年金基金の運用比率の見直し

前回、海外証券投資の増加の背景のひとつとして、公的年金を運用管理しているGPIF(年金積立金管理運用独立法人)の運用比率の見直しについて触れました。この運用比率の見直しは、海外証券投資だけではなく、国内債券や国内株にも影響を及ぼします。また、他の年金基金にも影響を及ぼしてきています。

下表は、GPIFの昨年9月末の資産比率と12月末の資産比率を表しています。12月末の資産比率は、10月末に見直しを決定した影響が出ており、今後の方向性を示しています。

  国内債 国内株 外国債券 外国株
 9月末の資産比率(%) 48.4 17.8 11.8 17.0
12月末の資産比率(%) 43.1 19.8 13.1 19.6
12月末の資産残高 59.6兆円 27.4兆円 18.2兆円 27.1兆円
比率変更後の目安 35% 25% 15% 25%
売買余力 ▲10.2兆円 3.1兆円 2.0兆円 5.1兆円

例えば、国内債は9月末と比べ5.3%減少しており、満期償還と売り越しの合計で約6.4兆円減らしたとみられています。そしてその減少分を国内株式(+2.0%)、外国債券(+1.3%)、外国株(+2.6%)に振り分けていることがわかります。この運用比率の見直しが、前回お話した海外証券投資の増加の原動力に年金資金が一役買ったという話になるわけです。年金全体で外債・外株投資は2014年末で前年比4兆円強増加したと言われています。

そして、更に運用比率見直し後の目安まで、その比率を伸ばしていくとなると、国内債券を10.2兆円減らし、国内株+3.1兆円、外国債券+2.0兆円、外国株+5.1兆円を増やしていくということになります。この目安は、今年度一杯を目標としているようですが、国内株と外国株を合わせて50%にするという目標は驚くばかりです。また、外国債券と外国株を合わせて7.1兆円という売買余力は、前年の年金全体の買い越し額を大きく上回ることになります。

売買余力一杯まで買うかどうかはわかりませんが、為替相場を予測する上では頭に入れておく数字のひとつになります。

共済年金の動き

公的年金を運用するGPIF以外に、共済年金を運用する機関があります。国家公務員の年金資産を運用する国家公務員共済組合連合会(2014年3月末運用資産7.6兆円)、地方公務員の年金を運用する地方公務員共済組合連合会(2014年3月末運用資産18.9兆円)、私立学校の教職員の年金を運用する日本私立学校振興・共済事業団(2014年3月末運用資産約3.8兆円)。

これら3共済合わせた30兆円の運用もGPIFと同じ運用目標を課されることになるため、資産構成の比率もGPIFと目安を合わせる必要が出てきました。

例えば、国家公務員共済組合連合会が発表した目安は、以下の通りとなります。

国家公務員共済組合連合会の資産構成比率見直し(2015年2月)

  国内債 国内株 外国債券 外国株
 現行の資産比率(%) 74 8 2 8
 見直し後の資産比率(%) 35 25 15 25

驚くべき変更です。国内債券を半減し、国内株は3倍、外国債券は7.5倍、外国株は3倍と国内債券投資に偏っていた運用を一気に是正するような見直しです。大幅な見直しになるため、影響を軽減する意味から実際の変更比率は上下30%の変動幅を適用するとのことですが、かなり大雑把な運用枠との印象です。しかし、GPIFの運用目標に合わせるためには、かなりのスピードで資産構成を変更していく必要があります。他の2共済もこの目安に合わせていくことが予想されます。ある試算によると、3共済の計30兆円の見直しによって、国内債券は13.8兆円の減少となり、国内株式は5.1兆円の買い増し、そして外債・外株投資は8.8兆円の買い増しの余力があるとのことです。

2014年の海外証券投資の買越額は13兆円。年金全体で4兆円、保険が4兆円、投信が4兆円という内訳でした。2015年の買越額を上記の試算に当てはめると、年金だけで15.9兆円と既に13兆円を超える規模になっています。上述した年金の売買余力は来年の3月までとの試算であることから、期間は1年超となりますが、そのことを差し引いても大きな数字です。これに生保の今年度の外債投資計画4兆円が加わり、投信も増えることが予想され、更に、地方自治体や企業の年金基金もGPIFの比率に合わせることが予想されます。これらは大きくはないですが増加要因となります。年金の動向も新聞に記事として掲載されており、また、年金の各ホームページにも運用状況が公表されていますので、売買余力に対してどのような実績なのか注意して見ておく必要があります。

GPIF (Government Pension Investment Fund、年金積立金管理運用独立行政法人)

  • 運用資産  137兆358億円   (2014年12月末)
  • 運用資産見直しによる売買余力  外国債券+2.0兆円、外国株+5.1兆円

3共済  運用資産   30兆円

  • 国家公務員共済組合連合会  運用資産 7.6兆円  (2014年3月末)
  • 地方公務員共済組合連合会  運用資産18.9兆円  (2014年3月末)
  • 日本私立学校振興・共済事業団  運用資産約  3.8兆円 (2014年3月末)
     
  • 運用資産見直しによる3共済の売買余力 外債・外株投資  +8.8兆円