輸出数量指数

前回、「実質輸出」の話をしましたが、輸出に関する指数で「輸出数量指数」というのがあります。「実質」が頭につかないのですが、「実質輸出指数」と「輸出数量指数」はよく比較されますので、簡単に説明します。しかし、簡単な説明とは言え、こんな細かい項目まで理解する必要があるのか、これらが為替予想のために何の役に立つのかと疑問を持たれると思いますが、少しは役に立ちますのでお付き合い下さい。

「実質輸出指数」は、財務省の貿易統計のデータをベースに日銀が作成している輸出物価指数で割ることにより実質化し、輸出の動向を見ますが、「輸出数量指数」は、輸出金額を財務省が公表している輸出価格指数で割ることにより輸出の動向を見ます。

実質輸出指数=輸出金額/輸出物価指数
輸出数量指数=輸出金額/輸出価格指数

分子は同じ輸出金額ですが、割る分母の項目が、日銀の「実質輸出指数」は物価であり、財務省の「輸出数量指数」は、品目ごとの単価(金額÷数量)を機械的に計算し、合成された価格です。「物価」も価格ですので、両者の計算結果は金額を価格で割ったものだから、同じものになるはずですが、計算結果は微妙に違ってきています。日銀のホームページの説明によると、物価変動の調整には品質の変化も含めて調整しているとの説明になっています。つまり、輸出物価指数の中には、品質向上による調整も含まれていることを表しており、このことによって両者の指数が微妙に違ってきているようです。
例えば、パソコン1台の価格が昨年は10万円、今年は性能が上がり、品質向上によって2倍の20万円で輸出したとすると、輸出金額は2倍になります。昨年も今年も数量は変わらないとすると、輸出数量指数の昨年からの伸び率はゼロとなります。一方、パソコンの品質向上を割り引いた輸出価格で計算すると、今年のパソコンの価格は前年と変わらずの10万円となるので、輸出金額は20万円ですが輸出物価指数は10万円となるため、実質輸出指数は昨年と比べて2倍となります。ここ数年の傾向では、パソコンや携帯などのIT機器の品質向上が著しく進歩しているため、日銀が公表する「実質輸出指数」の方が上振れる傾向になります。
さて、ここからが本題です。

内閣府の「月例経済報告」と日銀の「金融経済月報」

内閣府と日銀は、それぞれ景気についてのレポートを報告しています。内閣府は景気に関する政府の公式見解として「月例経済報告」を公表しています。また、日銀も毎月1回、政策判断の背景となる金融経済情勢についての基本的見解を「金融経済月報」として発表しています。これら報告書では景気判断が示されています。政府の見解と日銀の見解ですから、日本経済の景気がどっちを向いているのかを知るためには、これら報告書の内容は相場を予想する上で参考になります。これらの内容は、毎月、新聞やメディアで報道されていますので、気を付けて見ておいて下さい。
ところが、この両者の見解が微妙に違っているのです。特に、景気判断の重要項目であり、海外経済の恩恵を受ける「輸出」部分の判断が微妙に違っています。下表は、それぞれの報告書の「輸出」部分の景気判断について今年2015年1月からの内容を一覧表にした表です。

内閣府(「月例経済報告」)と日銀(「金融経済月報」)の景気判断(輸出部分)

2015年 内閣府 日銀
1月 横ばいとなっている。 海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくと考えられる。
2月 このところ持ち直しの動きがみられる。 同上
3月 同上 同上
4月 同上 同上
5月 おおむね横ばいとなっている。 同上
6月 同上 振れを伴いつつも、海外経済の回復などを背景に緩やかに増加していくと考えられる。
7月 同上 同上
8月 このところ弱含んでいる。 同上
9月 同上 当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかに増加していくと考えられる。

(注)下線部は先月から変更した部分。

1月の輸出についての景気判断の表現は、内閣府が「横ばい」に対して、日銀は「緩やかに増加」となっています。日銀の方が強気の見方です。2月になって、内閣府が「このところ持ち直しの動きがみられる」と日銀の見解に追いつくような表現に変わりました。5月には、内閣府は「おおむね横ばい」とトーンを落としましたが、日銀は年初と変わらない「緩やかに増加」のままです。6月にはいって、日銀は「振れを伴いつつも」と若干弱気表現を加えましたが、「緩やかに増加」と基調は強気のままです。上海株が乱高下した7月は両社とも変更しませんでしたが、8月になって内閣府は「このところ弱含んでいる」と弱気表現に変わりました。一方、日銀は増加基調の表現を変えていません。さて、9月はどうでしょうか。内閣府は、「このところ弱含んでいる」との弱気表現を維持したのに対し、日銀は「当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかに増加していくと考えられる」と、当面横ばいだが、その後は増加と表現しています。相変わらず基調は強気の表現になっています。

このような表現の違いは、先程説明した「実質輸出指数」と「輸出数量指数」の算出方法の違いによることから生じているようです。日銀は、自ら作成した「実質輸出指数」から輸出の景気動向を判断し、内閣府は「輸出数量指数」から輸出の景気動向を判断しているのが一因のようです。そして、「実質輸出指数」の方が上振れ傾向にあるため、報告書の「輸出」部分の判断も、日銀の報告の方が上振れ(強気)傾向にあるようです。 日銀の金融政策は、「金融経済月報」を政策判断の材料としているため、この中の輸出部分の判断は政府見解よりは上振れ傾向にあるということを知っておくことは損にはなりません。
長々と、細かい話もしましたが、輸出動向は景気動向を左右する重要項目であり、為替相場にも影響を与える項目です。政府と日銀の輸出部分の景気判断については簿妙な違いがあるという点を知っておくことは重要であり、この違いについて留意しておくことは、今後、為替相場を予想する上で役に立ちます。

実質輸出指数=輸出金額/輸出物価指数(品質の変化も調整)
輸出数量指数=輸出金額/輸出価格指数

「月例経済報告」(内閣府)景気に関する政府の公式見解
・輸出の景気動向⇒「輸出数量指数」から判断
「金融経済月報」(日銀)金融政策判断の背景となる金融経済情勢についての基本的見解 毎月1回公表
・輸出の景気動向⇒「実質輸出指数」から判断(上振れ傾向)