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「トランプ現象」に異変 英仏選挙に見る新潮流(窪田)
窪田 真之
3分でわかる!今日の投資戦略〔平日毎朝8時掲載〕
楽天証券経済研究所の窪田真之と香川 睦が、日本株市場の分析と投資戦略をレポートします。 ともに元ファンドマネージャーであり、国内外のマーケット動向に精通。運用者、分析者としての幅…

「トランプ現象」に異変 英仏選挙に見る新潮流(窪田)

2017/6/14

執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 仏選挙第1回投票で、マクロン大統領の「共和国前進」が大勝したことは、トランプ現象の後退を意味する。
  • 英総選挙でも、当初は、トランプ現象が収まり、保守党が大勝すると見られていた。ところが、メイ首相が社会的分断に配慮しない公約を掲げたために、まさかの敗北となった。

(1)トランプ現象に異変

昨年、ドナルド・トランプ現象【注】が世界に拡散していることが、金融市場にとって不安材料となりました。

【注】ドナルド・トランプ現象
トランプ米大統領のように、過激発言で大衆を煽る政治家が人気を博す現象。ポピュリズム(大衆迎合型)を振りかざし、反資本主義、反グローバル主義の過激発言を繰り返す政治家が喝采を浴びる現象が世界に広がっていた。

今年に入ってからも、しばらく、トランプ現象・ポピュリズムの拡散は、留まるところを知らない勢いでした。ところが、ごく最近、少し異変が起こりつつあります。トランプ型政治家が、単純に喝采を浴びなくなってきました。トランプ大統領の暴走が反面教師となり、激しい言葉で他国を罵倒し、大衆を煽る政治家に、警戒心を持つ人が増えてきた印象があります。

(2)フランス大統領選、議会選挙の新潮流

4-5月の仏大統領選で、中道・親EU派の「共和国前進」マクロン氏が勝利し、極右・反EU派の「国民戦線」ルペン党首が敗れたのが、その最初の兆しです。

反EU・反移民・フランス第一を掲げるルペン党首は、歯に衣着せぬ過激発言で知られ、「フランス版ドナルド・トランプ」と言われていました。昨年、米国にトランプ旋風が吹きまくったのと同時に、フランスにはルペン旋風が吹き荒れました。ルペン氏の国民戦線は急速に勢力を拡大し、今年の大統領選で、ルペン大統領誕生の可能性もあるとの声も出ていました。

ところが、ルペン氏は、5月7日の大統領選の決戦投票で、親EU派で国際協調路線のマクロン氏に破れました。ルペン氏の主張は、反自由貿易・反移民・米国第一を掲げるトランプ大統領と共通でした。ルペン氏はトランプ大統領に親密感を持ち、トランプ現象が世界に広がることを、歓迎していました。

ところが最近、「パリ協定離脱」「ロシアゲート疑惑」などによって、トランプ大統領への熱狂が冷め、警戒が高まるにつれて、ルペン氏への熱狂もトーンダウンしたと考えられます。

6月11日に行われたフランス議会選挙(第1回投票)では、マクロン大統領の率いる「共和国前進」が大勝する勢いです。ルペン党首の「国民戦線」の票が伸び悩んだのは、トランプ現象が収束しつつある事例と見られます。

(3)英議会選挙も、最初は、同じ流れで進んでいた

6月8日に実施された英下院選挙では、途中まで、仏選挙とまったく同じ流れが出ていました。つまり、イギリス版ドナルド・トランプと言われ、昨年6月のEU離脱を問う英国民投票で、過激な演説によって、離脱派勝利を導いたボリス・ジョンソン前ロンドン市長や、イギリス独立党ナイジェル・ファラージ前党首の人気が低下し、代わって政権を担う保守党メイ首相の人気が上昇していました。

ジョンソン氏やファラージ氏が、EUと英国の関係について事実誤認の数字を使って、離脱キャンペーンを進めていたことが、離脱派勝利が決まった後に明らかになりました。ファラージ氏は、実現不可能な公約を掲げて離脱を主張していたことをあっさり認め、党首を辞任しました。両氏に対して、英国民から「無責任」との声が広がり、「離脱賛成に投票したことを後悔」との声も増えました。

イギリス独立党は、その後、地方選で大敗し、下院選挙でも1つだけ持っていた議席をも失いました。一方、保守党は、もともとEU残留派でしたが、メイ首相はきっぱり離脱に舵を切り替え、ボリス・ジョンソン氏を外相に起用した上で、強硬離脱も辞さずと、強い姿勢でEUとの交渉に臨みました。

メイ首相の姿を見て、英国民は、「大衆を煽るだけの政党や人物は信頼できない。責任政党である保守党メイ首相のリーダーシップのもとで団結して、離脱交渉を進めたほうが良い」と考え始めていました。

そのまま、保守党が6月8日の下院選挙で勝利していれば、仏大統領選・仏議会選とともに、典型的なトランプ現象衰退の事例となるはずでした。ところが、結果はまさかの敗退でした。改選前51%の議席を持っていた保守党は、過半数割れの49%しか得られず、今後の政権運営に困難をきたすことになりました。改選前に35%の議席を占めていた第二党の労働党が議席を伸ばし、40%を獲得しました。

(4)なぜ、英保守党は敗退したか?

以下、2つの理由が大きかったと思います。

テロ対応遅れに対する批判

選挙直前に、イギリスでテロが相次ぎました。労働党のコービン党首は、メイ首相が内相時代に警察官を2万人削減したために、テロが増加したと、メイ首相の責任を追及しました。テロ続発が、メイ首相への反感につながりました。

緊縮財政に対する批判

保守党は、大勝すると誤認したうえで、社会保障費削減を含む緊縮財政継続の公約を発表しました。これに対し、英国民から、多数の批判が出ました。労働党は社会保障を手厚くする公約を作り、貧富の格差拡大を招く保守党の政策を批判しました。その結果、低所得者層の票が労働党に流れました。

保守党は、もともと資本主義・自由経済を信奉する政党です。「鉄の女」の異名を持つサッチャー首相を生んだ政党としても知られます。近年、英経済は好調に推移していましたが、その中で貧富の差が拡大し、社会的な分断が深まっていました。

社会的な弱者・低所得者の間では、資本主義や自由経済に対する不満が高まっていました。それが、昨年の英国民投票で、EU離脱派が勝利する原動力になったとも言えます。

メイ首相は、EU残留の考えを捨て、強硬離脱辞さずの姿勢で、EU交渉に臨みました。その姿が、当初、EU離脱派からも残留派からも人気を集めました。そこで、強硬離脱さえ掲げていれば大勝できると誤認して、弱者に配慮しない公約を掲げて選挙戦に臨みました。社会的な弱者の不満が高まっている現状を配慮せず、社会保障費カットの公約を掲げていては、選挙に負けるのは自明であったと言えます。

(5)欧米で社会的分断が深まっている事実は変わらない

昨年は、社会的な分断を利用して、大衆を煽る政治家が躍進しました。今は、大衆を煽る政治家への警戒が広がり、トランプ現象がやや終息してきています。ただし、社会的な分断が深まっているという問題の根幹は変わっていません。

メイ首相は、それを忘れて、大勝できると誤認していたため、まさかの敗北を喫することになりました。

トランプ大統領に期待した、米社会の弱者も、そろそろトランプ大統領に裏切られたと感じ始めているはずです。オバマケア(医療保険改革)代替案、予算教書、大型減税推進では、弱者を切り捨て、大企業を優遇する姿勢が明らかになってきています。

金融市場では、ロシアゲート疑惑が深まりトランプ大統領があっさり辞任し、ペンス副大統領が大統領に昇格することを望む声も出ています。良識ある共和党大統領が登場すれば、金融市場は、好感するでしょう。ただ、それでも、米社会の分断が深まっている問題は解決しません。

どういう形でロシアゲート疑惑が決着するか、世界が注目しています。

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