世界のシンクタンク

世界経済や国際政治の流れ、また中長期的な為替相場を予測する上で世界のシンクタンクの発言や報告書は参考情報として役に立ちます。もちろん、各シンクタンクのホームページに入れば、詳細な情報を得ることが出来る場合もありますが、そうでなくとも新聞やメディアに、時々取り上げられていますので、それらの情報を関心をもって読んでおくと、分析の一助になります。

シンクタンク(Think Tank)は、米軍の「作戦を練る部屋」を意味する“think tank”に由来するといわれていますが、直訳すると頭脳集団ということになり、政府に対する政策立案や政策提言を主たる業務とする公共政策研究機関のことをいいます。

米国ペンシルベニア大学は、毎年、年初めに世界のシンクタンクの実力を調べたランキングを発表しています。今年も1月に、世界のシンクタンク6600団体を対象に、世界の政策担当者やジャーナリストら7500人に調査した結果をまとめました。シンクタンクの研究の質や評価、政策への影響力などの実力ランキング、トップ15は下表の通りです。

世界シンクタンク実力調査 2014年版

1 ブルッキングス研究所 米国・ワシントン
2 王立国際問題研究所(チャタムハウス) 英国・ロンドン
3 カーネギー国際平和基金 米国・ワシントン
4 戦略国際問題研究所(CSIS) 米国・ワシントン
5 ブリューゲル(Bruegel) ベルギー・ブリュッセル
6 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI) スウェーデン・ストックホルム
7 ランド研究所 米国・サンタモニカ
8 外交問題評議会(CFR) 米国・ニューヨーク
9 国際戦略研究所(IISS) 英国・ロンドン
10 ウッドロー・ウィルソン国際学術センター 米国・ワシントン
11 アムネスティ・インターナショナル(AI) 英国・ロンドン
12 トランスペアレンシー・インターナショナル(TI) ドイツ・ベルリン
13 日本国際問題研究所(JIIA) 日本・東京
14 ドイツ国際安全保障研究所(SWP) ドイツ・ベルリン
15 ピーターソン国際経済研究所(PIIE) 米国・ワシントン

(2014年米国ペンシルバニア大学「世界有力シンクタンク評価報告書」による)

トップは、米国のブルッキングス研究所であり、米国のシンクタンクはトップ10の内、6機関が入っています。英国はトップ10の内、2機関が入っており、米英でトップ10の内8機関を占めています。シンクタンクの世界でも米英の影響が大きいことを物語っています。

第6位のスウェーデンのストックホルム国際平和研究所は、スウェーデン議会によって設立された国際平和研究機関ですが、同研究所が毎年発刊する「軍備・軍縮年鑑」は、記述内容の客観性、正確性から国際的にも評価が高く、毎年日本の新聞にもその内容が取り上げられています。各国の軍備状況や核保有状況などを確認することが出来ます。

従来第5位だったストックホルム国際平和研究所を抜いたシンクタンクが第5位にランクされた「ブリューゲル」(Bruegel)です。「ブリューゲル」は、「ブリュッセル欧州世界経済研究所(Brussels European and Global Economic Laboratory)」の頭文字をつなげたもので、設立は2004年と若い研究機関ですが、最近注目されています。今後、欧州政治経済動向はますます注目度が高くなるので、そのうち新聞などにも取り上げられてくると思われます。

日本のトップは13位の日本国際問題研究所(JIIA)。国際問題や外交問題に強みがある元外務省所管のシンクタンクです。それ以外には第28位にアジア開発銀行研究所が入っています。アジア開発銀行のシンクタンクですが、日本政府が運営基金を拠出している研究機関です。

アジア勢ではトップ100に、中国が7機関(中国社会科学院〈27位〉)、韓国が4機関、シンガポールは3機関が入っていますが、欧米と比べるとまだまだ実力差があるようです。シンクタンクの世界では、米英が圧倒的であり、欧米とアジア勢では欧米が圧倒的、そして日本はアジア勢の中ではトップのシンクタンクを保有していますが、他のアジア勢のシンクタンクの成長も著しいため、やはり物言う国になるためにもシンクタンクにヒトと資金をもっと投資する必要があると思われます。そうでないと世界の中での(アジアの中でも)発言力が劣勢になってくるのではないかと懸念されます。

シンクタンクの研究員の発言

トップ10ぐらいまでのシンクタンクは、新聞やTVで時々取り上げられますので注意してみておいて下さい。例えば、ブルッキングス研究所の誰々の世界経済についてのコメントが新聞に出ているのを見つけた場合に、ブルッキングス研究所は世界最高評価、全米最大のシンクタンクであり、米国の戦略に影響を与えるシンクタンク、その研究者のコメントという見方をすれば、記事の読み方が変わってくると思います。このようにシンクタンクの報告書や見解、その研究員の発言は、その国の政策に何らかの影響を与えているかもしれないと思って読むと、見方が変わってきます。

1985年のプラザ合意以降、第15位のピーターソン国際経済研究所のバーグステン所長の発言が非常に注目された時期があります。260円から円高が進む過程で、常に円はまだ何割か過小評価されていると繰り返し発言していました。その後現実にその水準に到達したことから同氏の発言は常に注目されるようになりました。今でも、時々日本のメディアに登場してくることがあるので、必ずその発言はチェックするようにしています。このように欧米人のインタビュー記事や発言は、必ず肩書をチェックし、それも現在の肩書だけでなく、経歴が触れてあれば過去の肩書もチェックすることをお勧めします。その発言者の現在の所属先はどこか、過去の所属先はどこかいうことは重要なチェックポイントになります。