しは下方修正されるでしょう。ただし、日本の1-3月の高成長は一時的で、米国の1-3月の低成長も一時的との見方もあり、1-3月の数字だけでは実態がわかりません。

(3)日本の1-3月GDPは一時的要因でかさ上げ、米国の1-3月は一時的要因で低下

1-3月の米景気には一時的な下押し要因が働いていました。寒波・港湾スト・シェールオイル掘削業者の破綻などです。4月以降、米景気は再加速すると予想されています。4月以降の回復を前提に、2015年に2.5%程度の成長は可能と考えられます。

一方、日本の1-3月のGDPには一時的かさ上げ要因が含まれています。それが在庫投資です。在庫投資の影響を除くと、1-3月の日本のGDP成長率は低く、評価できないという見方もあります。

(4)私が日本の1-3月GDP成長を評価する理由

私は、1-3月の日本のGDPを見ることで、日本の景気回復への確信を強めました。その根拠を説明します。

それには、GDP成長の中身を見る必要があります。日本の1-3月の成長率は、年率では+2.4%ですが、非年率では+0.6%【注】です。非年率の成長率内訳を見て、私がどこを評価しているか説明します。

【注】1-3月は1年間の約4分の1に相当する。非年率で0.6%の成長は、同じペースの成長が1年続くと仮定すると、年間では4倍の2.4%の成長となる。GDP成長率についてコメントする場合は、年率換算した数値(年率+2.4%成長)が使われる場合が多い。

非年率0.6%成長の内訳(項目別の寄与度)

消費 +0.2%
設備投資 +0.1%
住宅投資 +0.1%
在庫増加 +0.5%
公共投資 ▲0.1%
輸出増加 +0.2%
輸入増加 ▲0.4%
1-3月 +0.6%

(出所:内閣府)

この内訳を見て、1-3月の成長が「張りぼての虎」という人もいます。在庫増加が0.5%も1-3月GDPを押し上げているからです。悪く解釈すると、「1-3月は、売れると思って生産したが、売れずに残った在庫が増加。生産が行われたのでGDPはかさ上げされたが、売れずに残っているので4月以降のGDPにマイナス影響を及ぼす」となります。

私は、そうは思いません。在庫増加には、意図せざる在庫の増加(売れると思ったのに売れずに残った在庫)もありますが、意図した増加(今後の売上増加を見込んだ戦略的な在庫積み増し)もあります。私は、+0.5%の在庫増加には、後ろ向き(売れ残り)と、前向き(戦略的な積み増し)の両方があると思います。

私は、1-3月の輸入増加が、GDPを0.4%押し下げていることに注目します。1月の輸入金額が大きく、1月の貿易赤字が巨額であったことが響いています。原油価格急落前の、高値で成約したエネルギーの輸入が続いていたためです。

ところが、3月には日本の貿易収支(通関ベース)は黒字に転じています。4-6月以降は、長期契約の原油やLNG(液化天然ガス)の輸入価格低下が続き、輸入減少が加速すると予想されます。そう考えると、1-3月の輸入増加▲0.4%は一時的で、4-6月以降は輸入減少がGDPにプラスで寄与する可能性が高いと思います。

在庫増加による+0.5%のGDP押し上げは一時的と考えられますが、輸入増加による▲0.4%のGDP押し下げも一時的と考えられます。一時的要因を除くと、1-3月のGDPは、非年率で+0.5%、年率で+2.0%の成長であったことになり、十分に高い成長であったと言えます。

円安によって、海外の工場を国内に移管する動きが出てきています。設備投資の国内回帰によって、今後、設備投資の増加に弾みがつくと予想しています。内閣府が発表した1-3月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前期比+6.3%で、今後の設備投資回復を示唆しています。

日本の財政状態を考えると、公共投資の積み増しでGDPがプラスになっても評価できません。1-3月の成長内訳で公共投資がマイナス、民間需要がプラスであることはポジティブと評価します。

  • 在庫増加の影響が大きい(+0.5%)ことはネガティブ
  • 輸入増加がGDPを押し下げ(▲0.4%)ているが、一時的と判断
  • 設備投資がプラスに転じたことはポジティブ
  • 公共投資の影響がマイナス(▲0.1%)であったこともポジティブ