期末の動き

日本の企業の中で大手の輸出・輸入企業の決算は3月が多いです。また、銀行や生保など機関投資家の年度末決算も3月が多いため、3月末は期末決算の着地に向けたドルの需給(ドル買いやドル売り)が偏った動きをしやすい時間帯になりがちです。特に決済玉の多くを占めるドル円は東京市場という時間帯で特異な動きをするため注意が必要です。

当日決済となる3月31日が最も注目される時間帯となりますが、スポット取引(決済)も多いため2営業日前の動きも注目が必要です。例えば、3月31日が期末日の場合、2営業日前の3月29日が31日決済のスポット取引日になるため、3月29日の時間帯の動きも注目しておく必要があります。更に注目すべき時間帯を広げると、3月に入ってから期末日までの間に生じる円高の日や円安の日に、期末日を待たずに決算対策として売り買いしてくることもあり、3月中頃から特異な動きをしてくる可能性があります。ここで述べている「特異な動き」とは、経済要因や政治要因で動くのではなく、あるいはそれら要因を無視して動く、期末特有の需給要因によって動くことを意味しています。

機関投資家

顧客から委託された資金を運用・管理する法人投資家の総称。具体的には、「生命保険会社」、「損害保険会社」、「信託銀行」、「投資顧問会社」、「投資信託会社」、「年金基金」など。大量の資金をまとめて運用するため市場に与える影響が大きい。また、ある局面では同じような投資行動パターンを取ることが多いため、市場が一方向に傾きやすくなることから機関投資家の動きには注目する必要があるが、市場に出現した後でしかその動きはわからない。後付けのニュースでも、どのあたりの相場水準で売買したかを知っておくことは、その後の相場予測の参考情報になる。証券以外にも債券や外国為替などにも投資するため、為替相場にも大きな影響を与えることがある。

スポット取引

外国為替市場での銀行間取引において、2営業日後を受渡日(決済日)とする外国為替取引の最も基本的な取引のこと。直物取引とも呼ばれる。当日が受渡日の為替取引(当日物)、翌日が受渡日の(翌日物)、3営業日以降に受渡しを行なうフォワード取引(先渡し取引)と区別される。フォワード取引に使用されるフォワードレートは2通貨の金利差を反映したレートで取引されるため、スポットレートとは別のレートで取引される。

スポット取引の2営業日の中で、各通貨国の休日があれば休日を勘案して決定される。例えばドル円の場合、月曜日に取引を行い、水曜日が米国休日の場合は、木曜日に決済となる。逆に日本が水曜日休日の場合も同様に木曜日に決済となり、日米の休日を含めない営業日で決済日が決定される。

期末日の公示レート(公示仲値)

期末日3月31日の一日の中で、最も注目すべき時間帯が午前10時前に銀行によって発表される公示レート(仲値)です。企業は、当日決済となる取引として、公示レートを使った取引をかなり行います。また、公示レートは企業にとっては年度決算の指標レートとして採用されることが多いため、この公示レートが決定される10時前後のドル円の為替レートは特に注目されています。

公示レート(公示仲値)

銀行で対顧客取引の基準となるレートのこと。各銀行は、午前10時前のインターバンク(銀行間取引)の実勢レートを参考に決定する。この基準になるレートのことを「仲値(TTM)」と呼ぶ。仲値決定後、この仲値に1円上乗せしたものをTTS(Telegraphic Transfer Selling の略、電信売相場)、1円差し引いたものをTTB(Telegraphic Transfer Buying の略、電信買相場)として、銀行が顧客に提示する当日の為替レートを公示レートと呼ぶ。銀行によって公示レートは異なる。企業は銀行に対して当日の公示レートでドル円の取引をしてほしいと、公示発表前に持ち込むことから、顧客からの持ち込み高がドル買い取引が多い銀行とドル売り銀行が多い銀行とでは公示レートは微妙に異なる傾向がある。

今年2015年3月31日の公示レート(仲値)は、120.27円(みずほ銀行公示)でした。今年は、公示決定前からドル円はじりじりと買われ、公示後もドル買いが出て、当日の高値120.37円をつけました。しかし、その後、今度は円転玉(円買い)が出て、ドルは売り押され、結局、東京時間の夕方になると120円を割れて119円台に下落しました。日本株が下落したことも影響していますが、公示後の企業のドル売り意欲も強かったことが要因と言われています。ドル売りには、輸出企業のドル代金の円転(ドル売り・円買い)もありますが、企業の海外現法からの利益や配当、海外で取得した特許料などの円転(ドル売り・円買い)などもあります。海外の外貨を国内に戻すことをレパトリエーション(国内回帰)と言いますが、このように期末日に向けてレパトリエーションが多いこともよくあります。

レパトリエーション ( Repatriation )

海外に投資されていた資金を本国に還流させること。レパトリエーション(Repatriation)とは、“本国へ帰還する”という意味の単語で、略してレパトリともいう。日本では3月決算が多いため、2月終わりから3月にかけて、企業が海外子会社などに保有している資金や利益、配当などを本国に戻す動きがある。また、金融機関や機関投資家などが海外資産(外貨建ての運用資産)を売却し、自国に資金を戻す傾向がある。レパトリは円高要因であり、一斉に起こると、かなりの通貨高要因になる。例えば、2011年3月11日の東日本大地震の直後、多額の保険金支払いが予想される保険会社や被災施設の復旧資金が必要な企業などが資金難になることからレパトリが増えるとの観測が生じ、ヘッジファンドなどの投機筋が乗っかって、円買いを加速させ、円高が一時進行した。これ以外にも何かの理由でその国が資金難に陥ると、レパトリが起こり(海外に外貨資産を持っていることが前提)、その国の通貨が高くなるということは留意しておく必要がある。ロシアが経済制裁や原油下落で資金難に陥り、海外資産のユーロを売ってルーブルに変えるレパトリが起こったというケースもある。

今年は、期末月のM&Aなどの大型案件がなかったため、期末月を通して一本調子の円安という事態にはならず、公示前後に買われ、その後は、輸出やレパトリエーションなどのドル売りによって円高となり、比較的静かな期末日でした。長年の経験の中では、悲惨な期末日もありました。ある会社が公示前に、大量のドル買い注文を複数の銀行に同時に発注したことから、マーケットにプライスがなくなり、ドルは暴騰し、銀行はカバーできず大損をしたことがありました。決算日に銀行が大損を出すということは許されない状況ですが、顧客の注文が来た時点では、大量に複数行に発注したということがわからなかったため避けることが出来ませんでした。この経験があるため、銀行は期末日にはかなり慎重に、いや神経質になっていると思われます。この経験をその場で体験したディーラーは、邦銀の中ではもうほとんどいないと思いますが、きっと先輩ディーラーからこの悲惨な期末日の話は受け継がれていると思います。

期初の動き

期初の動きの特徴は、やはり慎重になるということです。よく、新しい決算期が始まると、「よーいドンッ!」と言わんばかりに、例えば生保の外債投資が一気に出るなどとの話がありますが、せっかく年度が終わったばかりであり、今期に向けては慎重なスタートをするところが多いようです。また、日本の企業にとっては大きな人事異動もあるため、大きな取引は手控えられる傾向があります。人事異動が落ち着き、今年度の営業方針や投資方針が引き継がれ、本格的に動き出すのは5月に入ってからではないかと推測されます。従って、5月のゴールデンウィーク辺りは最初の要注意時間帯になります。

このように期末・期初の動きは、日本特有の動きがあるため、様子見傾向になりがちであり、決算も控えていることから不要不急の売買は手控えられる傾向があります。このことは、一般投資家も知っておいて損はありません。12月は、海外勢の多くが休暇を取るため、マーケットが閑散となり、相場が一方向に傾きやすいリスクがあるため取引が控えられ、3月は期末月という特殊な需給要因があるため、必要でない取引は控えられがちということは留意しておく必要があります。3月と12月は悩ましい月です。