執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 6月13・14日のFOMCで米利上げが実施される確率を、市場は98%と織り込んでいる。
  • 米1-3月の景気減速は一時的と考えられる。自動車販売の減少が不安視されるものの、設備投資の伸びが高まっていることは、強材料。

(1)6月利上げの確率は?

今、世界の金融市場は、6月に米FRBが、今年2回目の利上げを実施することを織り込んで、動いています。具体的には、6月13-14日のFOMC(米金融政策決定会合)で、FRBがFF金利誘導水準を現行の0.75-1%から、1-1.25%へ0.25%引き上げることを織り込んでいます。

米FF金利先物に織り込まれた、6月利上げ確率の推移は、以下の通りです。

FF金利先物に織り込まれた米6月の利上げ確率:2017年4月3日―5月15日

(出所:ブルームバ-グ)

4月中は、6月の利上げ確率は、50-60%で推移していました。それが、5月3日にFOMC声明文が公表されてから、利上げ確率は、80%まで上昇しました。FOMC声明文で、「1-3月の米景気減速は一時的」という表現があったことが、材料視されました。

4月28日に発表された米1-3月GDPが前期比年率0.7%増と、きわめて低い伸びであったため、米景気失速を懸念する声が出ていました。景気減速の見通しがさらに広がれば、米利上げはできなくなると考えられました。そうした思惑が出ている中、FOMC声明文で「景気減速は一時的」という踏み込んだ表現が盛り込まれました。それには、特別な意味があると受けとめられました。

中央銀行の景気コメントは、どの国でも、純粋な景気予測とは、見られません。金融政策変更の方向性を示すものとして、とらえられます。中央銀行が景気に強気表明をすることは、金融政策を引き締め方向で動かすという示唆になります。今回の米FRBによる「1-3月の米景気減速は一時的」コメントは、6月に利上げを実施する決意ととらえられました。したがって、FF金利先物に織り込まれる6月利上げ確率は、一気に8割まで上がりました。

5月3日のFOMC議事録で利上げ見通しが強まった後、さらに5月5日発表の4月の米雇用統計がダメ押しとなりました。3月に弱含んだ雇用指標が、4月に再び、強含みました。これで、金融市場は、6月利上げ確率を90%以上と判断するようになりました。

米利上げ確率の上昇を受けて、ドル高(円安)が進み、円安に反応して日経平均が上昇しました。

(2)6月利上げが実施されないとどうなる?

FF金利先物に織り込まれている利上げ確率は、そのまま実現するとは限りません。この確率は、あくまでも、FF金利先物を売買する投資マネーがつけた値に過ぎません。その通りに実現するとは限りません。

利上げ実施を阻むものとして、以下の2つが意識されます。

トランプ政権の意向(政治圧力)

トランプ大統領は、最近、意識して、為替や米FRBの利上げにコメントをしないようにしているように、見えます。ただし、本音で話せば、トランプ大統領は、米利上げとドル高(円安)に反対していることは、明らかです。

トランプ政権は、これから景気刺激策を実施し、米景気のアクセルを踏みまくることを計画しています。ところが、米FRBは、これから利上げを続けて実施する方向です。利上げするということは、景気にブレーキを踏むということです。

トランプ政権がアクセルを踏み続けるときに、米FRBがブレーキを踏みまくることを、快く思っていないことは、明らかです。

もし、6月FOMCの前に、トランプ大統領が、米利上げやドル高を問題視する発言をすると、6月利上げのハードルが一気に高くなります。

世界の株式市場の動き

トランプ政権は、米景気が強く、米国株が上昇を続ける間は、米利上げを容認すると考えられます。ただし、米利上げによって、世界的に株が下がるようだと、利上げを敵視するようになる可能性があります。今のところ、米国が利上げをしても、世界的に株下落は、起こっていません。

(3)6月13・14日FOMCに注目

世界の金融市場に大きな影響を与える可能性のある次のイベントが、6月13-14日の米FOMCです。金融市場が織り込んでいる通りに、米利上げが実施されると、ここから一段の円安株高が進む可能性があります。

ただし、金融市場の織り込みとは異なり、6月に利上げが実施されないと、円高株安が進む可能性があり、注意を要します。

(4)1-3月の米GDP伸び(速報値)が低いのは、一時的?

4月28日に発表された米1-3月GDP(季調済、速報値)が前期比年率0.7%増と、きわめて低い伸びに留まり、米景気失速の懸念が一時広がりました。GDPの7割を占める消費が0.3%増と急減速しました。自動車販売が落ち込んだこと、暖冬で衣料品販売が伸び悩んだことが影響しました。

米GDP成長率(季調済 前期比年率):2014年1-3月期~2017年1-3月期(速報値)

(出所:米商務省)

ただし、設備投資(9.4%増)は好調でした。企業業績が好調で、企業心理が前向きになってきていることが示されました。住宅投資(13.7%増)も好調でした。