執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 中国で産業用ロボット需要が拡大。人件費高騰で、省力化投資が伸びる局面に。
  • 中国需要の増加を受け、産業用ロボット・工作機械など日本の設備投資関連株の受注が増加。短期的な投資機会となる可能性がある。

(1)中国の爆買いで、日本製の産業用ロボットが過去最高へ

日本ロボット工業会の見通しによると、2017年の産業用ロボット出荷額が前年比7%増の7,500億円と過去最高になります。

産業用ロボット出荷額:2003―2016年(実績)、2017年(予想)

(出所:日本ロボット工業会、2017年は同工業会予想)

中国向け輸出が拡大しています。中国では、人件費上昇を受けて、自動化・省力化投資が急拡大しています。世界トップとなったスマートフォンや、自動車・通信関連で、投資が伸びています。

中国向けが牽引する形で、日本の産業用ロボット出荷指数は、2017年に入ってから伸びが加速しています。

鉱工業出荷指数(産業用ロボット):2012年1月―2017年4月

(出所:経済産業省、基準年2010年=100とした指数)

日本の産業用ロボット・メーカーは、ロボット需要が世界的に拡大していることを受けて、日本および中国で、ロボットの増産投資を行います。ファナックは、国内で約600億円かけて増産投資を行います。安川電機は、中国工場などで増産対応し、月産3,000台の生産能力を2019年までに5,000台に拡大する方針です。

産業用ロボットは、一時、成長が止まっていました。世界的に製造業の能力過剰が広がり、モノの値段が上がりにくくなったことが原因です。ところが、中国で産業用ロボットへの投資が拡大していることを受けて、再び、成長力を取り戻しつつあります。

(2)サービス・ロボットばかり注目されていたが、久々に産業用ロボットに脚光

20世紀は、「モノ」の豊かさを求めて、人類が努力した時代でした。良質なモノをいち早く大量生産する企業が、成長企業となりました。そうした中、20世紀の終盤に、産業用ロボットが急成長しました。高品質の製品を安価に量産できる技術が威力を発揮し、自動車や機械の量産技術が一気に拡大しました。

ところが、21世紀に入り、製造業は、軒並み能力過剰となりました。大量生産技術が高度に発達したために、モノは一時的に不足しても、すぐ量産されて供給過剰となります。特に、中国が参入して、採算度外視で競争する分野では、価格破壊が止まらなくなりました。欧米では、供給過剰で赤字になると生産が減るのが普通です。ところが、中国などアジア企業が入ってくると、全社が赤字になっても増産競争を止めないという「アジア的競争」に陥りました。中国企業が参入すると、モノを量産することで成長する製造業のビジネスモデルが破壊されるようになりました。

こうした背景もあり、産業用ロボットの成長が一時止まりました。産業ロボットは成熟し、もうあまり伸びないと言われた時期もありました。代わって不足するものが、良質なサービスでした。人手をかけないと供給できない良質なサービスは、恒常的に不足するようになりました。21世紀は、良質なサービスの大量供給に道を開くITサービスや、サービス・ロボットの開発に注目が集まりました。

まだ本格的な実用化は始まっていませんが、介護ロボットや警備ロボットなど、人間に代わってサービスを提供するサービス・ロボットが、これから成長すると考えられていました。

ところが、今、改めて、産業用ロボットにも脚光が当たるようになっています。中国が産業用ロボットを爆買いするようになってきたからです。中国でも人件費が上昇し、省力化投資が待ったなしになってきたことが影響しています。

長い目で見れば、中国が産業用ロボットを爆買いすることで、将来、一段と製造業の過剰能力が拡大する可能性もあります。ただ、それは、先の話です。足元は、産業用ロボットの成長が再び注目される局面に入ると考えられます。

(3)中国で、省力化投資が幅広い分野で拡大

中国では、産業用ロボットだけでなく、工作機械・FA(工場自動化)機器・半導体製造装置など、設備投資が幅広い分野で伸びる段階に入っています。日本工作機械工業会は、2017年の受注総額が昨年より10%程度増加して1兆3,500億円になると予測しています。

工作機械月次受注額:2012年1月―2017年5月

(出所:日本工作機械工業会、5月は速報値、ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

(4)FANG・MANTへの集中投資一服で、日本の設備投資関連株が見直される可能性も

米国で、FANGやMANT【注】といわれる時価総額の大きいIT・SNS・ハイテク株が集中的に物色される現象が続いていました。

【注】FANG(ファング)、MANT(マント)
米NASDAQ市場に上場する、大型のIT・SNS・ハイテク株。頭文字をとった造語。FANGは、フェイスブック、アマゾン・ドットコム、ネットフリックス、グーグル、MANTは、マイクロソフト、アップル、エヌビディア、テスラのこと。

ところが、最近、一極集中が行き過ぎたことから、FANG・MANTが利益確定で急落する場面がありました。IT・SNSから、業績好調でも割安に放置されている銘柄へ乗り換える動きが一部に出ています。

日本のゲーム株やIT関連株(任天堂・ソニー・ソフトバンク)などにも、FANG・MANTを売った外国人の資金の一部が入っている模様です。さらに、日本の半導体関連株や、設備投資関連株にも、そうした資金が一部流れてきているようです。

日本の設備投資関連の受注がさらに拡大し、外国人投資家による見直しが続くならば、日本の設備投資関連株に、さらなる上昇の期待が出ます。こうした流れがいつまで続くか、予断は許しませんが、短期的な投資機会となっている可能性はあります。

ご参考までに、以下、関連銘柄を掲げます。

設備投資関連の参考銘柄

(金額単位:円)
コード 銘柄名 主な事業内容 株価:円 配当利回り
今期予想
PER:倍
今期予想
6103 オークマ 工作機械 1,055.0 1.7% 17
6135 牧野フライス製作所 工作機械 925.0 1.7% 13
6471 日本精工 ベアリング 1,429.0 2.7% 13
6503 三菱電機 FA機器 1,621.0 1.7% 16
6506 安川電機 制御機器・ロボット 2,478.0 1.1% 24
8035 東京エレクトロン 半導体製造装置 16,370.0 3.0% 16

(注:楽天証券経済研究所が作成)

注意すべきは、設備投資関連株は、売買タイミングの判断がとても難しいことです。受注が増える局面で、株価が大きく上昇しますが、受注がピークアウトすると、業績の拡大が続いているうちに、株価が下がり始めることがあります。

こまめに株価を見ていられない方は、設備投資関連株ではなく、景気変動の影響を受けにくいディフェンシブ株に投資した方が良いかもしれません。複数銘柄を保有できる方は、設備投資関連株とディフェンシブ株の両方に分散投資しても良いと思います。