上場株式を保有していた方が亡くなれば、当然その上場株式も相続の対象となります。でも、実際に相続を経験したことがないと、「あれ?相続が起こったら株はどうなるの?」と思ってしまうのではないでしょうか。今回はそんな疑問にお答えします。

亡くなった人が株式を所有していたら法的にはどうなるの?

株式を所有していた方が亡くなって相続が発生した場合、その株式はどのようになるのでしょうか?

例えば、相続人(財産を引き継ぐ方)が子ども2人で、被相続人(亡くなった方)がA社株式を2,000株所有していたとしましょう。

このとき、株数が2,000株で、相続人が子ども2人だから、子ども1人につき1,000株ずつが相続されるはず・・・というのは間違いです。

法律上、被相続人が所有していた株式は、相続人の「準共有」となります。つまり、2,000株の1株1株が、子ども2人が2分の1ずつ共有している形となるのです。

ですから、相続人の1人が、「被相続人が所有していた株式のうち1,000株は私のものだ」として勝手に売却したりすることはできません。

遺言書や遺産分割協議などで、誰が何株を相続するかが決まってからではないと、勝手に処分することはできないのです。

上場株式を所有している人が亡くなったらどうすればよいの?

上場株式を所有している人が亡くなったら、株式を保管している証券会社にその旨を連絡してください。

なお、投資信託を所有している場合は、証券会社でなく銀行で保管していることもあります。その際は銀行への連絡も必要です。

証券会社や銀行に連絡をすると、相続手続きのための書類を送ってくれます。被相続人の戸籍謄本や、相続人の印鑑証明書など、手続きのため準備しなければならないものを添えて、書類を送り返します。楽天証券の場合、書類のやり取りを2回行う必要があります。証券会社により手続きや準備する書類などが異なりますので、詳しくは取引のある証券会社ごとに問い合わせる必要があります。

証券会社や銀行は相続が発生した連絡を受けると、亡くなった方の口座を凍結します。その口座での売買はもちろん、ログインして残高を確認することもできなくなります(楽天証券の場合)。

相続手続きが完了し、自由に処分などができるようになるまで1~2カ月程度かかります。

証券会社に連絡をせずに放っておいたらどうなる?

上場株式を所有している人が亡くなったことを証券会社に知らせずに放っておいた場合はどうなるでしょうか?

証券会社は、亡くなったという事実を知ることができませんから、被相続人の方の口座はそのまま残ります。

でも、被相続人の方の口座で保管されている株式は相続人の方の準共有ですから、相続人の誰かが勝手に売却したりすることはできません。

相続人間の仲があまりよくない場合などは、相続人の1人が勝手に売却したことが問題視され、争いの原因にもなりかねません。

証券会社に連絡をすれば、被相続人の口座は凍結されてしまいますが、そもそも相続人が被相続人の口座に勝手にログインして売買することは禁じられています。

証券会社に連絡せず放っておいても何も良いことはありません。早めに連絡して相続手続きを完了させ、相続人が自由に処分等できる状況にいち早く持っていくことが大事です。

信用取引の建玉が残っている場合は?

では、亡くなった方が現物の上場株式を保有していた他、信用取引も行っていて、その建玉が残っていた場合はどうなるでしょうか?

証券会社に亡くなった旨の連絡をすると、証券会社は亡くなった方の信用取引の建玉を決済してくれます。信用取引の建玉は相続できないからです(相続税の対象となるのは信用取引の建玉にかかる含み損益です)。

でも、証券会社に亡くなった旨を報告しなければどうなるでしょうか?証券会社は亡くなった事実を知りませんから、当然信用取引の建玉もそのまま残ります。

その建玉が含み益を抱えていればよいですが、株価が大きく値下がりして含み損が大きくなり、差し入れている証拠金では賄えなくなる、という状態になると証券会社は強制決済して損失を確定させます。

仮に、信用取引の建玉に含み益がある状態で相続が発生し、その後ほったらかしにした結果株価が急落、強制決済で大きな損失が確定したとしても、相続が発生したときに存在していた含み益が相続税の課税対象となります。確定した損失を相続財産から差し引いて相続税が軽減される、ということにはなりません。

被相続人が信用取引をしていた場合、その後の株価の変動によっては、早急に証券会社に連絡をしておかなければ大変なことになる可能性もあるのです。

亡くなった方が上場株式を保有していた場合、それを相続人が自由に処分できるようになるまでには相当の時間がかかります。できるだけ速やかに証券会社へ連絡し、相続人へ株式を引き継ぐ手続きをすることが重要です。

そのためにどのような点に気を付ければよいかを、次回お話ししたいと思います。

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公認会計士・税理士足立武志 Facebookページ