執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 日米で二極化相場が続いてきた。IT・ネットサービス・半導体関連などが集中物色され、金融・資源関連・自動車関連などは株価指標で割安でも買われにくい状況。
  • 二極化が長期化する可能性と、そろそろ反動が出る可能性の両方をにらんで投資戦略を考える必要がある。

(1) いつまで続く?FANG(ファング)・MANT(マント)相場

28日の日経平均は、前日比94円安の20,130円でした。2万円前後で、やや膠着感が出ています。この日の物色動向を見ると、これまでの流れと異なる動きが見られました。これまで、割安でも買われなかった金融株(大手銀行)の上昇率が高くなる一方、これまで上昇が続いてきたゲ-ム・半導体・IT関連(任天堂(7974)東京エレクトロン(8035)リクリートHD(6098)など)の下落率が高くなりました。

日本株を動かしているのは、外国人投資家です。日本株の物色動向は、米国株の動向をそのまま反映しています。28日の東京市場で、金融株が買われ、ゲーム・半導体・IT関連が売られたのは、27日の米国株がそのような動きだったからです。

27日の米国株は、グーグルを傘下に置くアルファベットなどIT・ハイテク銘柄が軒並み値を下げていました。グーグルが独占禁止法に違反したとして、欧州委員会が巨額の制裁金を科すと決めたことが理由でした。グーグルなどIT・ハイテク関連株に物色が集中していることに警戒感が広がっている中で出たニュースでしたので、反応が大きくなりました。27日の米国株市場では、米長期金利の上昇を受けて、これまで割安でも買われなかった金融株の上昇率が高くなりました。

28日の東京市場の物色は、米国株の動きをそのまま反映したものと言えます。ただ、この流れが本日以降も続くかは、現時点でわかりません。28日の米国市場で、IT・ハイテク株は反発しています。

現在、日米で二極化相場が続いています。米国では、FANG・MANT相場と言われる集中物色が続いてきました。FANGは、フェイスブック(SNS大手)、アマゾン(ネット通販)、ネットフリックス(動画配信)、グーグル(検索大手)の頭文字をとった造語です。MANTは、マイクロソフト(OS「ウインドウズ」)、アップル(スマホ大手)、エヌビディア(半導体)、テスラ(電気自動車)の頭文字です。時価総額の大きいIT・ハイテク株に物色が集中し、金融株・資源関連株などは、株価指標で見て割安でも、買われない状況が続いてきました。

日本でも同様の二極化が起こっています。IT・ネット関連・ゲーム・半導体関連株が集中物色され、金融・資源関連・自動車関連・不動産・建設などは、株価指標で見て割安でも買われない展開が続いてきました。

28日の東京市場では、こうした二極化に対して、逆の動きがでました。ただし、それが続くか、まだわかりません。日本株は、米国株の動向をそのまま反映して動きますので、米国でFANG・MANT相場が続くか否かによって、日本株の物色動向も決まると思います。

(2)日経平均のPER14倍は割安と言えるが、PERの低い銘柄は買われにくい

日経平均の平均PER【注】は、現在、約14倍です。

【注】PERとは

PERは、株価の割安度を示すもっとも代表的な株価指標です。ピー・イー・アールまたはパーと呼びます。株価が1株当たり利益の何倍まで買われているか、を示しています。倍率が高いほど株価は割高、倍率が低いほど株価は割安と判断されます。

日経平均のPERとは、日経平均採用225銘柄の平均PERのことです。225銘柄の今期予想1株当たり利益(会社予想ベース)から計算します。会社予想利益を公表していない銘柄については、コンセンサス予想を使います。

最近、日経平均のPERは約14倍だから割安、という意見が聞かれます。10年以上前、平均PERが20倍以上だったことを考えると、確かに14倍は割安と見えます。ただし、相場は二極化しており、金融や商社、自動車株などはPERが低くても買われず、買われるのは、PERの高い株ばかりという状況が続いていました。

PERで見て割安な銘柄が、再評価されて上昇しないことには、全体のPERを底上げするのは難しくなります。

(3)PERの低いものは低いまま、PERの高いものはさらに高くなる二極化が進行

個別銘柄を見ると、PERは二極化しています。PER10倍前後の低い銘柄は、低いまま放置され、PER30-40倍の高い銘柄がさらに買われる二極化が起こっています。

具体的にいうと、三大割安株(金融・資源関連・自動車)ではPERが低くても株価が買われることがなく、安いままに放置される傾向があります。一方、ITサービス・SNS・IOT(モノのインターネット化)・ロボット・AI(人口知能)などの関連株は人気が集中し、とても高いPER水準まで買われています。

PERが低いままに放置される割安株

大分類 業種分類 コード 銘柄名 PER:倍 配当利回り
金融 銀行 8316 三井住友FG 10 3.7%
保険 8766 東京海上HLDG 12 3.4%
その他金融 8591 オリックス 8 3.1%
資源関連 商社 8058 三菱商事 8 3.4%
石油精製 5020 JXTG HD 8 3.7%
非鉄 5713 住友金属鉱山 13 2.4%
自動車関連 自動車 7203 トヨタ自動車 12 3.6%
タイヤ 5108 ブリヂストン 13 2.9%

(出所:PER/配当利回りは会社予想ベース、会社予想がない場合は楽天証券予想)

PERが高くても株価好調だった成長株

大分類 業種分類 コード 銘柄名 PER:倍 配当利回り
ネット関連 情報通信 9613 NTTデータ 31 1.2%
ネット通販 3092 スタートトゥデイ 40 1.0%
ネット通販 3064 MONOTARO 55 0.6%
ITサービス 6098 リクルートHLDG 27 1.1%
ロボット・IOT センサー 6861 キーエンス 35 0.2%
ロボット 6954 ファナック 36 1.7%
エンターテインメント テーマパーク 4661 オリエンタルランド 35 0.5%
ゲーム 7974 任天堂 101 0.5%

(出所:PER/配当利回りは会社予想ベース、会社予想がない場合は楽天証券予想)

(4)PERの二極化は、経済の構造変化を反映

二極化相場が起こるのは、経済の構造変化が原因です。従来型の産業が衰退し、新しい産業が勃興していく時、株価指標で見ると、きわめて割安な銘柄がそのまま放置され、割高な銘柄がさらに買われるという現象が起こります。今、株式相場で起こっていることは、本格的なネット社会の入り口に世界経済が立っていることを反映していると言えます。

ただし、相場はいつでも行き過ぎるものです。経済の構造変化に熱狂し、いつの間に、構造変化を織り込んでも説明できないほど、割安な株や、割高な株を生むことがあります。相場が行き過ぎると、何かのきっかけで、リターン・リバーサル(上がっていた株が下がり、下がっていた株が上がること)が始まることがあります。

1999年のITバブル相場や、2005年のミニITバブル相場、2016年のバイオバブル相場では、基本的価値を無視した割高圏まで買われた銘柄が、後に急落しました。売られ過ぎの銘柄は見直されて買われました。

日本株の二極化は、現時点ではまだ、1999年や2005年のITバブル相場ほど極端なところまでは、進んでいません。したがって、まだ、今の二極化が続く可能性もあります。ただ、米国のFANG・MANT相場は、やや行き過ぎの感もあります。米国でFANG・MANTが下がると、日本のIT・ネット株も売られる可能性があります。

結論として、二極化がいつまで続くか、いつ次の流れが始まるか、予想するのは困難です。私がファンドマネージャーをやっていた時は、常に100銘柄以上に投資していましたので、二極化が進む時は、どんどん上がっていく株を少しずつ売り、割安でも収益力の高い銘柄を少しずつ買っていきました。

数銘柄しか投資していない個人投資家の方は、機関投資家のように少しずつリバランスすることができず、判断が難しいかもしれません。それでも、今の二極化がいつまでも続く可能性と、そろそろ反動が起きる可能性の両方をにらみながら、保有銘柄を決めていくしかないと思います。