執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 構造改革の成果などで、利益が大きく伸びる企業や、最高益を更新する企業が増加。
  • アコムは過払い利息の返還請求がピークアウトすれば収益回復が本格化する見込み。富士通は長年の構造改革の効果がようやく実を結ぶ。三菱商事は石炭価格回復の貢献大。NTTデータは、SI事業が安定成長。日本通運は海外を強化してきた効果で最高益。

本レポートでコメントする銘柄

(金額単位:円)

コード 銘柄名 株価 配当利回り PER:倍 最小投資金額
8572 アコム 501.0 NA 12 50,100
6702 富士通 797.1 1.4% 11 797,100
8058 三菱商事 2,364.0 3.4% 8 236,400
9613 エヌ・ティ・ティ・データ 5,620.0 1.3% 27 562,000
9062 日本通運 658.0 1.8% 15 658,000

(注:株価は5月10日終値。配当利回り・PERは会社予想ベース、アコムは今期配当金を未定としている。最小投資金額は、5月10日の株価で最小売買単位を購入する金額。最小売買単位は、アコム・三菱商事・NTTデータは100株、富士通・日本通運は1,000株、各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成)

(1)過払利息請求が減少、業績の本格回復期入りが見込まれるアコム

消費者金融大手で三菱UFJ FG傘下のアコムが10日発表した2017年3月期決算は、▲721億円の純損失となりました。続く2018年3月期は、会社予想では、642億円の純利益に転換します。会社予想ベースでPERは12倍と割安で、投資妙味を感じます。

過払利息の返還損失の減少が遅いことが、アコムの業績低迷が長引く要因となってきました。利息返還金は、2016年3月期に576億円、17年3月期に588億円発生しました。

アコムは、17年3月期で、利息返還損失引当金を1,437億円と大幅に積み増しました。それが前期最終赤字となった主因です。ただし、その結果、期末の引当金残高は1,649億円と大幅に増加しました。会社が今後4年間で発生すると見込む利息返還損失を、前期で引き当てたことになります。

会社側見通しでは、今後4年間、利息返還金は年々大きく減少します。4年分の損失を前倒しで引き当てたことから、今後は、利息返還損失が収益を下押しするリスクは、かなり小さくなったと考えられます。

最近、テレビで消費者金融のCMが増えています。消費者金融業界は、利息返還請求で淘汰が進みましたが、残存者が残存メリットを享受できる局面に入ってきていると考えられます。長期金利がゼロでも、消費者金融業の利ザヤが減少することは当面ないと考えられます。

会社の予想通り、利息返還請求が減少していけば、株価の上値余地は大きくなると考えています。

(2)構造改革で収益が大きく回復する富士通

富士通が4月28日に発表した2017年3月期決算は、連結営業利益が前期比7%増の1,288億円でした。続く2018年3月期に、同社は、営業利益が44%増の1,850億円になると予想しています。営業利益はまだ最高益に届きませんが、最終利益は、前期比64%増の1,450億円と最高益を更新する見通しを出しています。会社予想ベースでPERは11倍と割安で、投資妙味を感じます。

毎年、続けてきた構造改革が、ようやく実を結び、利益が伸びる段階に入ってきたと考えています。これまで、毎期高水準のビジネスモデル変革費用(リストラ費)が、富士通の利益を圧迫していました。2016年3月期で▲415億円、17年3月期で▲447億円のビジネスモデル変革費用が出ています。

2018年3月期は、会社予想では、ビジネスモデル変革費用が、ほぼゼロとなります。リストラが一巡し、リストラ効果が出てくることが、業績の大幅上昇に寄与します。

富士通は、ハード(コンピュータ・通信機器など)中心の会社から、ソフト(システム・インテグレーション、サービス)中心に利益を稼ぐ会社に、20年近くかけて、ようやく構造転換を果たしてきました。構造転換の過程で、何度も揺り戻しがあり、投資家の信頼を失った局面がありました。長年の構造改革がようやく実を結び始めています。

今期は、半導体(システムLSI)/電子部品の収益改善も、貢献します。前期42億円の営業利益だったデバイス・ソリューションが、今期、会社予想では140億円の営業利益を稼ぐ見通しとなっています。

(3)石炭価格の上昇で収益が大きく拡大した三菱商事

三菱商事が9日に発表した2017年3月期の最終損益は、4,402億円の黒字で、総合商社でトップの座を奪回しました。16年3月期の最終赤字▲1,493億円から急回復しました。石炭など資源価格の上昇が大幅な増益に寄与しました。

大手総合商社5社(三菱商事・三井物産・伊藤忠・丸紅・住友商事)は、いずれも、世界各国に原油・LNG・石炭・鉄鉱石・銅など天然資源の権益を保有しています。資源価格が上昇する局面では利益が大きく伸びましたが、近年は、資源価格の急落によって利益が悪化していました。

三菱商事は、2016年3月期は、銅鉱山など資源権益に巨額の減損損失が発生したため、最終赤字に転落しました。2017年3月期は、石炭価格の上昇が大きく寄与しました。大手総合商社の中で、三菱商事は、石炭権益への投資が多く、石炭価格の影響が大きいことが特徴となっています。

三菱商事は、資源価格の変動で収益が不安定化する現状を改善するため、長年にわたり、非資源部門の収益を強化してきました。その成果が出て、機械・インフラ、生活産業など非資源部門が高水準の利益を稼ぐようになってきました。

ただし、現時点で、短期的な利益は資源価格次第で大きく変動する現状は、変わっていません。足元、石炭価格を含め、資源価格の上昇は一服しています。資源価格の上値が重くなったことで、三菱商事の株価も上値が重くなってきています。

オーストラリアの原料炭(鉄鋼原料として使われる石炭)の輸出価格:2016年4月1日―2017年5月9日

(出所:ブルームバーグ)

三菱商事株は、PER・配当利回りなどで評価して、割安です。非資源部門でも高水準の利益を稼げる体質になってきていることを勘案すると、株価は評価不足と考えています。短期的な株価上昇期待は大きくありませんが、長期投資で投資妙味は高いと考えています。

(4)情報サービス最大手、最高益更新が続くNTTデータ

NTTデータが10日発表した2017年3月期決算では、連結営業利益が前期比16%増の1,171億円と、最高益を更新しました。続く18年3月期について、会社予想では、営業利益は3%増の1,200億円と、小幅ながら最高益の見通しです。

システム・インテグレーション、クラウド・サービスが日本で安定的に成長する時代に入り、その中核銘柄として注目できます。同社はM&A巧者で、同業を次々と買収することで、事業基盤・顧客ベースを拡大して、成長してきました。

受注高は成長が続いています。2016年3月期の受注額1兆6,626億円に対し、17年3月期は1兆7,815億円と7%増加しました。18年3月期は、会社予想では、受注はさらに9%伸びて1兆9,400億円となります。18 年3月期は、北米でデル社のサービス部門を取得した効果で、グローバル部門の受注が3,028億円増加する見込みです。

NTTデータは、PERなどの株価指標で見て割安感はありませんが、成長性を勘案すると、投資妙味はあると考えます。

(5)国際物流部門の収益寄与が徐々に高まる日本通運

日本通運が9日発表した2017年3月期決算では、連結経常利益が前期比2%増の638億円と2期連続で最高益を更新しました。続く18年3月期について、会社予想では、経常利益はさらに10%増加して700億円と最高益を更新します。会社予想ベースでPERは15倍と割安で、投資妙味を感じます。

日本通運は、かつてヤマト運輸と競合していた宅配便事業(ペリカン便)は、日本郵政に譲渡して撤退しました。産業貨物の輸送に特化し、陸・海・空の国際物流を強化してきました。なかなかその成果が出ず、収益は長く停滞してきましたが、ようやくその成果が出つつあります。

国内の物流事業については、人手不足が収益を圧迫しますが、料金引き上げを続けることで、収益を改善させます。宅配便大手ヤマト運輸など、陸運業界が一斉に料金引き上げに動いているので、料金引き上げは通りやすくなっていると考えられます。