経済規模の把握方法

為替相場を予測する上で、各国の経済状況を知っておく必要があります。例えば国の経済活動を表すGDP(国内総生産 Gross Domestic Product)は四半期毎にその概要が発表されます。

この時にマーケットが注目するのは前期比や前年同期比の成長率、例えば前期比+0.5%といった伸び率やプラスマイナスの数字に注目します。この数字が予想より大きいか小さいか、あるいは前期よりも増加しているのか減少しているのかということに反応し相場は動きます。為替相場を予測するためには、これらの数字に敏感になることは重要ですが、同時にGDPの全体の規模に目を向けることも重要です。パソコン画面やメディアの中から発信される数字に反応する世界が少し厚みをもって広がることに気付かされます。GDPの成長率は知っていても、GDPの全体の数字はいくらかご存知でしょうか。直近の国内総生産は名目で500兆円になります。日本国民が1年間働き、お金を使った生産活動と消費活動の合計金額です。兆円自体が大きな金額であり、それが500兆円というとてつもなく大きな金額になりますが、兆円という単位は忘れ、「500」という数字でいろいろな経済規模を捉えてみると、今まであまり気にかけず他人事だった大規模な数字が身近に感じてきます。そして経済の動きがよりダイナミックに感じることが出来ます。

「500兆円」という概数で把握する経済規模

GDPの500兆円という数字を基準の数字としてメディアに出てくる数字を見てみます。

例えば、国の借金が約1,100兆円と新聞に出てきますと、新聞などは国民一人あたりの借金がいくらという説明をしますが、国の借金である国債はほとんど日本国民が買っていることから、借金というよりも国民の資産でもあるわけですが、この国民一人当たりという捉え方よりも、GDPの何年分かとみる見方もあります。1,100÷500=2.2。つまり、全国民が2.2年働いて返せる借金の金額と捉えておくとより把握しやすくなります。借金のGDP比率という考え方です。

逆に個人の金融資産を見てみますと、2014年度末で1708兆円です。これは1,708÷500=3.4となります。日本人はGDP比3.4年分の金融資産を持っているので3.4年間は何も働かなくても遊んで暮らせるという考え方が出来ます。このようにGDPの『500』という数字を基準にして経済に関する数字をみていくと想像が広がり、経済の見方に対して厚みが出てきます。何十年もこのような見方で経済を見てきましたが、なかなか便利なツールです。

もうひとつおもしろい数字があります。日本は借金も多いですが、世界の中で最も金持ちだということを示す数字があります。それは、対外純資産の数字です。対外純資産とは、日本の政府や企業、個人が海外に持つ資産から負債を引いた数字です。つまり、海外に持っている借金なしの実質資産となります。2014年末で367兆円あります。これも同じように考えると、367÷500=0.73となるので、海外で0.73年、ほぼ9ヶ月間遊んで暮らせるということになります。この日本の対外純資産残高は3年連続過去最高の数字となっており、更に驚くことに24年連続世界一です。これは凄いことです。日本は借金も多いが、その借金はほとんど日本国民の資産であり、海外には借金なしの世界一の資産があるということです。このように、これら借金や、個人金融資産、対外純資産などの数字が新聞に出てきても、大きい数字だなということだけで終わらせずに、GDPとの比較で見てみると経済の見方が広がってきます。いろいろと応用してみて下さい。

参考までに2014年末の対外純資産ベスト5は以下の通りです。圧倒的に日本が多く、2位を大きく引き離しています。これが日本の実力です。いざという時に、この海外資産が日本に帰ってくるという事態になった場合には、もの凄く巨大な円高圧力になるということになります。2011年の東日本大震災の時は、海外投資家がこの日本の海外資産の国内還流(レパトリエーション)を警戒し、円高になりました。

対外純資産残高ベスト5 (2014年末)

1 日本 366兆8,560億円
2 中国 214兆3,063億円
3 ドイツ 154兆7,055億円
4 スイス  99兆5,413億円
5 香港  99兆5,354億円

株式時価総額591兆円

日本の株式市場の東証1部時価総額は5月に591兆円となり、バブルのピークだった1989年末の590兆円をついに抜きました。日経平均は1989年末(3万8,915円87銭)の半分程の水準ですが、東証1部に上場する企業数が約1,900社と1.6倍となったため時価総額が上回りました。バブル崩壊後、1992年には260兆円まで落ち込みましたが、その後じりじりと回復しピークを抜きました。その間のGDPは480兆円~500兆円の間で動いていました。ここでもこの『500』という数字が使えます。日本の株式はバブル崩壊後、GDPの半分強まで落ち込みましたが、現在ではGDPの1.2倍まで回復しました。

ちなみに急落している上海株の時価総額は33.85兆元(約681兆円)。深圳市場と合わせた両市場の時価総額は58.2兆元で中国の名目GDP(約63兆元、約1,267兆円)の約9割となっています。世界の株式の時価総額は9,000兆円。世界のGDP合計額とほぼ同水準となっています。リーマンショック後、世界の株式時価総額は25%ほど落ち込みましたが、その後各国中央銀行の金融緩和によって株式が上昇し、GDPと同水準にまで戻してきました。米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏は、この時価総額とGDPの比率は株価の加熱度合を見る物差しとして注目しており、「バフェットの指標」とも呼ばれています。日本の株式時価総額がGDPの1.2倍という数字は過熱しているのかどうか、ひとつの参考指標になります。

日本のGDP (国内総生産 Gross Domestic Product) 名目 500兆円

  • 日本の借金1,100兆円 (GDP比 2.2年、全国民が2.2年働いて返せる借金)
  • 個人の金融資産1,708兆円 (GDP比 3.4年、3.4年間遊んで暮らせる資産)
  • 対外純資産367兆円 (GDP比 0.73年、海外で0.7年遊んで暮らせる資産)

※対外純資産とは、日本の政府や企業、個人が海外に持つ資産から負債を引いた純質資
つまり、海外に持っている借金なしの実質資産

  • 東証1部時価総額591兆円 (GDP比1.2倍 バブル崩壊後1992年 260兆円)
  • 上海株時価総額33.85兆元(約681兆円)。
    深圳市場と合わせた両市場の時価総額は58.2兆元で中国の名目GDP(約63兆元、約1,267兆円)の約9割
  • 世界の株式時価総額9,000兆円。世界のGDP合計額とほぼ同水準
  • 「バフェットの指標」米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が注目する時価総額と
    GDPの比率→株価の加熱度合を見る物差し